役職名
「アルス様、一応要求されたものは書き出しておきましたよ」
「ありがとう、リオン。仕事が速いな」
「ええ、なんと言ってもリード家の魔法がありますからね。王都圏でいろいろ活動していたときに情報を集めていたのも大きいですが」
「いや、助かったよ。リオンが勤勉なやつで助かった。まさか、王都に行っていたときにかつての王政の仕組みなんかを調べているとは思わなかったからな」
「アルス様の影響でもありますけどね。行く先々で本を収集されているでしょう? 私もアルス様のやっていることを見ていたので、つい初めて行った土地では古い文献などを調べるようにしているのです」
「なるほどな。それで歴史書なんかの文献についてもよく知っているのか。リリーナも本好きだけど、リオンもよく勉強しているよ。で、これがかつて行われていた王家と貴族の政治体制か」
「そうですね。細かい部分はその時代によってもさまざまです。が、王を頂点として上級貴族と下級貴族に分かれていたようですね。上級貴族が政治に参画して、下級貴族は実務を執り行うことが主だったようです。フォンターナ家もその王国運営をそれらをもとに作ることになるかと思いますが、それでよろしいですか?」
「うーん、難しいところだな。今はこんな世の中だから、なるべく素早く軍を運用できるようにしておきたい。そうじゃないと王国を作っても守っていけないし」
「では、全く新しい政治体制をとるおつもりですか? そうなると、混乱することになるかもしれませんが」
「だよなぁ……。まあ、とりあえず規範となるのはフォンターナ憲章だ。それを中心に国造りをする。ガロード様が王位につくが、王であってもフォンターナ憲章を守ってもらうことになる。これからのフォンターナ王国は力のある人物ではなく、王国の決まり事が中心に位置することになるだろう」
「確かにそのほうがいいでしょうね。それにあまり王国らしさを出そうとして奇抜なことをしないほうがいいかもしれません」
「ん? どういうことだ?」
「私は個人的にフォンターナ憲章をすごく評価しています。一番良い点は王の下についても、貴族や更にその下の騎士たち、あるいは平民であっても権利が保障されているという点でしょう。これがすごくいい」
「まあ、そうだろうな。誰だって自分のものを理不尽に取り上げられたりしたら嫌だろうし」
「いえ、それだけではありません。この配下の保護はもっと別の効果も生み出すのではないかと思うのですよ」
「別の効果?」
「はい。それは他の貴族家や騎士家を取り込みやすくする意味があるのではないかということです」
「……ああ、なるほど。他の勢力を吸収しやすいってことか」
「そうです。フォンターナはこれから王国として歩んでいくことになるでしょうが、前途は多難です。おそらくは、多くの貴族家と、そして王家とも対決していくことになるかと思います。そして、それを乗り越えていくには戦いで勝つだけでは不足です。味方を増やしていく必要があると私は思います」
「同感だ、リオン。敵対貴族とは戦うこともあるだろうが、できれば、調略なんかで優秀な人材や有力な勢力はそのままフォンターナに取り込んだほうが得策だ。そういう意味では、フォンターナ憲章という決まりがすでにあって、権利の保護を明確にしているのは大きな意味があるのか」
「そう思います。もしも、現在独自の地盤をもつ貴族家がフォンターナ家に帰順するかどうかを考えたときに、自分たちの土地や権利、財産を保障してくれる規約が存在するのであればこちらに味方しやすいでしょう。フォンターナ憲章は必ず王国の助けになるはずです」
「ま、それもある程度独立を保ってからだな。いくら権利の保護を謳っていても、あっさりと攻め落とされるような弱い国ならなんの意味もない。となると、やっぱり王国作りで一番重要なのは防衛力かな」
フォンターナを貴族領から王国に変える。
そのために、教会に塩の委託販売を条件に戴冠式を執り行うように工作をした。
そして、その他に必要なのが国家としての体面だった。
今までのようにひとつの貴族家とその配下の騎士という状態では王家と話をする際に格下に見られてしまう。
そのために、フォンターナ王国の中核を担うメンバーにはそれなりの役職を割り振ることが一番だろうとなったのだ。
が、どんな役職があるのか、どれがどのくらいの位置づけなのかというのが俺にはよくわからなかった。
それを解決してくれたのがリオンの持つ知識だった。
リオンは王都圏で活動していた際に王都圏のいろんな貴族と会い、そして、そこで古い資料なども見させてもらい勉強していたそうなのだ。
そこにはかつて王家に力があり、貴族を従えて政治を執り行っていた時代のことも多く記されていた。
今のような乱世で各貴族が自分たちの都合の良いように領地を切り盛りしているのとは違い、役職ごとに分かれた貴族が王を中心に政治をしていたのだ。
おそらくはフォンターナに残っていた情報量よりも多い知識をリオンは持っている。
そのときの役職名などを教えてもらい、それを割り当てていく。
が、まあ現状ではあくまでも名前だけのものに近い。
しかし、それでも俺はフォンターナ王国の宰相兼大将軍という役職名になった。
文官と武官の両方を牛耳るとんでもない役職の独占ではあるが、国王のガロードが幼く、王家と対等に話をしたい場合にはこれくらいの役職でないと意味がないだろうということで、俺がこの位置に収まることに一応周囲も納得した。
そんな話をしているときに、ふとリオンが言ったこと。
それはフォンターナ憲章の持つ効果についてだった。
リオンがいうには、他の勢力を取り込もうとしたとき、戦いで力ずくで従えるだけではなく、調略などで取り込む際にこれらのルールブックがあったほうが仲間になりやすいのではないかということだった。
そう言われてみればたしかにそうかも知れない。
フォンターナに服属しても、むやみにあれこれ持っていかれないと分かれば、機を見るに敏な者であれば自分から仲間になるかもしれない。
が、まあ、それもしっかりとした王国を作り上げてからだろう。
こうして、リオンと話しながら対外的に有効そうな役職名をどんどん割り振りながら、新たな国を建国する準備が進んでいったのだった。
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