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新たな学校

「うーん、どうしたもんかな……」


「どうかされましたか、アルス様?」


「いや、ちょっと考え事をしていただけだよ、ペイン」


「考え事ですか。私に話せる内容なのであればお聞きしますよ。悩み事などであれば話すだけでも気が楽になるでしょうし」


「そうだな。といっても悩み事とは少し違うんだけど。フォンターナ領のことについてだ」


「フォンターナ領になにか問題がおありですか? 今のところ、領地を広げているため勢いがあると言えると思いますが」


「そこだよ。急激に領地が膨張しているのはいいが、それを安定化するのはこれからどんどん難しくなると思うんだよ。いくら戦で勝ってもそこを統治できる人材が不足しているっていう問題がいずれ出てくる」


「……それは確かにそうです。アルス様によってほうぼうから人材を集めていますが、統治するには個人の資質だけでは難しいでしょう。それに領地が広がれば防衛線も伸びますし、維持するのはより難しくなるかもしれません」


 今のところ領地を広げ続けて順風満帆に見えるフォンターナ領。

 だが、そこには大きな構造的問題を抱えていた。

 それはずばり、領地が広がりすぎているということに起因している。


 現行制度は基本的に封建制だ。

 衰退した王家に代わり貴族家が領地を支配し、自らの配下の騎士たちに土地を与えている。

 なので、簡単に言えば戦で手柄をたてた騎士に「これからはお前がこの土地を管理しろ」と命じるだけとも言える。

 その騎士が自分の力で家臣団を作って統治すればいいのだから。


 そして、その場合土地の管理というのはその騎士の「家」が担うことになる。

 貴族は騎士に対して教会から「継承の儀」を受ける許可を与えてその身分を保証し、その家が代々責任を持って統治する。

 つまり、統治のノウハウを持っているのは各騎士の家という単位なのだ。


 だが、そのノウハウを持つ存在がフォンターナ家は少ない。

 これには理由がある。

 カルロス時代にカルロスに反抗的なレイモンド一派の騎士家を取り潰していたことが一因として挙げられるだろう。

 カルロスというフォンターナ家当主に権限を集中させるために必要な処置だったとはいえ、影響がないわけではない。


 また、それ以外にも近年の統治システムに大きな変化があったこともあるだろう。

 カイルの持つ【念話】を始めとした情報伝達や処理速度の大幅な向上によって統治の仕方も大きく変わり始めている。

 旧来の各騎士家が持つ既存のノウハウではそれらに対応できないこともあるのだ。

 まるで急にコンピューターを導入されたものの機械は苦手だと言っている人ばかりの職場のようになっている。


 なかには細かいことは気にせずに、住民から税を搾り取って騎士は戦で手柄を立てることに注力すべし、などと言っている連中さえいる始末だ。

 それが完全に間違いであるとも言えないのだが、俺としては困る。

 せっかくの領地はしっかりと管理・開発して税収をあげてほしい。

 さらに言えば、そんなずさんな管理をしているところで裏稼業みたいな連中が力をつけられても困る。

 せめて、一定の統治の質というものを確保しておきたいのだ。


「なるほど。でしたら、ここフォンターナに新たに学校を作ればいいのではないでしょうか?」


「学校? 学校ならこのフォンターナの街にもすでにあるぞ?」


「それはあくまでも庶民や貧民のためのものではありませんか。そうではなくて、もっと上の身分のものが通う学校でも作ってみればよいのではありませんか?」


「身分が上の者が通う学校?」


「そうです。なにせ、このフォンターナの街には各騎士家の家族が移住して住んでいるのです。そこには領地持ちの騎士の後継者や兄弟、あるいはそのそばでともに働く次世代の若者たちもいるわけです。つまり、いずれ各地の領地を統治するであろう者たちが同じ街にいるわけですから、領地の統治について教える学校を開いてみるというのはどうでしょうか」


「……そうか。今までの学校はあくまでも文字の読み書きや計算について教えるものだった。けど、騎士家の子どもたちなら各家でそういう基礎はすでに教えている。つまり、最初からもっと高度な領地運営の勉強をしても大丈夫ってことか」


「そうです。それに、ここフォンターナやバルカでの統治方法はウルク出身の私からしても戸惑うことが多いものでした。それをここで学校教育として学んでいれば、それが共通認識として各騎士家も持つことができるかもしれません。まあ、すぐに効果のある話ではありませんが」


「いや、参考になった。確かに庶民向けの学校だけじゃなくて、騎士の子を対象としたものも考えるべきだった。感謝するよ、ペイン」


「いえ、大したことではありませんよ、アルス様」


 謙遜するなよ、ペイン。

 その意見は十分価値がある。


 おそらく、ペインが言うように「統治方法を教えるための学校」という名目にすれば、フォンターナの街にいる騎士の家族は自身の後継者たちをそこへ通わせることになるだろう。

 なにせ、それは統治以上に重要な要素も絡んでくるからだ。


 領地を持つ騎士もそうでない者もこの世界で一番力を発揮する政治力というのは、有力者とのコネだ。

 他の有力者とどれだけコネがあるかで政治的発言力などがガラリと変わってくる。

 ならば、その学校にはなんとしても通わなければならないだろう。

 なぜなら、他の領地を持つ騎士の後継者たちもそこにいるのだから。

 その学校に通うか通わないかでコネの有無に大きな差がついてしまうのだ。


 そして、その学校ではもちろん統治方法だけを教えるわけではない。

 今までのように騎士家が独自に好き勝手なことをすることをよしとするわけではなく、フォンターナのやり方、いや、バルカ流のやり方をしっかりと教え込んでいこう。

 こうして、俺は新たにフォンターナの街に騎士学校を作る計画を考えることにしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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