パーシバル家秘蔵の騎士家
俺はパーシバル家に対して攻撃を仕掛けることにした。
しかも、あえて普通は動かない冬の時期に動くことを考えている。
なぜ、そんな無茶をするのかといえばきちんと理由がある。
そのうちの一つは、他の二家に押されているとはいえパーシバル家ほどの大貴族と現在のフォンターナ家ではまだ力の差があるという点にある。
なので、相手が攻撃されるはずがないと考えているであろう時期に動く。
つまりは、いつもの奇襲と同じである。
冬の動きが取りにくい時期に相手へと襲いかかり、うまく一撃を決めて宣言するのだ。
俺の勝ちだ、と。
その際、別にパーシバル家全体に勝利する必要はない。
あくまでもパーシバル家の一部でもいいので勝利をするということが重要になってくる。
以前、こちらを攻めてきたメメント家の軍に対して行ったことをもう少しスケールの大きな視点で行おうというわけだ。
というのも、今回の参戦の大義名分が「カルロスのかたきを討つ」というところにあるからだ。
俺はリオンを通して、カルロスと王が死んだ原因はパーシバル家にありと証拠を突きつけて糾弾した。
そして、それによってパーシバル家に対して他の三大貴族のうちの二家が王の死の責任を取らせるために戦闘に突入したのだ。
その流れを作ったフォンターナ家、ひいては俺はその二家を中心にしてパーシバル家と戦う貴族軍に物資などを販売することで間接的な援護をしていた。
それはカルロスの死をうけて、フォンターナ全体で喪に服すとしたからでもある。
だが、それでもこう言われることもあるのだ。
「アルス・フォン・バルカは亡き主であるカルロス・ド・フォンターナのかたきを自らの手で討つ気はないのか?」と。
どうも、騎士や貴族というのは面子も重要なのだそうだ。
自らの親でもある主を殺されて、領地に引っ込んだまま敵討ちに動こうとすらしないのはどういう了見だと言われて黙っているわけにもいかないのだ。
いや、別に動きたくなければ動かなければ良いのかもしれないが、周囲からの印象が悪くなるという欠点が存在する。
そういうことを考えずに生き残りだけを優先するのもありだが、そうすると俺は少なからず周囲からの信用を失うことになってしまうのだ。
なので、わかりやすく「敵討ち頑張っています」というのをアピールしたい。
となると、動くしか無いというわけだ。
だが、来年雪が融けて正式に参戦するとなると、それはそれで大変でもある。
遠いパーシバル家の領地にわざわざ軍を率いて攻撃しに行くとなると、それだけでどれほどの出費となることか。
なるべくなら、手早くちゃちゃっとかたきを討ったということにしておきたい。
そこで、この時期にパーシバル家を攻撃するというわけである。
が、正確に言えばパーシバル家そのものがターゲットではない。
俺が狙うつもりなのは、貴族パーシバル家ではなく、その配下のティアーズ騎士家だ。
速攻を仕掛けて、そのティアーズ騎士家を叩き潰す。
それが、俺の立てた戦略目標だった。
※ ※ ※
パーシバル家は押しも押されもせぬ大貴族家であり、三貴族同盟としてラインザッツ家とメメント家の二家と協力して前覇権貴族であったリゾルテ家を追い落とした。
だが、パーシバル家はその三貴族同盟内では第三位という位置に甘んじている。
それはなぜか。
それはパーシバル家は数代前に急成長して大貴族家へと成り上がった、かつてはそこらにある平凡な貴族家だったからだ。
現在のパーシバル家当主から数えて6世代前の当主がパーシバル家に大きな変化をもたらした。
といっても、その先祖当主が新たに魔法を開発したとかいうわけではない。
だが、パーシバル家の繁栄にはとある魔法が関係していた。
それは、ティアーズ家のもつ魔法だ。
かつて、ティアーズ家は他の貴族が手駒として所有していた独自魔法を持つ旧貴族家だった。
初代王時代には貴族家として存在していたようだが、王家の力が激減して、各貴族家が自らの力で台頭する時代がやってきた。
だが、旧貴族家のティアーズ家は自らの領地を守り切ることができなかったのだ。
そして、ティアーズ家は他の貴族家の配下として収まり、不遇の時代を迎えることになった。
それはひとえに、ティアーズ家のもつ魔法が格の低い魔法と呼ばれる非攻撃魔法だったからだ。
ティアーズ家はその後、いくつかの貴族家を転々としながらその名を残すことになった。
が、それは決して良いものではなかった。
なぜなら、ティアーズ家を配下として迎えた貴族家はどこも自らの領地で囲うようにして保護していたのだから。
自分たちの才覚で何かをなすということもなく、かろうじて名を残していたに過ぎないのだ。
そんな不遇の時代がティアーズ家にずっと続くかと思われたとき、転機が訪れた。
それが、パーシバル家との出会いだ。
パーシバル家は攻撃魔法を持つ貴族家であり、なんとか荒れ狂う激動の時代を泳いでいた。
が、そんなパーシバル家の領地には他の貴族領とは決定的に違うものがあったのだ。
迷宮。
それがパーシバル家の領地には存在していた。
地下に向かって広がるモンスターのはびこるダンジョン。
そんなファンタジーでしかありえない場所がパーシバル家には存在していたのだ。
そして、その迷宮とティアーズ家の魔法は非常に相性が良かったのだ。
ティアーズ家の魔法は【能力解放】と呼ばれるものだ。
命の危険を感じるほどの経験を乗り越えて成長したものに祝福を与えるとされる魔法。
攻撃能力はまったくないにもかかわらず、多くの貴族家で独占するように保護された過去をもつ魔法。
それが迷宮と出会ってしまった。
パーシバル家はティアーズ家を手に入れた際、すぐにその当時の当主が迷宮近くでティアーズ家の魔法を使うように指示したのだという。
迷宮に潜り、そこにはびこる魔物を倒し、命をかけて戦う探索者と呼ばれる存在。
その探索者に【能力解放】を使用するように命じたのだ。
これが現在も続くパーシバル家の発展につながっている。
迷宮に潜る探索者に【能力解放】を使用し、何度も死線を越えた者たちを強制的に強化する。
【能力解放】のすごいところは、高位探索者に魔術を発現させることもあるというところにあるだろう。
魔法のように呪文を唱えるようにして発動する独特な魔術は、わかりやすくいえばスキルみたいなものだろうか。
それぞれの探索者にあったものが自動で発現するためバラバラのスキルなのだが、それでも中には遠隔攻撃を行うことができる者もいるのだとか。
それは言ってみれば、騎士と同等か、あるいはそれ以上の実力者を輩出することにもつながったのだ。
迷宮を探索する者は、その迷宮奥深くへと潜るほど経験を積んで実力を伸ばしていく。
そして、そんな経験を積んだ実力者に対してティアーズ家が【能力解放】の魔法を使うと、身体能力などが強化される。
その伸ばされた能力をもって更に迷宮に深く潜り、より実力を上げた者はそれぞれに見合ったスキルを得ることになるのだ。
だが、それはあくまでも魔術の一種であり、例えば名付けで他者に同じスキルを授けたりはできない。
それに継承の儀で自らの子に残すこともできない。
だが、それでも迷宮に潜る者は尽きないのだ。
なぜなら、相応の実力を身につければ貴族や騎士に認められて雇われることになる可能性があるのだから。
いや、そうでなくとも迷宮に潜っていれば通常よりもいい稼ぎが得られるのだ。
食うに困る連中が最後に一発逆転をかけてやってくるのが迷宮であり、自然と人材を集められるシステムが出来上がっているのだ。
つまり、パーシバル家はその領内に迷宮とティアーズ家を所有することで、ほかの貴族家とは違う実戦経験豊富な戦闘のスペシャリストを作り上げる環境を手にしたのだ。
しかも、迷宮から産出する魔石や素材で経済力も上がった。
そうして、数世代のときを経て、大貴族家の一角とまで呼ばれるほどの力を手に入れることに成功したのだ。
だからこそ、そのティアーズ家を狙う。
パーシバル家にとってティアーズ家はただの騎士家ではないのだ。
経済の中心であり、強靭な戦闘者を作り出す最も重要な騎士家だからこそ、そこを潰す。
そう狙いを絞ったフォンターナ軍は精鋭を集めて南へと向かって軍をすすめることになったのだった。
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