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時を支配する城

「というわけで、助けてグラえもん」


「……アルス殿、拙者の名はグラえもんなどというものではござらんよ」


「ごめんごめん。でも、新しい城を作ることになったからさ。やっぱり、ものづくりはグランに頼むのが一番だと思ってね」


「あ、アルス殿はそこまで拙者のことを評価しているのでござるか。拙者、感激でござるよ」


「そりゃ、お前以外には頼めないからな」


「……拙者以外には? 何故でござるか? 建築の知識を持つものは拙者以外にもいるでござろう」


「建築技術のあるやつはそりゃいるけどさ。俺が今回作りたいなって思っている城は他のやつじゃ無理だよ。なんたって、大司教に相応しい格式の大教会にも負けない、変わった城を作りたいんだからな」


「確か、大教会とやらにもアルス殿の作るステンドグラスを使用するのでござるな? それに負けない城作りはなかなか大変そうでござるが、なにか考えがあるのでござるか?」


「ああ、時計塔を作ろうと思う」


「時計塔、でござるか?」


「そうだ。同じステンドグラスを使った城はすでにバルカにもあるしな。同じようなもので違いを出そうとしても大きさとかくらいしか変化をつけられないだろう。だから、別の方法で違いを出す。そのために、大きな時計塔を城に設置しようかと思ってな」


「なるほど。それで、拙者のところに話を持ってきたというわけでござるか」


「ああ、そうだ。グランからも時計作りに進展が見られたって話がきていたところだからな。できそうなのか、水晶と魔電鋼を使った正確な時計は?」


 フォンターナの街に新たに作ることになった城。

 この城は同じく新たに建築予定の大教会に少なくとも負けてはいけない。

 だが、これから新しく街の外壁を作り直して広げた土地に建築することにした大教会と比べると、使える土地に制限があるのだ。

 うまくスペースをやりくりする匠の技を発揮して城を作る必要があるが、それだけでは足りないだろう。

 誰もが驚く城にしたい。


 そのために、俺が考えたのは時計を使うというものだった。

 城にどでかい時計塔を設置して、フォンターナの街に住むものは誰でも時刻を見られるようにしてみるのはどうだろうかというアイデアである。

 なんなら時刻を知らせる鐘を鳴らしてみるのもいいかもしれない。

 そんなイメージを膨らませた俺は、その考えを唯一実行できそうなグランへと話を持ち込んだというわけである。


 グランには冬に手に入れた魔電鋼という不思議な物質を預けて時計を作るように依頼していた。

 水晶と電気を利用したクオーツ時計のように正確な時刻を刻む時計だ。

 だが、さすがに難しい技術であるだけに、絶対にクオーツ時計にこだわるというのはやめてもいい。

 ある程度の正確性があるなら、ゼンマイ式の時計でもいいと思っていた。


 だが、そんな妥協気味の提案をしようとしていた俺の行動よりも早く、グランの方から報告が上がっていた。

 水晶と魔電鋼を使用した時計の設計について、目処がついたというのだ。


 ……本当なのだろうか?

 自分で依頼しておきながらこんなことを言うのもあれだが、クオーツ時計は少々無茶ぶりが過ぎたかなと思っていたのだ。

 いくらグランでも、さすがにそんな高性能なものをちょちょいと作るなんてことは無理だろうと反省していたくらいなのだが。


「ふっふっふ。拙者を甘く見てもらってはいけないのでござるよ、アルス殿」


「つっても、まだ実物を作ったわけではないんだろ? 本当に作れるのか?」


「もちろんでござるよ。あれからいろいろと研究したのでござる。そして、ようやく見つけたのでござるよ。アルス殿に依頼された時計を作るために必要な、もう一つの材料が」


「もう一つの材料? えっと、確か魔電鋼が泥人形として泥をどうやって動かしていたのかを研究するとか言っていたよな。そっち関係でなにかおもしろい発見でもあったのか?」


「……魔電鋼を用いて物体を動かす、というのはできなかったのでござる」


「あ、そうなんだ。それができれば面白かったんだけどな」


「それは拙者も実現したかったでござるよ。でも、無理でござった。なので、他になにか使える素材がないかどうかを探すことにしたのでござるよ」


「他の素材か。なんだろう。時計作りに使えるような変わった素材なんてあったっけ?」


「きっかけは振動にあったのでござるよ、アルス殿。魔電鋼から発せられる電気を水晶に流すことで細かく規則的な振動が生まれるのでござるが、それをいかに時計の針を動かすために活用するのか。それは、共振動現象を持つ素材を利用することで解決したのでござる」


「共振動現象? なにそれ?」


「聞いて驚くでござる。ヴァルキリーの角でござるよ、アルス殿。あのヴァルキリーの頭に生えている角は変わった特性を持っていたのでござる。全く同じ形に加工したヴァルキリーの角に対して振動する水晶を触れさせると、その振動が水晶とは触れていないはずの同じ形に加工した別の角に伝わるのでござる。拙者はこれを共振動現象と呼ぶことにしたのでござるよ」


 なんだそりゃ?

 俺が使役獣の卵から孵化したヴァルキリーの角にそんな変な特性があったのか。

 ……まあ、あってもおかしくはないのかもしれない。

 なぜなら、ヴァルキリーは生まれながらにして持つ固有魔法として【共有】というものを持っているのだ。

 この【共有】のおかげで、俺が名付けした初代ヴァルキリー以外もフォンターナやバルカの魔法を使うことができるうえに、群れ全体で魔力を共有しているのだ。

 共振動現象とやらがあってもおかしくはないだろう。


 グランはこの現象を発見し、それを時計作りに応用することにしたのだという。

 簡単に言うと、魔電鋼を使って電気を発生させて、その電気を水晶に流す。

 すると、水晶は規則正しく振動する。

 そのとき、加工したヴァルキリーの角を振動する水晶に触れるようにしておくのだそうだ。


 水晶の振動を感知したヴァルキリーの角は、共振動現象によって同じ形に加工された別の角を振動させる。

 これは驚くべきことに距離が離れていても起こるのだそうだ。

 この振動を利用して時計の部品の歯車を回すのだという。

 部品として使用する角の形を振動によって効率的に歯車を回す形に加工しておくのがポイントだそうだ。

 うまく時計を動かすための動力になるように振動を制御するため、特殊な形に加工する技術がいるらしい。

 が、現段階でこの加工は完成形が見えている。

 あとは、実際に歯車を動かして時計の針を動かすだけで俺の要求したものを作ることができる。


 いや、違うか。

 グランは俺が要求した以上の時計を作り上げることになるだろう。

 なぜなら、共振動現象は一対一の関係ではないからだ。

 同じ形に加工さえしていれば、水晶の振動を複数の角が受信することができるのだ。

 それはつまり、複数の角は完全に一致した動きをすることを意味する。

 一瞬たりとも狂いなく同じタイミングで歯車を回す装置を作ることすら可能なのだ。


 こうして、グランは俺の予想を超える技術を作り上げた。

 すべての時計を完全に制御する時計塔を持つ新たな城。

 グランのもたらした画期的技術を用いた新たな城は、今まで存在しなかった「時を支配する城」として建設することになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 角が摩耗するだろうから定期的に交換する必要があるので、ヴァルキリーが滅びると。 時 の 支 配 が 乱 れ る
感想一覧
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