長年の夢
以前から考えていたことがある。
それはもっと流通を良くしたいという思いから発したものだった。
フォンターナ領は俺が作り上げた【道路敷設】という呪文を使うことで、かなり上質な道路を短期間で作り上げることに成功している。
それによって、今までよりも陸路を移動するスピードがあがり、人の行き来も増えた。
もっとも、これはカルロス時代からの関所での通行料撤廃なども関係してるだろう。
このおかげで、流通の便はかなりよくなった。
が、もう少し良くならないかという思いも俺の心に残り続けた。
なにせ、ある程度金を持っている商人でなければ荷車を引くための騎竜といった使役獣を所有していないのだ。
しかも、使役獣にはいろんなタイプがいて、荷物を引いている姿形は千差万別で、進むスピードも違う。
【道路敷設】で作り上げた幅数mの道路は移動速度の違う者たちが思い思いのスピードで動いているため移動効率が悪かったのだ。
だから、それを解消するために輸送路を作り上げたいという気持ちがあった。
そして、陸で活躍する輸送機関として思い浮かぶのは線路の上を走る列車だろう。
前世の記憶を持つ俺は当然、この線路作りを夢見ていた。
だが、その思いは今まで実現するには至っていない。
それはなぜか。
理由はもちろんある。
当初の村数個しかないバルカ騎士領ではそこまで線路を必要としなかったからだ。
距離が短いのであれば、わざわざ道路とは別に線路を敷いて維持管理していくのは少々効率が悪い。
故にバルカ騎士領の中だけで大々的に線路作りをしていくことはなかった。
では、それをバルカ騎士領の中だけに留めずにフォンターナ領全体に配置するのはどうかという考えにつながるだろう。
しかし、そこでは新たな問題が出てくる。
バルカ騎士領以外の土地は俺の管理下には無い。
ほかの騎士が独自に治める土地に勝手に線路を敷いて、荷物を運ぶことなどできなかったのだ。
つまりは、大規模に線路を作っていこうとした場合、土地の利用などのさまざまな権利関係が問題となってくるのだ。
本気で線路を作って輸送力をあげようと考えれば、各騎士に対して粘り強く交渉を繰り返し、理を説いて、実利を提供し、あるいは力で脅して説得を続けなければならない。
が、そんなことをする気にはとてもなれなかった。
もしそんなことをしようとすれば膨大な時間を交渉に当てなければならないし、仮にどこかの騎士に許可をもらっても、その先に線路を敷きたい土地の騎士との交渉が失敗すればすべての意味がなくなるのだ。
もしやろうとすれば、フォンターナ領のほとんどの騎士に許可をもらうくらいではないとできはしないだろう。
とてもできる気がしなかった。
だが、バイト兄がウルク地区の東にバルト騎士家として独自の領地を持つに至った頃に、やはり線路がほしいという思いが再燃してきた。
それはバルト騎士領の鉱山で採掘された鉄をバルカニアに運んで、炎高炉で製鉄するようになったからだ。
鉄のような重たい金属をもっと運びやすくしたい。
そのために、線路がほしいと常々思っていたのだ。
そうして、そのチャンスがようやくやってきた。
俺がバイト兄やバルガス、あるいは他のバルカの騎士に対して雫型魔石を体内に埋め込むというとんでもない方法で新たな当主級が生まれたことで状況が変わってきた。
平民から騎士になるというのは、通常ではかなり珍しく難しいこととされている。
そして、さらにそれ以上に難しいのは通常の騎士から当主級という実力者に昇り詰めることだろう。
一般的には当主級というのはその貴族家の当主か、あるいはその血縁を利用して領地にいる複数の騎士から魔力を集めた特別な者くらいなのだ。
もし、そんな当主級に自分がなれる可能性があるとしたらどうか。
少々無茶な要求であっても、それを飲み込んでしまうというのは誰も責められないだろう。
かくして、俺が代価として持ち出した、輸送専用路のための土地の提供、という領地を治める者なら簡単には頷けない条件を多くの領地持ちの騎士たちが了承した。
ビルマを治めるエランスのほかにもイクス家のガーナ、ちゃっかりと入っているピーチャなどもそうだ。
俺がその条件を提示したら、あっという間に我もわれもと手を挙げたのだった。
※ ※ ※
「とりあえずの目標はフォンターナ領を横断する線路を作るって感じかな。バルト騎士領の鉱山から採れた鉄をバルカニアに運ぶ路線、それにバルカニアからアーバレスト地区までもつなごう」
「ちょっと待ってほしい。貴殿がいきなりいろんな変わったことを行うのはよく知っているが、その線路というのはどういうものなのだ? 本当にそんなに大規模にやる必要があるのか、全くわからんのだが……」
「なるほど。確かにピーチャ殿の言うことももっともですね。なら、とりあえずバルカニアとフォンターナの街を結ぶような線路を作って、列車を引いてみますか」
さすがに、いきなり見たこともないものを自分の土地に作ると言われても困惑してしまうか。
そう考えた俺はすぐに作業に入った。
早速俺はバルカニアを出発点として地面に手をつけながら魔力を使って硬化レンガ製のレールを敷設していったのだった。
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