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リオンの帰還

「お久しぶりです、アルス様。ただいま帰りました」


「本当に久しぶりだな、リオン。無事に帰ってきてくれて嬉しいよ。今まで王都圏での活動ありがとう。フォンターナ領にとって非常に大きな働きだったよ」


「そう言っていただけて嬉しいです。カルロス様をお守りすることもできず、生き恥を晒してきたかいがあったということですね」


「恥だなんてとんでもないよ。リオンがいなければフォンターナ領はとても持たなかった。リオンが領地から離れた場所で孤軍奮闘してくれたからこそ、今のフォンターナ領があるんだ。ありがとう」


「いえ……、ありがとうございます、アルス様。リオン・フォン・グラハムはこれからもフォンターナ家のために身を粉にして働くことをここに誓います」


「よろしく頼む。亡くなったカルロス様も喜ぶだろう。ガロード様にも会っていってくれよな」


「ええ。今はバルカニアにいるのですね? ……それに姉さんも身ごもったという話でしたが」


「そうなんだよ、リオン。もう少しすればリリーナも出産予定日になるはずだ。時間が許すならぜひ俺の子を抱いていってくれよな」


「ええ。ぜひ、そうさせてください」


 新年を迎えてからも続いていたフォンターナ憲章作りのための評議会が閉幕した。

 今までの慣習を明文化しつつ、新たな決まりを制定したフォンターナ憲章は今後も評議会などで話し合い、改良されていくだろう。

 が、それも冬が明けて雪が融け始めた頃に一度休憩タイムを挟むことになったわけだ。

 そして、その直後にフォンターナの街へとリオンが帰ってきた。


 かつて、カルロスとともに王の護送でフォンターナ領を出てから、ずっとフォンターナ領外で活動してきたリオン。

 自身の領地を離れて行動するということはそれだけ様々なリスクがあるはずだ。

 だが、それにもかかわらずリゾルテ家との南北同盟の締結から始まり、王都圏でのコネ作りやパーシバル家の糾弾などの様々な仕事をこなしてくれた。

 ここ数年で一番フォンターナのために働いたのは誰かといえば、それは間違いなくリオンをおいて他ならないだろう。

 リオンには報酬としてグラハム領の加増をすることにしている。


 そんなリオンがフォンターナに戻ってきた理由のひとつにリリーナの懐妊というものがあった。

 すでに両親なども他界しているリオンにとって、実の姉のリリーナの妊娠出産は大きな出来事であるということだろう。

 そろそろフォンターナにも戻らなければというタイミングで吉兆があったため、戻ってきたということだ。


 そのリオンをまずはフォンターナの街で当主代行として迎え入れる。

 そして、その足で一緒にフォンターナの街からバルカニアまで行くことにした。

 今までの近況などを話し合いながら歩く。


「そういえば、リオンの奥さんはどうしているんだ? リゾルテ家の関係者と結婚していたはずだろ」


「はい、そうです。今、妻はリゾルテ領の実家で生活しています」


「そうか。なんか悪いな。南北同盟のためとはいえ、リオンがそんな遠い土地の人と結婚することになっちまって」


「いえ、大丈夫ですよ、アルス様。必要ならば誰が相手でも結ばれる。それが騎士として生きるということでもありますから」


「……そうか? 割と自由人も多いと思うけど」


「アルス様ほどの自由な人にそう言われると困りますね。ただ、騎士家の人間であれば普通は本人の意思とは関係なく決められた相手と結婚することになるものです。それが今回私の場合はリゾルテ家の縁者だったというだけです。妻のことは人並みに愛していますよ」


「まあ、俺もリリーナとは会ったそのすぐに結婚話がまとまったしな。案外そういうもんかもしれないか」


「そういうものでしょう。それよりも、フォンターナは随分雰囲気が変わりましたね。私がいない間にいろいろと変化も大きかったようですし」


「そうだな。リオンがフォンターナ領を離れている間に、南のカーマス領を切り取ったし、線路なんかも作ったし、フォンターナの街は城も教会も新しく建築中だからな。いろいろ変わったと言えばそうだろうな」


「それだけではありませんよ。他の土地をいくつも見てきたからこそわかることがあります。今のフォンターナ領は人の笑顔が多いと思います」


「笑顔が?」


「はい。他の土地では少なからずそこに住む人々の顔に影が差していました。満足に食べることもできずに、加えて、長い戦乱が続いているからです。多くの人々は生きることに絶望するほどに疲れ切っているのですよ」


「絶望って、そこまでひどいのか……」


「まあ、だからこそ戦って食べ物などを得ようと考えるというのもあるのでしょうね。それが戦乱を長引かせ、終わらなくさせているのです。ですが、フォンターナ領はそうではありません。多くの人が飢えから逃れて、活力ある生活を営んでいる。だからこそ、笑顔が自然と出てくるのでしょう」


「なるほど。まあ、一応土地の収穫量は右肩上がりだからな。去年は地震のために減税したし、割と麦の値段が低めになるほどに食べ物があるし」


「その地震の影響を抑えているのもすごいですね。パーシバル家の影響下にあった貴族領の一部は地震の影響で立ちいかなくなるところもあったようですよ。フォンターナ家も影響があったにもかかわらず、それを最小限に抑えているのは即座に動いたアルス様の行動が見事だったのだと思います」


「地震は初動が大切だからな。フォンターナ憲章でも地震なんかの災害についての対応について書いたんだ。あとで確認しておいてくれよな」


「そのフォンターナ憲章というのもすごいですね。普通、貴族側に制限がつくようなことを盛り込んだ文面を作ることはないのですが……」


「ま、俺は当主代行ではあると同時にバルカ騎士領の当主でもあるからな。結構バランスよくできたと思うぞ、フォンターナ憲章は。っと、着いたぞ、リオン。この奥だ」


 各地を転々としたことで見聞が広がったリオンが、最終的に地元が一番いいという評価に落ち着く地元民みたいな意見を話していた。

 他の土地にはそれぞれにいいところがあると思うが、しかし、リオンの言う通り、フォンターナ領は他の土地と比べてもしっかりと優れたところがあるのは間違いないのだろう。

 それに俺がしてきたことを評価してくれるのは素直に嬉しい。


 そんなリオンの話を聞きながらやってきたのは、フォンターナの街の地下に作った転送室だ。

 俺が迷宮で記憶してきて再現した転送石を設置した部屋で、バルカの騎士のほかに、リード家の人間が【守護植物】で部屋の内部から守りを固めている。

 その転送室にリオンと一緒に入り、バルカニアの転送室に移動するように指示を出す。


 転送石は大量の魔力を消費することで一瞬にして遠く離れた別の転送石のもとへと移動することが可能になる。

 そして、それを使ってリオンと一緒にバルカニアへと跳ぶことにした。

 ちなみに、普通ならばバルカニアにある転送石に触れたことがないリオンがそこへ跳ぶことは不可能だ。

 が、俺がそばにいることでそれも可能となった。

 フォンターナの街で新たに転送石を作り出したのをリオンが触り、一度先に俺がその転送石を持った状態でバルカニアに転移してから、そのリオンが触った転送石を設置し直す。

 そうして、そこにリオンが跳ぶのだ。


 すでにリオンにはバルカ式強化術を施しており、リオンも当主級としての力を手に入れていた。

 結果、リオンもあっという間にバルカニアへと瞬間移動することに成功したのだ。

 ちなみにややこしいので、今回新しく設置した転送石はリオンがバルカニアに跳んだ時点で破壊し使えなくしている。


「……なんというか、相変わらずすごいですね、アルス様は。まさかこんなものまで作っているとは思いませんでした」


「便利だろ? 一応、今は評議会に参加した当主級までは転送石の使用を許可しているから、リオンも使いたいときは許可をとって使ってくれ。といっても、王都圏やリゾルテ領には行けないけどな」


「さすがにそれは無理ですか。もっとも、それでも十分すぎるくらいですけど」


 さすがにリオンといえどもこの転送石については驚いたようだ。

 やはり、他の土地ではこういう転送装置というのはないのだろう。

 こうして、俺はリオンを連れてバルカニアへと帰ってきた。

 そして、まさにその日にリリーナが俺との子を出産したのだった。

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