評議会
「貴殿のところで私の息子が世話になっているようだな」
「もしかして、バルカ塾のことを言っているのですか、ピーチャ殿。確か、バルカ塾にお子さんが通っていましたね」
「ああ。といっても長男たちはすでにこのフォンターナの街でいくつかの仕事を与えているため、一番下の子だけだがね」
「みたいですね。聞いた話だと子供の頃から少し体が弱かったとか……。そのため、バイト兄のシゴキよりも勉強に集中しているという話だったかと」
「ほう。よく知っているな。そのとおりだ。あの子は今まで騎士や従士として戦で働くことは叶わないだろうと考えていた。そのことは本人もよく分かっていた。そのためか、少しふてくされていた面もあったが、それが最近では活発になってきた。貴殿とバルカ塾には感謝している」
「そうですか。いいきっかけになったようですね。ですが、実際に頑張っているのは本人ですよ。お子さんを直接褒めてあげてください」
「そう……だな。そうしよう。まあ、我が息子のことはいい。それよりも少し気になることがあるが、いいかな?」
「気になることですか? 今の流れだとバルカ塾でのことですよね。なんでしょうか?」
「貴殿がバルカ塾でバルカの領地運営のやり方を教えるのは結構なことだと思う。が、裁判の判例や税率についてを生徒に教えるのは少々考えものだと思う。その地の実情に合ったものでなければうまくいかないだろうし、あまりに違うことを教えられては困ると考える騎士たちは多いはずだ」
「それはそうですが、あそこで教えている内容はあくまでもバルカのやり方であると説明しています。あと、フォンターナ直轄領でのやり方でもありますね。現状では騎士の後継者そのものよりも騎士家を継がない末弟たちが多い場所になってきているので、いずれはフォンターナ領で文官武官として働く可能性もあるため、ご理解いただければと考えています」
「それはわかる。が、騎士たちも不安に思っていることは理解してほしいのだよ。特に、貴殿はフォンターナ家の当主代行になった直後に税制を変えたりもしたからな」
「……なら、規範となるものを作りましょうか。基本的な決まりごとを作ってしまえば、こちらも教えやすい」
「規範? それはバルカ塾で教えるものをか? それとも……」
「ええ、フォンターナ領の法律を作ろうかと思います」
前から思っていたこと。
それは土地を治める貴族と騎士、そして住民たちのためのルールを作りたいということだ。
現状では力のある貴族が配下の騎士に土地を与えて、あとはフリーハンドみたいなところがある。
貴族と騎士の関係は土地を与える代わりに騎士から税を納めさせて、有事の際は戦力を集めて戦に出ることを誓わせるというものが基本だ。
なので、同じ貴族領のなかでも騎士領が違えば全く別の決まり事がまかり通っていることも少なくない。
それらを土地に合わせた臨機応変なルールと捉えるか、あるいは、まとまりのない好き勝手な決まりを各自が作っていると考えるかは人によるのだろう。
が、俺個人としてはせめてフォンターナ領内では共通のルールがあったほうがわかりやすいし、揉めにくいのではないかと思う。
だから、決める。
俺が当主代行という地位にあるうちに、フォンターナ領の決まり事を作ってしまうのだ。
そう決めた俺は早速それを実行すべく動き始めたのだった。
※ ※ ※
「これより第一回評議会を開催する。議論すべきことはすでに各自に伝えているとおりだが、それらをたたき台としてこの場で意見を交わし、具体的な内容をまとめることとする。今回の議題については次のとおりだ」
フォンターナ領についてのルール作り。
それを俺が主導して作っていくことにしたのだが、もちろん各地を治める騎士たちを完全に無視するつもりはない。
冬にフォンターナの街に各地の騎士が集まることを利用して、話し合いの場を作ることにしたのだ。
その名も評議会。
法律作りの場として各自が激論を交わすことになる。
今回決めることはそう複雑なことにはしない予定だ。
具体的な税率や刑法について規定しようとすれば大変なことになるのは目に見えている。
なので、まずはルール決めのためのルールなどを作ることにしたのだ。
ひとつは貴族の騎士に対しての命令権の行使について。
基本的には貴族が上位者であり、騎士に対していろいろな命令をすることがある。
が、だからといって騎士に対して完全な絶対者として振る舞えば、あるいは騎士が造反することもある。
なので、騎士に対してなんらかの命令をするために必要なルールを決めるというもの。
逆に騎士が貴族に対して行わなければならないことについても規定する必要がある。
土地を与えられた騎士が貴族の言うことを全く聞かないというのでは話にならない。
例えば税を納めることや兵を率いて戦に出ることなどは必ず行わなければならない。
では、いったい騎士は何を必ずする必要があるのか。
それらを話し合って決める必要があるだろう。
また、騎士同士の問題についても考えておく必要がある。
同じ貴族に対して忠誠を誓いあった仲の騎士であっても、騎士同士が仲が良いかというとそうとも言えない。
例えば騎士領が隣同士であった場合など、割と頻繁にトラブルが発生する。
俺が以前隣の騎士領の騎士と揉めたときなどもそれに該当するだろう。
このような騎士同士の問題について、どうやって解決していくかを決めておいたほうが両者で争いになりにくくなる。
なので、それらについても決めておく必要があるだろう。
そして、最後に貴族や騎士と領民についての問題である。
権力者は土地を支配し、そこから得るものに税をかけて生活している。
そのため、領地に住む人というのは大切な財産であると言える。
が、基本的人権など全くないのが実情だ。
割と簡単に殺されることもあるし、なんらかの理由をつけて財産を持っていかれることがあったりするのが庶民の辛いところだろう。
だがしかしである。
現在のフォンターナ領は割と人や物の行き来が多く、騎士がなんらかの理由で殺した領民が実は他の土地で重要だったなどといったことも珍しくはない。
雑草を抜くようにあまりに気楽に殺さないでほしいというのが俺の意見だ。
なので、やはり庶民の罪を問う際にも一定のルールというのはほしい。
主にこの4つをまずは重点的に規定していくことにした。
俺が「こういう法律にしたい」と言って、それに反論する騎士が意見を述べる。
以前こんな前例があり、このような返答を貴族側から受け取っているために賛成、あるいは反対だなどと言っていく。
今までフォンターナ領ではなかったウルク地区やアーバレスト地区の騎士もアレヤコレヤと意見を出し合って密度の濃い話し合いが続いた。
そうして、新年を迎えて更に冬が明けるかというくらいまで評議会は続き、ようやく雛形が完成した。
こうして、未完成ながらもフォンターナ憲章という貴族と騎士、そして領民についてのルールが規定された決まり事が出来上がったのだった。
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