表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
338/1265

ラジオ出演

『みんな、おはよー。今日のキリの星占いの時間だよー。って言いたいところなんだけど、今日はちょっと放送内容を変えてみようってことになったんだ。実はねー、今日は特別にとある人に来てもらったんだよ。じゃー、自己紹介いってみよー』


『どうも。キリの星占いをお聞きの皆さん、おはようございます。アルス・フォン・バルカです。よろしくおねがいします』


『ちょっと、アルス君。もっとくだけた感じで元気よくいこうよ。はい、というわけで今日は特別にアルス君ことアルス・フォン・バルカさんにお越しいただきました。みんな、アルス君のことは知っているかな? なんとこのバルカ文化放送局を作った張本人で、しかも、フォンターナ家の当主代行という仕事をしている人なのです。はい、拍手』


 迷宮街帰りにカーマス家との戦いがあった。

 と言ってもそれももう終わっている。

 【封魔の腕輪】を使い、相手の当主級が使おうとした上位魔法どころか、すべての魔法を封じ込んでの力勝負に持ち込んだ。

 その結果、軍の一番前にいた当主級の男は俺が一撃で勝負を決め、そのほかの少数の騎士は農民兵ともども騎兵にさんざんに打ちのめされた。

 ほとんどまともに勝負にもならず、カーマス家との戦いは終わったのだ。


 が、そこで止まるほど角ありヴァルキリーによる騎兵団は鈍くない。

 カーマス家の騎士を倒し、農民兵が散り散りに逃げた後は相手の装備を回収することもなく、更に北上したのだ。

 そして、北にある3つの陣地でフォンターナ軍10000と睨み合っていたカーマス家の残りの軍にも強襲を仕掛けたのだ。


 相手もびっくりしたことだろう。

 まさか、自分たちの別働隊が一瞬にして蒸発したとは考えなかったはずだ。

 急に背後から破壊力抜群の騎兵団に蹂躙された。

 当然、その前に【念話】を使って3つの陣地にいたカイル率いる軍に情報は伝えている。

 混乱するばかりのカーマス家とは違い、陣地にいたフォンターナ軍は騎兵団の動きに合わせて挟撃を成功させたのだ。


 それにより、カーマス家は他にいた当主級がさらに戦死した。

 そして、そのまま、カーマス領の領都へと押し寄せたフォンターナ軍によって占領されてしまったのだ。

 今、そのカーマス領はビルマ軍とキシリア軍が押さえている。

 出世欲が高いビルマの騎士エランスのほかにも、キシリア家のワグナー君も獅子奮迅の働きをしたのだ。

 きっと、フォンターナ家における立ち位置をなんとしても確立したいと頑張ったのだろう。

 そこで、冬の間この二人にカーマス領を任せることにした。


 そんなこんながあって、俺はなんとか無事にフォンターナの街へと帰ってきた。

 戦果としてみれば、王とカルロスの敵討ちのためにパーシバル領にある迷宮街を攻略し、そこにいたパーシバル家当主級とティアーズ家を討伐、さらにカーマス領を手中に収めるとなかなかのものになっている。

 本来であれば、街を挙げての凱旋式をすべきところだろう。


 が、もう雪が降る冬の時期に突入している。

 これからは備蓄した食べ物を食べて冬の厳しい時期を乗り越えなければならない。

 なので、ほどほどの規模の戦勝祝いで済ませたのだ。


 しかし、これに異を唱える者がいた。

 せっかく勝利を収めたのだからもっと大々的にそのことを広めるべきだという意見がでたのだ。

 が、そうはいってもこの時期にフォンターナ領に戦の勝利を広く知らせるには人の行き来が少ない。

 なので、こうして、ラジオを通してフォンターナ軍の活躍ぶりを話してみることにしたというわけである。


『それでそれで? 迷宮街に突入したフォンターナ軍はそこからどうやって攻めたのかな、アルス君? もちろん、相手も無抵抗ってわけではなかったんでしょ?』


『それはそうだ。俺の友のタナトスが迷宮街の壁を突破して中に突入することに成功したが、当然そこには相手の守りがあった。こちらは圧倒的に数の少ない騎兵だけで囲まれたらお終いだ。実はこのとき、俺は本当に勝利できるのか、という気持ちが無かったと言うと嘘になるかもしれない』


『そんな……。連戦連勝のアルス君でもそんなことを思うんだ。意外な感じがするね』


『そんなことはないさ。俺だって人の子だ。戦場に出るときにはいつだって緊張している。だけど、そんな不安を吹き飛ばしてくれる心強い味方がいた。だからこそ、俺は危険な場所に飛び込んで戦うことができたんだ』


『アルス君とその仲間たちかー。さっき話に出てきたタナトスさんもそうだよね? 他にはその場に誰がいたのかな?』


『そうだな。俺が亡きカルロス様に忠誠を誓ってから最初に起きた他貴族との戦い。そのときに一緒に手を取り合って戦ったことで、それ以降ずっと頼れる存在であるピーチャ・フォン・アインラッド殿。それにそのピーチャ殿率いるアインラッド軍と一緒にミリアス平地の戦いで一緒の戦場に立ったエランス・フォン・ビルマ殿、そして、ワグナー・フォン・キシリア殿がそうだな。彼らは俺と同じ亡きカルロス様に忠誠を誓って、フォンターナ家のために戦った忠義の騎士たちで、皆当主級の実力者たちだ。彼らが一緒だったからこそ、数で勝るパーシバル家の包囲を突破して勝利を収めることができたんだ』


『みんなカルロス様がパーシバル家にだまし討ちされて亡くなったことを怒ってたんだね。それが強敵にも勝る原動力になったのかな? カルロス様はみんなに好かれていたんだね』


『もちろんだ。だからこそ、俺達は動いたんだ。そして、そのかたきを見事に討つことができた。これほど嬉しいことはないよ』


 キリは意外と使えるな。

 ラジオ放送では事前に星の動きを占って、俺達が迷宮街を攻撃する前日に「なにか大きなことが起きる気配がある」と言わせていた。

 そして、迷宮街を攻略したときにはすぐにフォンターナの勝利の情報を放送させた。

 そして、最後にこうしてお涙頂戴の内容を流す。


 良い宣伝になるのではないかと思う。

 なにせ、俺が迷宮街でしたことは間違いなくただの人殺しだ。

 だが、それをカルロスの死と混ぜて正当な行為であるかのように印象操作をすることに成功しているのだ。

 そして、それと同時に俺が他の同僚騎士をリスペクトしていますよ、というアピールの役割も果たしている。

 一応これらの内容は大枠で台本を用意している。

 が、それを自然な流れとなるように俺からの発言を引き出しているキリはラジオパーソナリティーとしては有能だと感じた。

 さすが、魔法が失われても星占いだけで貴族家に仕え続けた一族の出とでも言おうか。

 うまくおだてて話を転がす話術を持つと言えるのではないだろうか。


 そして、これらの内容で重要なのは、放送されているのがフォンターナの中だけではない、ということだろう。

 フォンターナ領での戦勝祝いができない代わりの放送という位置づけではあるが、実際にはフォンターナ領以外の王都圏でもこのラジオは少数ながらも存在しているのだ。

 人の口に戸は立てられない、ともいうが意外と口コミ効果というのは大きい。


 こうして、俺は自己弁護を多分に含んだ放送をフォンターナ領から遠く離れた王都圏でも流し情報を広めていったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ