可能性の獣
グランがもたらした画期的な技術によって、正確な時計を作る目処がついた。
というわけで、早速時計塔を作っていこうと思う。
現在、フォンターナの街は周りを壁で囲われている。
そして、その壁の中の土地の中央は少し盛り上がった小さな丘のような地形をしており、そこにフォンターナ家の城が建っている。
パウロ大司教のための大教会は新たに拡張する予定の土地に建てるが、城はこの丘の上に建てることになるだろう。
丘という高い位置に時計塔を設置し、それを街中から見えるようにする。
そうすれば、このフォンターナで一番重要なのは大教会ではなく、フォンターナ家の城にいる人物なのだといわずともわかるようになるはずだ。
が、現在の城をいきなり潰して新しい城を建てるわけにもいかない。
今も政務を執り行う場として使用中であり、そこがなくなると困るのだ。
なので、先に時計塔を設置して、その後、その時計塔と接続するように城を建設する。
いろいろと協議した結果、時計塔は俺とグランが主導するようにして作り上げ、その他の城部分はフォンターナ家のもともとの家臣が建築家を雇って作ることになった。
グランに対してどう思うか聞いたところ、別にそれでもいいとのことだ。
むしろ、著名な建築家と共同で城を造ることになるのでいい刺激になると喜んでいた。
「じゃあ、ちゃっちゃと時計塔だけでも作っておこうか。一応、完成予想としてはこんな形の塔を建てて、塔の上部に四方向から見ることのできる時計盤をつけようと思っているんだけど作れるかな」
「時計盤を4つ、塔の壁につけるだけでござろう? 同じ時計を複数作るだけならそこまで難しい問題ではないでござるよ、アルス殿」
「そうなのか? 4つの時計盤を同時に動かすように歯車の組み合わせを調整しないといけないんじゃないのか?」
「別にそんなことをしなくともいいでござるよ。ヴァルキリーの角の共振動現象を利用すれば、別々にしても問題ないのでござる。それよりも、内部を複雑な機構にしないほうが故障したときに修理しやすいのでござるよ」
「ああ、なるほど。作りを複雑にしないほうがいいのか。時計塔なら秒針もいらないだろうし、最低限の機構で作ることができるってことだな」
「そうでござる。時計塔の内部に魔電鋼と水晶、加工ヴァルキリーの角を使った動力源さえ設置すれば、共振動現象のおかげでいくらでも時計塔を作れるのでござる。それこそ、遠距離に同じ時計塔を作ることも可能でござるよ」
「遠距離にいくらでもってことは、例えばバルカニアやウルク地区のバルトニアなんかに時計塔を作っても動くってことだよな? つまり、その場に魔電鋼が無くてもいいってことか?」
「もちろんでござる。ここフォンターナの街にできるはずの時計塔が動いていさえすれば、ほかの地に作ったものは魔電鋼を必要としないのでござる。同じ形に加工したヴァルキリーの角さえあれば、でござるが」
「……ちょっと待て。それじゃ時計塔に定時で鳴る鐘を作ったとしてだぞ。その鐘に加工したヴァルキリーの角をつけていたら、それは同じ形の角を振動させることになるのか? 魔力とかは必要なく?」
「そのとおりでござる。あくまでも共振動現象というのはヴァルキリーの角が持つ特性でござるからな。魔法剣などのように魔力を注がなければ効果を発揮しないものと違って、魔力の有無は関係なく引き起こされる現象でござるよ」
まじか。
音叉のように近くで振動が共鳴するようなものと違うとなると、どこからその動きを可能とするエネルギーを得ているんだと思わなくもない。
いったいどんな原理でそんなことが起こるのか、いまいちピンとこないがグランができると言っている以上それはできるのだろう。
ということは、時計台の鐘を各地で全く同時に鳴らすことも可能だということだろう。
フォンターナの街にある時計台が鐘を鳴らすとき、その鐘の内側にでもヴァルキリーの角をつけておけば、それが別の地で鐘の動きを再現するように振動して音を鳴らすことも可能なのだから。
最悪、時計塔が無くとも鐘さえ吊るしておけば同一時刻に音を鳴らすこともできるということか。
……というか、それならもっと活用方法があるのではないだろうか。
パッとは思いつかないが、グランの話を聞いて糸電話を思い出した。
2つの紙コップの底部分に糸をつなげて、片方が紙コップに向かって話しかけ、もう片方が耳に当てる。
すると糸を伝わった振動によって、遠く離れていても相手の声が聞こえるというものだ。
これは電話の技術につながるかと思ったが、現状ではリード家の【念話】がある以上すぐに必要なものではないだろう。
が、電話以外にも活用できる気もする。
やばいな。
ただでさえヴァルキリーの性能はすごいというのに、いろんな活用法まであるとは驚きだ。
ますます重要度が上がってしまうではないか。
グランとの会話で改めてヴァルキリーの偉大さに気がついた俺は、その日、フォンターナの街にいるヴァルキリー一頭一頭を丁寧にブラッシングして感謝の意を示したのだった。
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