不安払拭
「リリーナ、大丈夫か?」
「はい。……すみません、アルス様。このたびは大変なご迷惑をおかけしました」
「何度も言っているけど双子を産んだことだったら気にするな。リリーナが悪いわけでもないし、産まれてきた子に問題があるわけじゃない。それにもう手を打ったから大丈夫だって」
「ありがとうございます。そうですね。お母様にはよろしくお伝えください。私が直接伺うわけにはいかないでしょうし」
「分かっているよ。そうだな。たまにカイルが【念写】で写した姿絵を見せてあげるよ。あの子が大きくなっていく姿を見られればリリーナも安心するだろうし」
「それは良い考えですね。ありがとうございます。それなら、生き残った私たちの子どもも姿絵を作りましょう。きっといい記念になるかと思います」
「そうだな。そうしようか」
子どもを産んだリリーナは貴族や騎士的にはあまり良くない印象の強い双子を産んだことでかなりショックを受けていた。
ずっと俺に向かって謝るのだ。
そんなところに、産まれた子のうちの一人を死んだことにして隠すのはどうかと提案するのは少々勇気が必要だった。
だが、ほかに良い方法もなさそうだったので逃げること無く正面からこの提案をリリーナに話したのだ。
結果的にはこの判断は良かったようだ。
もしかしたら子どもを亡くすことになる、あるいは会えないことになることが精神的不安になり、ヒステリーでも起こさないかとヒヤヒヤしたのだが、そうはならなかった。
具体的な対策を示すことができたことで、逆に精神的には安定したようだ。
が、まだ出産直後でいろいろと疲れていることだろう。
もう少し注意して見守る必要があるかもしれない。
俺の方はというと割と気楽なものだった。
もともとが双子がだめなどという価値観を持っていなかったこともある。
一人は手元で育てられないということに関しても、両親に孫を見せられてよかったなぐらいな気分で済んでいる。
というか、今の俺の地位的には子どもがどこで育とうが、自分の手を使って育児をすることにはならないのだ。
バルカ城ではリリーナが乳母を選んで世話をさせるし、母さんも同じような感じで育てる。
イクメンパパとして子どもの世話をしようとしていたら止められるくらいなのだ。
なので、実質的には自分の子が二箇所に分かれて保育されている、くらいな認識なのだ。
まあ、産まれた子にしてみれば生活の環境や将来が変わることになるので大きな違いなのかもしれないが。
どちらかというと、俺の方は少しホッとしたという面が大きいかもしれない。
なんと言っても、俺が死んでもバルカの魔法はとりあえず残ることになるのだ。
子どもがない状態で死ねば、バルカ騎士領だけではなく、バイト兄やバルガスにも大きな影響が出る。
それはひいては拡大したフォンターナ領全体の問題とつながるのだ。
それがクリアできたという点は大きい。
もっとも今でも死ぬのは嫌なので、そんな未来が来ないように頑張るのだが。
「そうだ。いろいろあったけど、無事に子どもが産まれたんだ。適当な時期を見計らって生誕祭でもしようか」
「そうですね。騎士は自身の後継者に産まれた後に名をつけることになります。双子が産まれたことですっかりと忘れていましたが、この子の幼名はアルフォードで良いでしょうか、アルス様」
「ああ。この子の名はアルフォードだ。元気に育ってくれることを祈ろう」
俺の子の名前。
農家などだと名前というのは6歳になった年に教会の洗礼式で授かることになる。
そして、それは騎士家であっても同様だ。
だが、騎士家では教会によって名付けられる前に幼名をつけるという風習があるようだ。
これはすでにパウロ大司教とも相談して、いずれ来るであろう洗礼式でつけられる名前の前借りというか事前予約のように名前を決めていた。
その名はアルフォード。
アルスという俺の名から少し名を与えてつけた。
事前に考えていたアルフォードという名前は双子が産まれたことによって、どちらの子につけるかわからない状態になっていたので、ここで正式にこの子の名前が決まったということになる。
ちなみに母さんに預けた方の俺の弟も実は名前を決めていたりする。
彼の場合は洗礼式で正式に決定することになるが、アルフォンスという名前になることだろう。
もろもろのあまりおおっぴらにできないことを済ませた後、俺は他の人たちに対して正式に子どもが産まれたことを伝えていった。
今までは俺という異分子によってもたらされたバルカの魔法だったが、後継者ができたことである程度安定性のあるものへと変わったという認識につながってくるだろう。
これまでは俺に対して忠誠を誓って名付けを受けても、俺がどこかで戦死でもすれば一瞬にして騎士の資格が無くなるのではないかという不安がある者も多かったようだ。
後継者問題はそれを払拭することができる。
こうして、ようやくバルカという勢力はしっかりとした地盤をフォンターナ領に築くことに成功したのだった。
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