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ラジオの狙い

『はーい、みんなお待ちかねのキリの星占いの時間だよー。まずは、今日の運勢を発表するねー』


 俺が作ったラジオからキリの声が聞こえてくる。

 ちょうど、朝飯時に流れるキリの番組だが、これが意外と人気があるらしい。

 どこの世界でも占いというのは女性に人気があるのだろうが、占星術というのも関係しているのかもしれない。

 地震が起きる前に起こった天文現象を予測したのは占星術師のキリであるということがそこそこ知れ渡ったのだ。

 なので、占いのほかにもちょっと変わった天文現象を予測し、事前に予言することができるキリの番組は思いの外注目された。

 まあ、それがいつまで続くのかはわからないが、息の長い番組になってほしいものだ。


「ラジオっていうのはいいもんだな、坊主。かなり売れているぞ」


「まあ、持っているだけで情報が入ってくるからな。魔石なんかの消耗品もなしで聞くことができるこのバルカラジオは多少目端が利けば即買っていくだろう。我ながら久々にいい商品を作れたって実感があるよ」


「ああ、これは間違いなくもっと売れるぞ。それに坊主が各地の教会や学校に無償で提供して普及を進めたのも大きい。今、それらの施設は人がよく集まってきているらしいからな」


 バルカニアにバルカ文化放送局なるものを作り上げた。

 だが、ラジオというものを全く知らない人にとってみれば、俺が作った商品は何をするものなのかひと目ではわからない。

 なので、デモンストレーションなどを行ってラジオがどういったものかをお披露目することにしたのだ。

 そして、そのついでに各地の教会や学校などにもラジオ受信器を無償提供して普及に努めている。


 教会にも受信器を贈ったのは、ラジオで教会の説法も流れているからだ。

 各地にある教会は基本的に名付けを行い、その地の人々に生活魔法を与えるという大きな役目があるが、それ以外にも普段から人々に対して説法をしている。

 つまり、普段から学のない人に向けて聖書などの内容をわかりやすく伝えるための話術を使っているのだ。

 音声のみを届けるラジオは身振り手振りなどのジェスチャーはほとんど意味をなさず、純粋に話術スキルの高さが面白さに繋がりやすい。

 そのため、教会の神父やシスターに出演してもらうことも多かったのだ。

 聖書の内容を引用しつつ、普段の生活に結びつけて話す神父たちの話は安定した需要があったというわけだ。


 現在は、いろんな人に出演してもらい、内容が安定して面白く人気があると判断されたパーソナリティーは朝夕の食事時の時間帯が当てられた。

 やはり、一番ラジオを聞きやすい時間というのは食事を食べているときらしい。

 録音放送ではないので、生放送独特の失敗みたいなものも起こることがあるが、それでもそれなりにうまくいっていると思う。

 ラジオは作れば作るだけ売れる、という状況になっていた。


「そういえば、このラジオは他の貴族領でも販売してもいいんだよな、坊主?」


「もちろん。売れるなら禁止する意味も無いからな。どんどん販売してくれていいぞ、おっさん」


「よかった。商人たちの話を聞いていると、よそでも注目されているらしいからな。とりあえずは、経済力の高い王都圏を中心に販売網を広げていくことになると思う」


「そうだな。それでいいと思う。ぜひとも王都圏の人間にはバルカ文化放送を楽しんでもらいたいものだ。そうすれば、次の段階にも移行できる」


「次の段階? なんだそれは。そんなこと俺は聞いてないぞ、坊主」


「まだ誰にも言っていないからな。つっても、そんな変なことをするつもりはないけど」


「ちょっと待て。坊主が何をするつもりなのか、今のうちにきちんと聞かせてくれ」


「いや、別に心配するようなことじゃないよ。というか、おっさんにとっても悪い話じゃない。ある程度、ラジオがフォンターナ領や王都圏で普及したら広告を流そうと思っているだけだよ」


「広告、だと?」


「そうそう。今は番組だけを流している状態だけど、そのうち番組と番組の間に広告を流す時間枠を作るつもりだ。今日紹介するこの商品はここがすごい、みたいな話をラジオで流して購買意欲を刺激する。聞く人が増えれば増えるほど、その効果が上がるからな」


「……商品の広告か。確かに、どんないい品であってもそれが知られていなければ買うやつはいないからな。魅力ある商品を知ってもらうということではいい方法だと思う。けど、坊主はバルカのどの商品を広告していくつもりなんだ?」


「うん? ああ、違うよ。俺が売りたいものを紹介するんじゃない。商人や造り手が売りたがっているものを広告するんだよ。そいつらから金をもらってね。そうすれば、ラジオ受信器の販売が一巡しても金を稼げるようになる。というか、その広告料のほうが儲けの主体になるだろうな」


「なるほど。広告するために金を出させるのか。たしかにそれなら、ラジオが普及した後の安定的な収入にもつながる。意外と考えてるな、坊主」


「おいおい、意外ととか言うなよな。ちゃんと考えてるんだよ、俺なりにな」


 バルカ文化放送局にはいくつかの役割がある。

 一つはまず情報を多くの人に送り届けるというところにある。

 キリの番組ではないが、地震などの被害があったためか多くの人はなんでもいいから情報を欲しているのだ。

 何かあったときのために、すぐに送られてくる情報があれば役立つことも多いだろう。


 そして、それと同時にバルカについて伝えることも重要だ。

 まことに遺憾ながら、俺は悪魔などと不名誉な言われ方をしているらしい。

 特にフォンターナ領を出るほど、その悪名は大きく広がっているらしい。

 そんなマイナスイメージを払拭するために、ラジオを利用する。

 といっても、これは特別に俺の良いところをアピールするというわけでもない。

 が、俺やバルカの悪口を放送で流すことがあればどんな人気のあるパーソナリティーであっても即クビにするつもりだ。

 権力者による放送への介入は良いことではないかもしれないが、がっつりと放送内容に口出ししていく所存である。


 そして、最後に広告収入を得ることも狙いに入れている。

 最初はバルカの商品について広告し、それがどの程度の効果があるかを具体的な数値として実績を出せば、金を払ってでも商品を広告したいものも出てくるだろう。

 なにせ、俺も今まで色んなものを作ってきたが、商品を売るためには貴族であるカルロスなどに献上して使ってもらい、貴族御用達などの付加価値をつけないといくら優れた商品でも売れないということを経験してきたのだ。

 だが、誰でも貴族と繋がりを持てるものではない。

 いくらいいものを作ったとしても、そのような付加価値をつけることができずに埋もれる商品もある。


 そんな埋没しそうな品を金さえ出せばアピールできる広告というシステムは今までにない大きなビジネスチャンスになりえるはずだ。

 そして、それは比較的裕福な人が多い王都圏を巻き込むことが条件でもある。

 そのためにも、俺はある程度フォンターナにラジオを普及しつつも、王都圏に対しても積極的にラジオを聞く人が増えるように働きかけることにした。

 そして、それがある程度進んだころになると、王都にいるリオンから俺の悪い評判が王都周りから少しずつ減ってきているという報告も来るようになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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