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事前対策

「それで、貴殿はその王命に対してどのように返答する気なのかね?」


「王命の内容はフォンターナ家が覇権貴族となり王家と同盟を結ぶことです。そして、その後、フォンターナ軍を王都圏に置いて周辺の貴族間の問題を解決すること。現実的に考えてそんなこと無理がありすぎますよ、ピーチャ殿」


「では、貴殿はその王命を断る、ということになるのか」


「いえ、断るのも角が立つかもしれないのがなんとも困るところです。ですので、言い方は悪いですが、王命は利用しようと考えています」


「利用? 王命をか?」


「そうです。王命を伝えに来た使者に対してはこう答えます。その命令を受けたいが、最近また北の森の奥で不死者を目撃したかもしれないという不確定情報があり、不死者に対応するために今はフォンターナ領を離れることはできないと答えるのです」


「……不死者は本当にいるのかな? そうであれば、たしかに領地を治める騎士として、あまり領地を離れるわけにはいかないが……」


「目撃者がいたため目下確認中である、とします。万が一を考えて、不死者の有無がはっきりするまで領地を離れられないというのがここでは重要なのですよ」


「なるほど。しかし、それは断り文句としては使えても、王命を利用するということにはならないのではないかな?」


「ここまでならそうでしょうね。ですので続きがあります。フォンターナ家は覇権貴族としては動けずとも、周辺の動乱を抑えるために動くことを約束するのですよ」


「周辺を抑える、というのはつまり我らフォンターナ領の周りの貴族領を抑えるという意味か。……そうか。王命を大義名分として利用しようというわけか」


「そういうことです。王都圏まで軍を引っ張っていくことはできないが、なんとか北部だけでも土地を安定させるために動きますと答える。メメント家とも迷宮街譲渡の際に北部への不干渉を取り付けているのでこれからは動きやすくなるはずです」


「メメント家との約束はカーマス領の切り取りで果たされたのではないのかね?」


「いえ、あくまでも北部の貴族領とフォンターナ家との間の問題に対して干渉しないようにという話を取り付けています。なので、カーマス家以外にもそれは当然適用されてしかるべきですよ」


「……ふむ。つまり、話をまとめるとフォンターナ家としては王家の使者に王命を伝えられた際には不死者の存在をにおわせて動けないものの、北部を安定化させるためには動くということか。その考えは悪くないと思う」


「賛同していただいてありがとうございます、ピーチャ殿。で、ここからもう一つ気にかけておくべきことがあるというのがリオンの意見です」


「まだなにか気になることがあるのかな?」


「はい。リオンが言うには王命を携えた使者を送るほどなら、やはりなんとしてもフォンターナ家を引っ張り出したいと考えるのが普通だそうです。そのためには向こうはどう動くかというと、報酬を提示する可能性があるようです」


「報酬? 王家からなにか頂戴できるものがあるのだろうか」


「可能性として一番大きいのは、地位、でしょうね。もしかしたら、騎士から貴族へと取り立てるという話があるかもしれないということです」


 リオンの考えをピーチャへと話す。

 ピーチャはバルガスと同じ戦場を駆け抜けて出世を続けてきた元農民なのだが、今いるフォンターナの当主級の中では話がわかる人間でもある。

 同じように旧ウルク領の一部を与えられたビルマの騎士エランスなどはもっと領地を広げたいという欲が強い。

 が、ピーチャは元レイモンドの子飼いの騎士だったにもかかわらず、カルロスに認められてアインラッド領をもらったことを誇りに思い、今は恩を返そうという意思が強いようだ。

 そのためか、アインラッド軍は治安維持のための必要最小限に抑えて、フォンターナ軍に仕官し、将軍としてひとつの軍を率いることに決めたのだ。

 カルロスの遺児ガロードのために、フォンターナ軍で活動しようというわけだろう。


 だからこそ、この話を使者が来る前に話し合える。

 王家の使者はもしかしたらフォンターナの騎士を貴族へと取り立てる可能性があるというものである。

 現在、いくつもの貴族領というのが存在しているが、その多くが「王家が貴族として認めた」ことによって貴族たり得ている。

 つまり、独自の魔法を持つ家であっても、王家が貴族として領地の所領を認めていない限りは土地の不法占拠と同じなのだ。

 実効支配をするだけなら力さえあれば可能だが、名目上であっても王家から正式に地位を認めていないと軍を構成する農民が集まりにくいなどといったデメリットがある。

 なので、貴族家のほとんどは王家から貴族であるという証明をもらっているのだ。


 使者はそこをついてくるのではないかとリオンは言った。

 例えば、俺に対して「今ならバルカ家を正式に貴族にしますよ」と囁いてくるかもしれないのだ。

 だが、そんな目先のことに飛びついてしまったら、俺の未来は王家のために使い潰されてしまうだろう。

 が、それに飛びつくかもしれない者がいないとも限らない。


 独自魔法を持つバイト兄のバルト家やカイルのリード家、あるいはもしかしたら生き残りがいないとも限らないウルク家やアーバレスト家の人間を見つけ出して神輿に担いで、フォンターナの騎士たちをそそのかすかもしれないのだ。

 人間誰しも欲がある。

 自分が、あるいは婚姻関係を結んで自分の子孫が貴族になれるかもしれないと考えたとき、フォンターナの騎士の中にはその話に飛びつく者がいるかも知れない。

 だが、そんなことは許されない。

 フォンターナ家が独立して自分たちのことは自分たちで決めるためには、一致団結して行動していく必要があるのだ。


「つまり、貴殿はこう言いたいのだな。フォンターナの騎士は王家からいかなる誘いがあっても受けてはいけない、と」


「そうです、ピーチャ殿。王家を含めた他家からはどんな物を受け取ってもいけません。たとえそれが他貴族からの手紙だったとしても、フォンターナ家に報告するように決まりを作りましょう。騎士の勝手な判断でフォンターナが危機に陥ることだけは避けなければなりませんから」


「なるほど。だからこうして事前にこちらへと話を持ってきたのか。では、そのことをフォンターナ憲章に新たに書き加えることにしよう。臨時評議会が必要だな」


「ええ。今回はピーチャ殿が評議会の開催を提案してください。お願いできますか?」


「心得た」


 こうして、フォンターナ憲章には騎士に対しての禁則事項として、他家からの報酬の受け取り禁止や手紙などの情報を上に上げる義務などが追加された。

 そして、そうこうしているうちに王家からの使者がフォンターナの街へとやってきたのだった。

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