双子問題
「なるほど。双子が産まれたのですか」
「ええ。そうなんですよ、パウロ大司教。一応、俺としては双子はしっかりと育てていくつもりです。あとになって面倒なことになる可能性もあるかもしれないけど、どちらかが早死してしまう可能性もあるわけですし」
「そうですね。感情面を抜いて考えれば、今の貴方の境遇で後継者候補が二人いるということ自体は悪い話ではないと思います」
「やっぱりそうですよね。で、この場合、一番の問題なのは双子のどちらが継承権の上位に位置するのかってことだと思うんですよね。調べる方法とかはないんですか?」
「継承権については、残念ですが調べる方法はありません。貴方が亡くなった後に自然と引き継ぐほうが上位だったとあとになって判明する以外に知る由もないでしょう」
「……ってことは、やっぱり生前にどちらかの子に魔法を引き継ぐほうが無難ですかね?」
「双子をしっかりと育てていくと決めているのであれば、そうするのが一番だと私も思います。6歳の洗礼式以降でどちらかの子を後継者に決めなさい。ですが、それは子どもにとって辛いことですよ。あなたはわかっているのですか、アルス?」
「辛い? バルカ家の後継者になれないことがですか?」
「いえ、違います。選ばれなかったという事実そのものがですよ。その子は必ずこう思うでしょう。なぜ自分が選ばれなかったのか。どうして父や周囲の者は自分を認めてくれないのか。なぜ同時に産まれてきたはずのもうひとりの兄弟が全く同じはずの自分のよりも優れていることになるのか。感傷的になるのは間違いないかと思います」
「……そう聞くと成長段階で屈折しそうですね」
「その可能性がないとは言えません。それに周囲の者もどう行動するかわかりませんよ。人間誰しも欲というものがあります。どちらか片方に入れ知恵して悪影響を与えることもあるかもしれません」
「いや、あんまり脅かさないでくださいよ、パウロ大司教。せっかく双子を健やかに育てようと心に決めたのにだんだん不安になってきたんですけど」
「しっかりしなさい、アルス。あなたは父親である前にバルカ騎士家の当主でしょう。私が今言ったことは決して杞憂というわけではありません。貴族や騎士の双子問題というのはそれだけ根深いものがあるのです。先程の内容はすべて先例があるのですから」
「うーん、さすがに子育てに自信があるわけじゃないからな……。自分が同じ立場で選ばれなかったら絶対グレる気がするし。どうしたらいいんでしょうかね」
「私にひとつ、考えがあります。あなたの双子をふたりとも生かすことができ、かつ、心に闇を抱えること無く、周囲に利用されないようにする方法が」
「本当ですか、パウロ大司教? どうやるんですか?」
「あなたは今すぐバルカニアに帰り、双子のうちの一人を死んだことにするのですよ」
「はい? 死んだことにする?」
「そうです。双子が産まれたことはすでに知られているでしょう。そこで、片方の子が産まれてすぐに亡くなったことにするのです。そうすれば、継承権を持つ者は残ったもうひとりで決まりです。周囲が双子を材料にした動きをとることはなくなります」
「それはそうかも知れないですけど、前提条件が崩れるでしょう。ふたりとも育てていきたいって話だったんですよ?」
「悪いことは言いません。双子をふたりとも手元で育てることは諦めなさい。ひとりはあなたが、もうひとりの子はあなたの母に預けなさい」
「母さんに?」
「そうです。あなたの父母はいまだ心身ともに健康です。まだ新たな子を宿したとしてもおかしくはありません。双子のうちのひとりはあなたの母のマリーが自分の子供、つまりあなたの兄弟として育てるのです。そうすれば、仮にあなたが手元で育てた子に不幸があっても、その代わりになることもできます」
貴族や騎士の社会では忌み子として扱われる双子。
俺の子どもはそんな悪いイメージがこびりついている社会に生まれてきた。
俺としては双子だからといって、それが悪いことであるとは到底思えない。
なので、気にせずに育てるつもりだった。
だが、周囲の目というのは常に意識しておく必要がある。
後継者問題として必ず揉めると言われる双子を育てると大々的に発表すれば、それがいわれなき誹謗中傷に繋がる可能性もあるのだ。
騎士として危機管理ができないものが当主代行など務まるものか、などと言われる可能性もある。
リオンなどはその点についても心配していた。
なので、俺は別の人の意見を聞くために一度フォンターナの街に戻ってきていた。
この手の話で一番詳しそうで、かつ信頼できて、口が堅い相手。
それがパウロ大司教だった。
そのパウロ大司教の助言は実にシンプルだった。
俺の身に何かあったときのために継承権を持つ者は複数いたほうがいいという考え。
そして、それをクリアしつつ、周りからあれこれちょっかいを出させない方法。
それが、双子の片方を俺の母親にあずけて、親の子ども、つまり、俺の兄弟として育ててしまえというものだった。
その子には悪いが、身分は隠す。
あくまでも父さんと母さんの子どもとして育てていくことになる。
だが、結局はそれが一番いいような気がした。
リオンにもこの話を相談したところ、パウロ大司教の意見に賛成だった。
そこで、俺はこのパウロ大司教発案の子ども隠し計画を実行に移すことになった。
こうして、俺は我が子が産まれた直後に子を亡くし、同日に兄弟が誕生したことになったのだった。
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