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暗躍と傍観

「で、その三頭会議に出席したリオンのやつは無事なのか、カイル?」


「うん。ちゃんとその後に報告があったから大丈夫だよ、アルス兄さん。今はパーシバル家に対して他の二家が責任を追及しているところだって。リオンさんはまだしばらく王都に残って、三頭会議の流れをみる予定だって言っていたよ」


 いつの間にやら三貴族同盟会談から三頭会議と名を変えていた集まりが、今度はパーシバル家の責任追及機関へと変わってしまっていたようだ。

 まあ、それも仕方がないだろう。

 王を殺したのはパーシバル家である、とリオンが言い、その証拠を提出したのだ。

 ここで、ラインザッツ家やメメント家がそれを無視するわけにはいかない。

 なぜなら、その情報はすでに王家などにも渡してある。

 見て見ぬ振りをすれば、それは王殺しに他の家も関与していたのではないかと疑われることになるのだ。


 王家の影響力はいまだに大きい。

 というよりも、王都圏の経済力というべき力関係が影響力を持っているのだ。

 王家が所有する領地はさして広くなく、その王領のそばには複数の弱小貴族が密集するようにくっついている。

 そして、それらの貴族家は王家に対して今でも忠誠を誓っている。

 それらをまとめて王都圏などと呼ぶのだ。


 この王都圏は大貴族ほどの武力を持ち合わせてはいない。

 というよりも、下手をしたら攻め込まれたら僅かな期間で簡単にすべてを奪われてしまいかねないほどに弱いらしい。

 では、なぜそんな弱い連中が束になって固まっているとはいえ存続できているのか。

 それは経済的な力を持っているからだった。


 かつて、この地は初代王によって統一された一つの国であり、各地に貴族家が配置され、それぞれの貴族家が王から与えられた領地を治めていた。

 だが、長い歴史の中で王家の力が激減し、各地の貴族家が台頭し、王家から離れていった。

 その中で各貴族家は独自で持っていた攻撃魔法を使って領地を奪い合い始めたのだ。


 が、攻撃魔法を持たない貴族家というのも存在していた。

 いや、むしろはるか昔の安定していたころにはそちらの貴族家のほうが多かったようだ。

 では、それらの攻撃魔法を持たない貴族家はどのような魔法を持っていたのか。

 それは、いわゆる生産型や文化系と呼ばれる魔法系統だった。


 バルカニアにいる占星術師であるキリの一族はかつて貴族だったそうだ。

 星の運行をもとに占いの魔法を発動するが、そこに攻撃魔法などはなかった。

 そんな文化系魔法のほかに、生産型の魔法を使うものもいる。

 これは俺が魔法でレンガやガラスを作るのに似ているのかもしれない。

 というか、俺の魔法の中に【散弾】が無ければ、バルカ家は生産型魔法の使い手と認識されていたのだろう。


 長い動乱の続いたこの国で、これらの直接的な戦うための力を持たない貴族家は多くが滅亡していった。

 が、なんとか現在でも生き残った貴族も存在する。

 そのような貴族家はどのようにして生き残りを図ったのかと言うと他者の庇護を得ることでだ。

 つまり、生産型・文化系の魔法を持つ貴族家は攻撃魔法を所持する貴族家の下についたのだ。


 もっとも、それらは格下の魔法と蔑まれ庶民レベルからも人気がない。

 なぜなら、攻撃魔法を持ち、領地を治めている貴族家から所有品のように扱われたのだから。

 彼らは生涯を俗世とは離れた場所に隔離され、上から命じられたようにものを生産し続けるだけの機械のような扱いを受けるようになっていったからだ。


 だが、そうならずに存続できた貴族家もいる。

 それが王都圏に集まった貴族家たちだった。

 王領周辺で寄り集まるようにして土地を治めつつ、そこで自らが持つ魔法を使って物などを生産する。

 そして、それらは王家のものとして他の貴族領に流れるのだ。

 なかには魔法でしか作り上げることができないものも存在してる。

 よそでは手にはいらない価値を一つの貴族としてではなく、複数が集まる集団として守っているのだ。


 ここに手を出すのはいかに勢力の大きな貴族といえども難しい。

 なにせ、他では手にはいらない物を魔法によって作っている貴族を武力でもって殺してしまえばその損失は計り知れないのだ。

 そのような歴史的背景があり、基本的にどのような勢力が覇権貴族としてのし上がってきても、王家と手を結び、王都圏の生産物の流通ルートを押さえるだけにとどめてきたのだ。


 だからこそ、王殺しは罪に問われる。

 王を殺すということは王都圏の貴族すべてに手をかける可能性を自ら証明したことにもなるのだ。

 そして、そのような危険な行動をとる貴族と歩調を合わせていると思われると困る。

 つまり、パーシバル家はすべての貴族家にとっての敵であり、許してはいけない存在であることになるのだ。


「でも、リオンさんはすごいよね。王とカルロス様を襲撃した犯人をしっかり突き止めたんだから」


「うん? いや、どうなんだろうな。あのときはリオンもすぐに逃げざるを得なかったから、真犯人は誰だかわからなかっただろう。本当にパーシバル家が黒幕なのかは闇の中だろうな」


「え? でも、リオンさんは三頭会議でパーシバル家が王殺しをした証拠を提出したんだよね? だからこそ、ほかの二家もそれを認めて責任を追及しているんじゃ……」


 カイルがポカンとしながら聞いてきている。

 その姿をみて素直ないい子に育ったな、と思わずにはいられない。

 だが、そんなカイルには言いづらいのだが、実際にはまともな証拠なんてさして残っていなかった。

 なぜなら、カルロスが死んだ直後に俺はその死の原因追求に積極的に動かなかったからだ。

 つまりは、あのときリオンが王殺しの確たる証拠を探すほど調べることはできなかったことを意味する。


 では、なぜリオンはパーシバル家が王殺しを手引した犯人であると断じたのか。

 それは俺がそういうようにリオンに指示を出していたからだ。

 間違って他に情報がもれないように、リード家の【念話】ではなく、それ以外の情報網を使って指示を出していたからカイルはそれを知らなかったのだろう。


 別に王とカルロスを殺した犯人役を他の二家、つまりラインザッツ家やメメント家に仕立て上げることもリオンならできただろう。

 そうせずにパーシバル家を犯人に仕立て上げたのは、単に都合が良かったからだ。

 三貴族同盟の中ではもっとも勢力が劣る第三位という位置に甘んじているうえに、今回の三頭会議で地震の原因が俺にあるとふざけたことを言い出すという情報も事前に入手していたからだ。


 リオンが説得するのは基本的に王家だけでよかったというのも大きかった。

 王家に対して、「王殺しの証拠をつかんだ」と報告すればいいのだ。

 あの襲撃で生き残ったのは数が少なく、リオンは貴重な証人でもある。

 それが当時の状況と合わせて適当な証拠を持ってきて、説明をする。

 それを反論したければ、犯人であると名指しされた者が真犯人を見つけ出すしか無い。

 だが、それができるのであれば、もっと早く真犯人を突き止めていることができるはずだ。

 つまり、リオンが犯人であるといった時点で高い確率で言い逃れができない状況が出来上がるのだ。


 そして、王家さえ説得してしまえば他の二家に対しては王家が話をすすめることになる。

 つまり、パーシバル家を追及すべきであるというのはリオンの提案ではあるが、王家の意思でもあるわけだ。

 当然ながら、それを無下にすれば共犯関係を疑われる。

 ラインザッツ家とメメント家はそれを断りにくい。

 こうして、俺から遠く離れた地でリオンが駆け回り、うまく立ち回ってくれたおかげで、地震の原因などというものに俺が付き合う必要もなくなった。


 その後、さらにリオンから入ってきた情報によるとパーシバル家はラインザッツ家とメメント家の両家と交戦状態に突入したようだ。

 本来ならば言い出しっぺであるフォンターナ家もその戦いに参加するのが流れかもしれないが、俺は動かなかった。

 カルロスの死を悼んで一年間喪に服すと宣言していたからだ。

 まあ、できるだけの支援はしてやることにしよう。

 パーシバル家と戦っている両家に対してそれぞれ食料と魔石の販売という名の支援をしながら、俺は北の地から三大貴族家同士の戦いを見守ることにしたのだった。

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