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補給地点

 無事に目標だった迷宮街の攻略に成功した俺率いるフォンターナ軍。

 これで無事に「カルロスの敵討ち」を終えたというわけである。

 一応これで俺個人の目的は達成した。


 だが、しかしである。

 これは戦略目標の第一段階をクリアしただけであるとも言える。

 迷宮街の攻略ができればそれで良し、そして、それが無事にできて余力があればもう一つ戦果を持って帰る可能性も考えていた。

 それが、迷宮街の所有権をメメント家に譲渡してまで取り付けた「不干渉」の狙いでもある。


 俺が今回動員したフォンターナ軍はすべて精鋭である。

 数を絞り、角ありヴァルキリーを導入してまでスピードを優先させて迷宮街を攻略した。

 その際、基本的な軍の構成としてはバルカ軍やバイト兄のバルト軍の騎士たちが多いのだが、それ以外にもフォンターナ軍として従軍してきている。

 その中にはアインラッドを治めるピーチャやその配下、そしてビルマを治めるビルマの騎士たち、あるいはワグナー率いるウルク由来の騎士たちだ。


 彼らは俺の名付けを受けておらず、バルカの魔法は使えない。

 つまり、【瞑想】で連日の長距離移動の疲れを癒やすこともできず、バルト家のように【騎乗術】が使えるわけでもない。

 だが、それでも文句も言わずに相手の領地の奥深くへと突っ込んでいっての戦闘までやったのだ。

 敵討ち成功です、というだけではなく実利を与えたい。


 一応、迷宮街で得た戦利品などもあるのだが持ち帰ることができるものは限られている。

 来たときと同様にヴァルキリーに騎乗して帰るので、持って帰ることができるものはそこまで多くないのだ。

 迷宮街に保管されていた魔法効果のある武器や防具、そしてリュシカなどの有用な人材を連れ帰るだけにとどまっている。


 ならば、行きがけの駄賃というか帰りで回収できるものとしてフォンターナ家の南にある貴族領を頂いてしまおうということにしたのだ。

 最低限の大義名分はある。

 南隣の貴族は王殺しの罪に問われたパーシバル家討伐に参加しなかった、というのが罪状だ。

 もっとも、これは相手にも言い分があるかもしれない。

 なにせ、軍を率いてパーシバル家に向かっていけば喪に服しているとはいえ、自分たちの領地がフォンターナ家と接しているのだ。

 近年勢力を伸ばしている危険な領地との防衛を放置してまで軍をパーシバル領に向けるなどできはしないのも当然だろう。

 まあ、そんなことはこちらには関係ないのだが。

 攻め込むときはどんな些細なことも理由になる。

 理不尽極まりないかもしれないが、俺も地震の原因だと因縁をつけられて攻められそうになったのだしそういうものとして割り切ってもらおう。

 こうして、迷宮街を出たフォンターナ軍は南の貴族家であるカーマス家に向けて進んでいったのだった。




 ※ ※ ※




「リュシカ、君たちの今日の寝床はここだ。何か足りないものがあったら言ってくれ」


「ありがとうございます、アルス様。このような場所をご用意いただけて感謝いたします」


 迷宮街を出発し、ヴァルキリーを走らせて北上した。

 角ありが【瞑想】を使いながら集団で走る今のフォンターナ軍は恐ろしい進軍距離を叩き出している。

 迷宮街に向かったときなど、普通の軍が数ヶ月かけて移動するところをわずか数日で駆け抜けたのだから相当なものだろう。


 これはヴァルキリーがすべて同じ使役獣であるというのも大きいのだろう。

 もし、いろんなタイプの騎乗型使役獣がいたらここまでの速度は出さなかったはずだ。

 いくら足が速い使役獣を騎獣としていても、集団として移動するならば足の遅いもの、あるいは体力のないものに合わせて移動しなければならないからだ。

 また、ヴァルキリーが俺の言うことを理解し、それを群れ全体で共有して行動できるというのも大きいだろう。

 俺が右に行けと初代に伝えるだけで、高速走行中の集団が一糸乱れぬ行動をとるのだ。

 途中、いくつかの貴族領を駆け抜けたが無事に移動できたのはそのまとまった行動力というのが大きかったのだ。


 だが、それでも迷宮街までの片道切符は何日もの時間がかかった。

 では、その間の食料と体を休める寝床はどうしたのかという問題がある。

 軍という集団の移動が遅くなるのもそこに原因がある。

 多くの人の腹を満たすための食料を持ち運ぶ手間と寝る場所を確保する時間がかかるのだ。

 寝るためには暗くなる前から体を横にできる場所を作るため、大軍であればあるほどその用意に時間がかかる。

 下手をすると夕方になる前からその準備をしなければいけないのだ。


 なるべく短期間で移動を終わらせて目的を達成したい俺はその時間すらも惜しんだ。

 そのためにどうしたのかと言えば、食料は最低限背負えるだけしか持たず移動し続けたのだ。

 だがそれで足りない分はどうしたのか、という問題がある。

 それには各地の騎士の館を利用したのだ。


 冬に備えて食料と薪を備蓄している騎士の館ならば、一泊程度であれば1000騎のフォンターナ軍にも対応できる。

 事前に泊まる予定の騎士に極秘予約をとっていた。

 以前から外交力のある人材を集めていたが、そいつらに命じて小規模な軍が一泊できる許可をとるようにと。

 もっとも、やってきたのがフォンターナ軍の精鋭で、それを見て予約を一方的にキャンセルしようとした騎士もいたが、それらは力ずくで交渉した結果、無事に宿にありつけている。

 まあ、その結果、その館の持ち主が無事である保証はないのだが。


 そんなふうに帰りも騎士の館を転々としながら移動し、あとはフォンターナ領の南隣にある貴族領を残すのみとなった。

 が、向こうにはすでに宣戦布告が届いていたようで、この寒い中急遽招集をかけて軍を率いてこちらの進行ルート上で待機しているらしい。

 途中にある川を挟んでこちらを迎え撃とうとしている。

 こうして、迷宮街帰りのフォンターナ軍はカーマス軍と戦闘に突入したのだった。

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