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次なる動き

「おお、すごいな。これがお前の言っていた時計塔ってやつか」


「すごいもんでしょ、バイト兄。ここバルトニアに建てた時計塔はバルカニアと同じ型の時計塔だ。フォンターナの街にあるのは、これよりもうひと回り大きいんだぜ」


「へー。でも、お前も大変だな、アルス。わざわざフォンターナ領を走り回って、この時計塔を作っていっているのか?」


「まあね。なんだかんだで、俺が魔力で作るのが一番早いってのもあるからな」


 俺がバルカ文化放送局を作り上げている間、グランがフォンターナの街の時計塔を完成させた。

 そして、その時計塔をモデルとして簡略版の時計塔をバルカニアにも作ってもらった。

 形としては同じようなものだが、高さなどはフォンターナの街にあるものよりも低くして、時計盤も二方向にあるだけだ。

 そして、その簡易時計塔を俺は魔力で覆って【記憶保存】の呪文を唱えた。


 【回復】すら使うことのできるようになった俺の魔力量は、その時計塔の構造を丸々記憶できる。

 それはもちろん、記憶した情報をもとに同じ時計塔を魔力で再現できるということも意味している。

 そうして、俺はフォンターナ領の主要な街に自ら出掛けていって、魔力を使い時計塔を建てていったのだ。

 主に外観周りを中心に硬化レンガで作り上げ、後は内部に必要な部品を取り付けて時刻をあわせる。

 すでにバイト兄が統治するバルト騎士領に向かうまでにもあちこちに時計塔を建てたのだった。


 それに合わせて、各地の状況も実際に自分の目で確認することにしている。

 今年起こった地震の影響からどこもある程度立ち直ってきているようだ。

 ここバルトニアも活気があって、多くの人が忙しそうに行き交っていた。


「でも、このままでいいのか、アルス?」


「ん? どういう意味だ、バイト兄? このままでいいかっていうのは」


「そりゃ決まっているだろ。お前、今年はまだどことも戦ってないじゃねえか。もうすぐ雪が降るぞ」


「領地内でもいろいろやることがあったんだからちょうどよかっただろ?」


 何を言い出すのかと思ったら、どうやらバイト兄は今年ほとんど戦がなかったことに対して文句を言いたいらしい。

 まあ、それもそうか。

 今年はもう冬の気配が近づいてきている頃になっているのだ。

 年をとったら時間のすぎるのが早くなるというが、それとは少し違うだろうか?


 今年は冬の終わり頃に地震が起こった。

 その地震の対処のために春を過ごし、復興のために動き回った。

 被災者が大きな街に押しかけてくるかもしれないという危惧から、わざわざ新しくドレスリーナという街まで作ったほどだ。

 そして、そのドレスリーナでの服飾のために標準体型を決めようとミームと話していたら、カルロスの体にあった雫型魔石の存在を知らされ、バルカ式強化術なんてものも編み出した。


 その後も忙しかった。

 各地の騎士たちを再び集め、強化術を施した。

 そのおかげで当主級が俺以外にも増えるに至ったのだ。

 強化する代価として、フォンターナ領中を張り巡らせる線路を作ることに同意させ、新たに【線路敷設】という魔法まで開発し、それを使って各地にヴァルキリーを利用した列車を導入させている。

 更にその後、パウロ司教が【回復】による欠損治療のやり方の確立を行い、聖人認定されて大司教にもなった。

 で、大司教になったことでフォンターナの街の教会も新たに建てることとなり、それに合わせてフォンターナの城も建て直すことになり、時計塔まで建築したのだ。


 こう考えるとなんとも充実した一年ではないかと思ってしまう。

 というか、地震さえ無ければとか、もっと時間があればとも思ってしまうがそれは言いっこなしだろう。

 俺としては戦がなかったおかげで内政がはかどったので良いことしかなかったとも言える。

 が、バイト兄はそうではなかったようだ。


 バイト兄もバルト騎士領という領地を治めているため、決して暇ではなかったはずだ。

 むしろ、以前までは敵対していたウルク家の領地を力で奪い取った故に、いろんな問題もあったはずだと思う。

 あまり大事にはなっていないが、バルト騎士領内も何も問題がなかったわけではないのだ。

 一度は力で抑えられてバイト兄の下についたものの、反抗的な者もいたと聞いている。

 ちょっとした武力介入に乗り出してもいたのだ。


 だが、その程度ではとても満足できないのだろう。

 なにせ、俺が雫型魔石を埋め込んだことによってバイト兄も当主級の実力者になっている。

 騎士領内の豪族程度が反抗したくらいでは相手にもなりはしない。

 もっと血湧き肉躍る戦いが望みなのかもしれない。


 まあ、これはバイト兄だけの意見というわけでもないようだ。

 自分たちに力があると考えれば、もっとほしい、という欲も出てくるのが普通なのだろう。

 では、そんな力のある騎士たちが何を求めるのかというと、戦での活躍という名誉であり、領地だ。

 戦って勝ち、それによって領地を増やして、自分の力を多くの者に認めさせる。

 そう考える者が多かったからこそ、領地持ちの騎士の多くは俺が行ったバルカ式強化術を受けるために自分の領地内の土地を提供して線路を作る許可まで与えたのだ。


 現在のフォンターナ家は三貴族同盟と揉める可能性もあったが、うまくパーシバル家をスケープゴートにすることに成功している。

 ほかの二家に攻められたパーシバル家はかなりの抵抗をしているものの、やはり数の力の前にはどうしようもなく、劣勢に立たされている。

 そのため、比較的安定して地力を蓄える余裕のあったフォンターナ家が、カルロスの死という喪に服している期間が終われば動くことも考えられた。

 その時、当主級になったのが俺とバイト兄とバルガスだけだったらどうなるだろうか。


 考えるまでもないだろう。

 騎士同士ではなく、貴族同士の戦いになった場合、当主級であるか否かで武功を立てられるかどうかは大きく違ってくる。

 だからこそ、命よりも大事であると言っていいかもしれない土地の一部を提供したとしても当主級の力を求める騎士が多くいたのだ。

 いずれ来たるべき戦いで、自陣営の味方に後れを取らないために。

 これはつまり、言い換えると別の意味にもなる。

 それは、フォンターナ家の多くの騎士が新たな戦が起きるのを今か今かと待っているということだ。


「で、もう一度聞くが、どうするつもりなんだ、アルス? 来年の春くらいにはどこかと戦わないのか?」


「んー、まあバイト兄には言っとかないとな。実はもう次の戦いについて考えている。バイト兄の率いるバルト家も力を貸してほしい」


「お、なんだ。やっぱり、お前もそのつもりだったんじゃねえか。いいぜ、いつでも力になってやる。いつ出陣するんだ? 来年の収穫が終わってすぐか? それとも、雪解けすぐにでも動くか?」


「いや、違うよ。来年じゃない。今年だ。雪が降る頃合いに動こうと思っている」


「……は? もうすぐ冬だぞ、アルス。雪が降るのはもうすぐだ。お前も分かっているだろ。雪が降ったら動けなくなるんだぞ」


「だからだよ。雪が降ればどこの貴族も軍を動かしづらくなる。だからこそ、その時を狙う」


「お、おう。そんなのうまくいくのか? ていうか、どこを狙うんだ? すぐ南の貴族家か?」


「違うよ。狙うのはもっと南だ。パーシバル家の領地だよ。カルロス様の弔いだ。パーシバル家を叩く」


「……パーシバル家? 三大貴族の、あの大貴族をか? 本気で言っているのか、お前?」


 あ、バイト兄がポカンとしている。

 やっぱり、予想外だったみたいだ。

 こいつ頭大丈夫か、という感じの目で俺を見ている。

 が、もちろん俺は本気だ。

 カルロスの死に対して一年間喪に服すとは言ったが、それは今年ずっと喪に服しているという意味ではない。

 カルロスは去年、冬が来る前に王の護送中に死んだのだ。

 つまり、冬になる頃には一年が経過したことを意味しており、喪に服す期間をすぎたことになる。

 なので、そのときに動く。

 狙うべき相手は三大貴族家の一角であるパーシバル家。

 なんとか、攻撃してくる他の二家の軍が退いていく冬まで持ちこたえたと思わせたところを襲撃する。

 そのための進軍について俺はバイト兄と細かく話し合うことにしたのだった。

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