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魔法建築

「なあ、アルス。いっこだけ言ってもいいか?」


「なんだよ、バイト兄」


「お前の隠れ家ってすっげえダサいよな。牢屋みたいだぞ、これ」


 仕事の手伝いを正式にしてもらうことになった俺の兄であるバイトに暴言をはかれた。

 俺が作った隠れ家にケチを付けるか。

 だが、言わんとすることもわからんでもない。

 というか、ほんとに牢屋みたいなのだ。


 俺の隠れ家は森を開拓した際に作った建物だった。

 この隠れ家を作ったときは、家から離れた森のなかに作るために時間と手間がかかるのをきらって魔法で手早く作り上げたのだ。

 だが、建物を一気に作ると失敗してしまう。

 そこで、建物そのものではなく壁を作り上げたのだ。


 高さ5m、幅5mという壁をドンドンドンと3つ、コの字になるように整地した地面から垂直にたてた。

 そして、あとはもう一つの壁をアーチ状の入り口のあるものにしてロの字の形にしたのだ。

 地面と接地していない屋根だけはレンガを作って自分で重ねていくという手間のかかったものだ。


 ようするに、俺が作った隠れ家はキューブ型、あるいは豆腐建築なんて呼べるクソダサ建築だったのだ。

 ちなみに壁の厚さは2m近くある。

 そのため牢屋のようだというのもあながち間違っていないかもしれない。


「……俺をナメるなよ、バイト兄。俺は日々成長する男なんだよ」


 今まで隠れ家を使うのは俺の他にヴァルキリーたちだけだったので、あまり気にしたこともなかった。

 だが、確かにこのままでは良くない。

 広い土地を持っていて牢屋がぽつんとあるのでは格好がつかないだろうし。

 こうして、兄の一言から俺は隠れ家のリフォームへと乗り出したのだった。




 ※ ※ ※




「まずは、あの方法を試してみるか」


 隠れ家のことは別にして、建築について興味をひかれる出来事は以前にもあった。

 それは行商人と一緒に街に出たときのことだった。

 俺たちが行った街では木造建築は全然なく、ほとんどのものがレンガ造りの建物だった。

 そして、街では外周にある壁を拡張工事しているところであり、常にどこかで建築に関わる人を目にしていたのだ。

 その街で俺の作ったレンガも使用されている。

 そう知ったら、どういう風に作られているか気になるのは自然のことだった。


 俺と父が宿泊した宿は新築だった。

 拡張工事をしている労働者ではなく、商人が泊まるためのものだが、拡張工事という好景気から最近作られたものだったそうだ。

 俺はその宿に注目したのだった。


 宿はそこまで大きいものというわけではない。

 道路に面したところに玄関があるが、横幅はそこまで広くなく、奥へ続くタイプの建物だった。

 建物自体は2階建てであり、玄関を入ると受付カウンターがあり、カウンターの隣には階段がある。

 1階部分はカウンターの奥が食堂、厨房、そしてマスターの生活部屋だ。

 2階に上がると部屋が廊下の片側に並んでいる。

 部屋数は6だが、一つひとつはそこまで広くない。

 ベッドでも置けば、部屋のスペースは半分がなくなってしまうくらいの広さだった。


 俺はその時泊まった宿屋をしっかりと観察していた。

 ただ見て回っただけではない。

 魔力を使って調査したのだった。


 やり方は練り上げた魔力を宿屋に使われているレンガに染み込ませるようにして、建物全体に薄く広げていったのだ。

 俺が土系統へのものに魔力の馴染みが良いというのもあったのだろう。

 レンガへはそれほど苦労することなく魔力が染み込んでいき、それほど時間もかからず建物全体へと魔力を送り込むことに成功した。

 そして、その状態で魔法を発動させたのだ。

 【記憶保存】の魔法を。


 たまたま宿屋に泊まったときに思いついて試しただけだった。

 だが、これが思いのほかうまくいった。

 俺は瞬時に建物全体の形を、寸分の狂いもなく覚えることに成功したのだ。

 よくコンピューターでCGを使って建物予想図を表示する方法があるが、それに近いのかもしれない。

 全体のグラフィックが脳内にインプットされている状態になったのだ。


 この完璧に記憶した宿屋を作れば兄も驚くに違いない。

 そう考えた俺は宿屋再現実験を行うことに決めたのだった。




 ※ ※ ※




 初めて魔法で建物を作ろうとしたときには、魔力がすべてなくなってしまい気絶してしまった。

 そのときに得た教訓は、建物は面積や建材の量ではなく、空間容量によって魔力消費が違ってくるという仮説をたてた。

 それはおそらく間違いではないと思う。

 だが、今回はその仮説を脱却して建物を一気に建ててみようと思う。


 その考えのもとになったのは、宿屋の構造把握に魔力と【記憶保存】を使ったことが関係している。

 現実に存在する建物に使われたレンガに魔力を通し、建築物を把握し、それを完璧に記憶した。

 そう、このときの俺は魔力を空間全体ではなく、建物の形にあわせて記憶していたのだ。


 思うに、俺が脳内でイメージした建物を作ろうとした場合、内部空間がどうなっているのかはっきりと意識していなかったように思う。

 イメージしていたのは常に外から建物を見た姿だったのだ。

 これが無駄に魔力を消費していた原因になっている気がする。


 だが、今回は実物を丸々記憶したので、内部の構造は階段からカウンターの幅まで完全に覚えている。

 であるならば、あとは魔力をその形に再現してから魔法を使えば、魔力の無駄遣いをせずにすむのではないだろうか。


 そう考えた俺は静かに魔力を練り上げ、その魔力を一度地面の土へと流し込んだ。

 宿屋に使用する土へと魔力を送り込む。

 なんとなくだが、今までの魔法使用経験から、無駄遣いがなければ建築できる魔力量だと感じる。


 スーハーと息を整える。

 意識を集中して、魔力操作を続けた。

 以前、魔法陣を覚えて自分で使うときには苦労した。

 あのときは目で見た魔法陣を自力で再現するというところが難しかったのだと思う。

 しかし、今回は違う。

 建物を覚えたのは視覚情報ではなく、魔力によってだからだ。

 覚えた魔力の形を再現すればいい。

 宿屋の構造そのままに魔力の形を変化させていく。

 時間をかけて丁寧に、しかし、魔法陣ほど疲れることもなくスムーズに再現していく。


 最後まで集中を切らすことなく魔力で建物を作り上げ、最後の仕上げにその魔力をレンガという形あるものへと変換する。


「……できた。成功だ」


 こうして、俺は恐ろしいほどの短時間で宿屋を作り上げたのだった。

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