土地のつながり
「ラジオ出演お疲れ様、アルス兄さん。ちゃんと喋れていたね。結構評判いいみたいだよ」
「ありがとう、カイル。実は意外と緊張してたんだよ。キリ相手だから気軽に話せたけどな」
「気軽すぎる気もしたけどね。まあ、それはともかく本当によく無事に帰ってきてくれたよ。パーシバル家っていう大貴族相手だからアルス兄さんでも万が一があるかもって心配していたんだよ?」
「たしかに今回うまくいったからって次もうまくいくとは限らんわな。特に迷宮街にいる探索者ってのは厄介だよ。わらわら出てくる探索者たちがどんな攻撃方法を持っているか予想もつかないっていうのは結構怖かったから」
「そっちなんだ。パーシバル家の当主級相手は怖くなかったの?」
「まあ、そっちも万が一があると考えるとな。ただ、相性としてはこちらに優位があったからな」
バルカニアでキリの星占いというラジオ番組に出演した俺。
事前に数日前からラジオ放送でその日の朝の番組に特別ゲストが出演すると煽っていたので、結構聞いていた人も多かったようだ。
そして、カイルやほかの人が言うには結構ウケたらしい。
今のところ多少の不満を言っているのはバイト兄くらいか。
もっと俺の活躍を語れよ、と言ってこられたが他の人をヨイショするほうが重要で実の兄弟の活躍話を長々と語るわけにもいかなかった。
仕方がないので、父さん秘蔵の名酒をバイト兄にこそっとプレゼントして機嫌をとりなしたりもしていたのだ。
そんなカイルが番組内ではあまり詳しく言わなかったことを聞いてきた。
大貴族であるパーシバル家の相手は大変ではなかったのか、と。
だが、実を言えばそれはあまり問題にはならなかった。
なぜなら、パーシバル家との戦いではバルカは非常にいいアドバンテージを持っていたからだ。
旧覇権貴族を打倒した三大貴族家の一角であるパーシバル家。
そのパーシバル家ももちろん攻撃魔法を持つ非常に危険な相手である。
実は旧覇権貴族であるリゾルテ家との戦いではこのパーシバル家の魔法が大いに活躍したのだそうだ。
【猛毒魔弾】。
それがパーシバル家の騎士がもつ魔法の名だ。
魔力を弾丸のように飛ばすシンプルな魔法だが、その魔力は不思議な特性がついている。
【氷槍】や【朧火】のような氷や炎という現象ではなく、魔力そのものが毒を持つのだ。
その【猛毒魔弾】の攻撃を受けた者は歴戦の騎士であっても、悶え苦しみながら死に絶えるという恐ろしい魔法だ。
が、そんな危険なパーシバル家の魔法はバルカが持つ【毒無効化】であっさりと防いでしまった。
実際に戦うまでそれが通じるかどうかは不明で、最悪の場合、味方の被弾覚悟で速度に物を言わせて特攻するしかないかとも考えていた。
だが、バイト兄の配下の騎士であるエルビスという青年があえてその攻撃を喰らいながら、【毒無効化】が有効であることを示してくれたのだ。
……そういえば炎鉱石が採れる狐谷の毒もエルビスがその身で効果を証明してくれたんだっけ?
あいつはドMかなにかなのだろうか?
まあ、危険を承知でやってくれたのでバイト兄を通して褒美でも与えるとしよう。
そんなこんなでパーシバル家の騎士が使用する魔法【猛毒魔弾】は【毒無効化】でものの見事に封じられてしまった。
騎兵団の中にはピーチャやワグナー、エランスなどのバルカの魔法を持たない連中もいたが、そこはうまく角ありたちがカバーしてくれたらしい。
ほとんど被害らしい被害は出ずに終わった。
ちなみにパーシバル家の当主級が使用する上位魔法は同じように魔力を毒にするタイプで、こちらも同じく無効化できた。
では、あとは当主級たる魔力量でもって行われる武技が脅威になる、はずだった。
が、どうやら噂話程度には聞いていたが迷宮街を統治するその当主級は最強の攻撃手段である毒攻撃にあぐらをかいて肉体を使った戦闘技術はまったくなかった。
むしろ、大きく出た腹を揺らしながらブヒブヒと鼻を鳴らして動く置物のようですらあり、俺の聖剣グランバルカであっさりと始末をつけるに至ったというわけである。
つまり、先程の話に戻るがどんな攻撃方法を持つのかわからない探索者たちを相手にするほうがよほど神経を使ったのだ。
「なるほどね。でも、普通だったらかなりの強敵だったんだよね、パーシバル家って。まともな解毒薬もないからリゾルテ家はパーシバル家との戦いでかなり戦力を失ったって聞いたことがあるし」
「だろうな。最終的にリゾルテ家は魔力切れを狙った肉壁戦法を使っていたとか聞いたことがあるからな。地獄絵図みたいな光景が目に浮かぶよ」
「……それで、そんなパーシバル家に勝利したアルス兄さんは迷宮で変わった石を見つけてきた、と。使えそうなの、その転送石って?」
「ああ、なんとか起動はする。が、やっぱり迷宮の中で使うものなんだろうな。ここでは性能がかなり落ちるみたいだ」
「えっと、他に触ったことのある転送石のところに瞬間的に移動することができるんだよね? 使えないの?」
「いや、使える。バルカニアで設置した転送石とここフォンターナの街に設置した転送石の間で移動できることは確認した」
「すごい。じゃあ、成功じゃない」
「……そうなんだけど、迷宮ではそんなに魔力を使わずに転送できたんだけどな。迷宮の外であるこことバルカニアでは転送するのに大量の魔力を消費するらしい。だれでも気軽に使えるってことにはならないだろうな」
カイルと話しながら俺がしていたのは、迷宮街にある迷宮で【記憶保存】してきた転送石の設置である。
バルカニアとフォンターナの街に設置した転送石間を移動してみたのだ。
が、それは迷宮の中での挙動とは大きく違いが見られた。
一つは転送する際の魔力消費についてだ。
迷宮内では魔力が空間内に豊富にあったためか、あるいは迷宮から魔力を吸収でもしていたのか、転送する際にはほとんど魔力消費がなかったのだ。
迷宮の深部を探索し、疲労困憊で動けなくなるほど疲れていても転送石のところにまでたどり着けば入口近くにまで帰ることができたというのはリュシカの証言では確認している。
が、ここフォンターナ領で俺が記憶した転送石を設置した場合、転送の際に大きく魔力を消費した。
おそらくだが、一度の転送でも上位魔法を発動するくらいの魔力を使っていたのではないだろうか?
しかも、一人分の移動でそれだけの魔力が消費される。
迷宮内では大量の素材が入った荷物と一緒に転送可能だったそうだが、こちらではそうもいかない。
せいぜい個人で身につけられる手荷物くらいではないだろうか。
「でも、それでも人が一瞬で移動できるっていうのはすごいんじゃないの? これならまた冬の間に地震が起きても各騎士領に転送で戻ることもできるだろうし」
「地震はもう起きなくていいけどな。ただ、まあそうだな。便利ではある。が、設置場所は限られているみたいだけど」
「え、そうなの? アルス兄さんがどこでも好きなところに転送石を作れるっていうわけじゃないんだ」
これはまだ確認したわけではない。
が、なんとなく感覚的にどこでも好き勝手に転送石をおけるというわけではなさそうだった。
いや、置こうと思えばどこでも置けるが転送できない可能性が高い。
ではどこならば転送が可能なのか。
多分、それは魔力的なつながりがある場所だ。
迷宮であれば、迷宮内は基本的に下層に潜っていくことになり、その場で迷宮という魔力的なつながりがあるのではないか。
するとフォンターナ領ではどことどこの土地が魔力的につながっているのか。
バルトニアとフォンターナの街をつなぐものといえば、バルカが魔法で土地を変化させて作った道路か、あるいは線路がそうではないか?
確証はないが、なんとなくそんな気がする。
それはなぜかというと、バルカニアとフォンターナの街に設置した転送石はお互いの間で移動することができたのに対して、そのどちらも迷宮街の迷宮内部にある転送石には移動できなかったからだ。
それができれば今度はヴァルキリーを使わずに一瞬で迷宮街へ行けたかもしれないのにと思ってしまう。
単純に距離の問題かと思って北の森の中に転送石を設置したがそちらも転送不能だったので、おそらくは土地と魔力の関係ではないかという予想が今のところ俺の中での仮説として存在している。
まあ、いいか。
考えようによってはよその土地からフォンターナに直接跳んでこられる危険性もないのだ。
そう気持ちを切り替えた俺は、その仮説を確かめるためにもフォンターナ領内のいくつかの土地にもさらに転送石を設置してみることにした。
そして、それはどうやら正しいらしいという結論に達した。
こうして、俺はバルカニアとフォンターナの街の他にもバルトニアやアーバレストの街の地下に転送石を設置していったのだった。
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