線路敷設
長年の夢だった線路作り。
俺はそれを普通の工事ではなく、道路などと同じように魔法で作ることにした。
今はまだ呪文化していないが、今回の線路作りでは呪文として作り上げてしまい、他のバルカの騎士によって各地に線路を伸ばしていこうと考えているからだ。
なので、基本的には道路と同じように真っ直ぐに線路を敷くことになる。
しかも、線路同士を途中でスイッチなどで切り替えたりする装置もない、本当にシンプルな単線の線路を作ることにした。
新たに線路を敷設する土地を確定し、そこにまずは先行したバルカの騎士たちが【整地】をしていく。
そして、バルカニアからとりあえずはドレスリーナへと向かう方向へ真っ直ぐ向かう線路を敷いていく。
事前に気球や飛行船を使い、空からも確認しながら、リード家の人間が【自動演算】で寸分の狂いもなく真っ直ぐに線を引くようにドレスリーナの方向へいけるように計算しているので間違いはない。
その状態になってから、俺は地面へと手をついて魔力を送り込んだ。
俺の魔力を使って地面の土を利用しレールを敷く。
実はすでにレールについては実際に作ったものがあり、それを【記憶保存】で覚えているのですぐに作ることができた。
レールは以前バルカニアで作ったことがあったのだ。
それはバルカニアの北に広がる森のなかでも、木こりたちによって計画的に伐採されることになった森林保存区にある。
伐採した木材をバルカニアへと楽に運ぶためにも、レールを作ってその上に車輪を転がして移動できるようにしていたのだ。
そのレールを利用して線路を作っていく。
再び地震が起こっても簡単には壊れないような線路を作る。
そのために、地面の下の土を硬化レンガ製の床へと変化させる。
一応、道路づくりのときと同じようにわずかな丸みがある地面にして雨が降ったときなどに水が左右の溝に流れていくように設計している。
そして、そんな土台の上にレールをつくる。
これも硬化レンガで作ることになる。
だが、レールに使用した硬化レンガは今までの道路よりもツルツルに磨き上げたような表面にした。
道路を硬化レンガで作ったときに、一度鏡のようにきれいに磨き上げたような硬化レンガにしたら、まるでスケートリンクのように滑ったのだ。
特に雨が降って濡れたときなんかはやばかった。
あまりにも滑りが良すぎるということで、見た目はきれいだが歩行するための道としては危険極まりないものになったという経験があった。
そこで、【道路敷設】という呪文として完成したものはあえて多少ザラつきがある滑りにくい石畳となるようにしたということがあったのだ。
が、レールならばそれよりも滑りを良くして摩擦抵抗を減らすのもありだろう。
狂いなく、まっすぐに伸びるI字型の2本のレールが続く線路が俺の魔力で地面にその姿を現した。
どうしてもカーブが必要なときは、そこだけは鉄のレールでも作って工事しよう。
とりあえずは、この真っ直ぐなレールの線路を作れるように呪文化していく。
こうして、俺は地面に手を当てながら延々と真っ直ぐに伸びるレールを作って前に前に移動していったのだった。
※ ※ ※
「坊主、線路の上に列車を設置したぞ。いつでも試運転を開始できる」
「分かった。それじゃあ、出発進行だ。発進してくれ」
バルカニアからドレスリーナに向かって続く真っ直ぐな線路。
それが完成したところでは、まだまだ線路作りの魔法は呪文化できていない。
だが、一度線路作りはそこで中断して、そのレールの上を列車を走らせてみることにした。
おっさんの準備ができたという声を受けて、俺が列車を発進するように指示を出す。
それを聞いて、線路の上を列車がなめらかに進みだした。
しかし、列車という言葉を使ってはいるものの前世で見たことのある電車などとは全く違っている。
というか、これは俺は前世で実際にみたことはないが、いわゆる馬車鉄道というやつだろう。
俺は作り上げた線路の上を走る列車の動力として、ヴァルキリーの力を利用することにしたのだ。
わざわざ線路を作って列車が走れるような環境を作り上げたのだから、本当ならば炎鉱石を使った蒸気機関車や魔電鋼を使った電車を作りたかった。
だが、現状ではそれは難しかったのだ。
技術的な問題だけではない。
炎鉱石も魔電鋼も、そのどちらも武器の材料として優秀すぎるという点がネックになった。
炎や雷を放つ魔法剣という希少な武器を作ることができる貴重な物質が、線路という限られた移動ルート上を行き来していたらどうなるだろうか。
確実に狙われるだろう。
あまりにも貴重すぎる戦略物資だけあって、それを列車の動力源として使うことができなかったのだ。
仕方がないので、列車の移動はヴァルキリーがその動力源となることになった。
俺のイメージする電車などと比べるとやはり積載量などに不満が残る。
が、今はこのくらいでもいいのではないだろうか。
少なくとも、レールというものを活用することによって、同じヴァルキリーが荷車を引くよりも楽に大量の物資を輸送することに成功している。
しかも、通常の道路とは切り離して線路として作ることで移動の邪魔となる歩行者や他の荷車がいないため移動効率が格段にいい。
バルカニアからドレスリーナまでの移動は格段にしやすくなったと言えるだろう。
試運転はとくに問題が起こることもなく、上々の結果で終わった。
その後、バルカニアへ向かう復路となる線路をもう一本作り、さらにドレスリーナからフォンターナの街までの線路を作る。
線路を引きながらも実際に使用してみて、問題点をあぶり出し改善を加えることも忘れない。
そうして、ひたすら線路を作り上げながら、なんとか呪文化することにも成功した。
こうして、バルカの騎士は新たに【線路敷設】という呪文を使用可能となり、フォンターナ領各地に向かって新たな輸送路が構築されていったのだった。
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