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新たな当主級

「氷精召喚」


 フォンターナ家が誇る氷の魔法。

 通常の騎士が用いる【氷槍】ではなく、使われたのはその上位に位置する魔法だった。

 【氷精召喚】というのは文字通り、氷の精霊を召喚し一時的に使役する方法である。

 ウルク家の【黒焔】とも、アーバレスト家の【遠雷】とも違う独特の上位魔法。

 2つの貴族家を打倒し、またたく間にフォンターナ領を拡大させたその上位魔法が発動された。


「おい、見ろよ。バルガスのやつはデカイ亀みたいだな」


「本当だな。氷をまとった亀か。守りが好きなバルガスらしいっちゃらしいな」


 その【氷精召喚】を発動したのは俺ではない。

 俺の配下の騎士であり、旧アーバレスト領都を中心としたアーバレスト地区を任せているバルガスがフォンターナ家の上位魔法を発動させたのだ。

 というか、あっという間だったなと思わないでもない。

 なにせ、つい先日までフォンターナ領でこの上位魔法を使えるのは俺くらいだったのだ。

 それが今は俺以外にも【氷精召喚】の使い手が現れることになってしまった。


 まあ、それもひとえに俺の行動によるものだろう。

 俺はミームによってもたらされた雫型魔石を体内に埋め込む手術を教わり、それを魔法で再現できるようになった。

 そこで、早速このことを何人かに話したのだ。

 バルガスもそのうちの一人だった。


 バルガスの腹部に触れて魔法を発動させる。

 と言っても、これは呪文化させていないので正式には魔術であり、現在のところ俺しか使えないのだが。

 だが、その効果は確実だった。

 バルガスの腹に触れながら、体にメスをいれることもなく、その内部に雫型魔石を作り上げた。


 これによって、俺と同じようにバルガスは体内に魔力貯蔵庫を持つに至った。

 そして、その魔石に魔力という液体を注ぐことでバルガスも位階が上昇したと言うわけである。

 こうして、晴れてフォンターナ家には新しい当主級が誕生したというわけである。


「よっしゃ。それじゃあ、いっちょ手合わせといこうぜ、バルガス。俺の氷精とどっちが強いか勝負だ」


「ああ、いいだろう。こっちの氷精に負けても文句を言うなよ、バイト」


「言ってくれるじゃねえか。望むところだ」


 そんなバルガスに対して突っかかっていくのは、別に俺ではない。

 その場にいたもうひとり、つまり、バイト兄がバルガスに勝負を挑んだのだ。


 新たに当主級となったのはバルガスだけではない。

 俺の兄であり、ウルク地区の東側を騎士領とするバイト兄もその一人だったのだ。

 当然バイト兄にも魔石を移植している。

 その結果、バイト兄も【氷精召喚】が使えるようになっていた。


 そのバイト兄が【氷精召喚】と呪文を唱えると新たに氷の精霊が現れる。

 青白い色の体をした狼のような氷精だ。

 バルガスの亀の形をした氷精に狼型の氷精が駆け寄っていき攻撃を開始する。


 バイト兄の氷精を仮に氷狼と呼ぶことにしようか。

 この氷狼は移動速度が速い。

 もしかしたらヴァルキリーよりも速いのではないだろうか。

 成人男性よりも体高がある大きな氷狼は恐ろしいスピードで走りつつ、左右ジグザグにピョンピョンと跳ねるようにして相手の攻撃を避けることもできる機動型のようだ。

 そして、その口にある牙と足にある鋭い爪で攻撃してくる。

 もちろん、氷の精霊として使える魔法もある。

 実際に相手にするにはかなり厄介な相手と言えるのではないだろうか。


 対するバルカスの氷亀は速度はない。

 が、小山のような大きな体と硬い氷の甲羅が恐ろしいほどの防御力を発揮しているようだ。

 氷狼による高機動攻撃を受けて、頭と手足を甲羅に引っ込めて完全防御の姿勢を貫いている。

 だが、さすがにそれでは防御一辺倒で氷狼には勝てないのではないだろうか。

 その戦いを見ているとそう思ったのだが、氷亀には攻撃手段もあったようだ。


 氷狼の攻撃を受けながらも、だんだんと攻撃準備が整っていく。

 それは甲羅にびっしりと氷槍が生えて、増え続けていたのだ。

 そして、氷狼による幾度かの攻撃が一段落して一度距離をとったタイミングで、氷亀からの攻撃が発射された。

 甲羅に生えた無数の氷槍が一斉に射撃されたのだ。


「あ、危ねえ!」


 亀を中心にして周囲全てに氷槍をぶっ放す攻撃が放たれた。

 安全圏にいると思って気を抜きながらその戦いを見ていた俺は慌ててガードする。

 体の大きな亀の甲羅から作られた氷槍は、フォンターナ家の持つ【氷槍】の魔法で作られる氷柱よりも太い。

 そんなものが周囲に無数に飛んでくるというのはなかなか危険な技を持っているなと感じてしまう。


「キャウン」


 そして、その攻撃は見事に氷狼へとあたったようだ。

 大きな氷の槍が体に当たり、大ダメージを負う氷狼。

 その氷狼の鳴き声を聞いたのかどうかはわからないが、氷亀はのっそりと甲羅から首を出した。

 しかし、それは早計だったようだ。

 大きなダメージを負ったとはいえ、いまだ氷狼は動ける状態だった。

 最後の力を使い、高速で氷亀へと駆け寄って甲羅から出た首へと鋭い牙を突き立てる氷狼。

 カヒュッという音がしたかと思うと、その後すぐに亀の首がグラリと落ちていく。

 そして、その首と同じように氷の狼も地面に倒れ伏した。


「くっそー、引き分けか」


「いや、今のは俺の勝ちだろう。氷亀の攻撃が先にあたって狼のやつは瀕死になっていたんだから」


「なに言ってんだ、バルガス。むしろ、次戦ったら亀に勝利はありえないだろ。あんな攻撃が来るって分かっていたら当たるはずないんだからな」


「おいおい、それこそ何を言っているんだよ。まともに攻撃が通らなかった時点で狼に勝ちはないさ」


 バルガスとバイト兄が言い争っている。

 まあ、言い争いとは言ってもそこまでヒートアップしてはいない。

 なんだかんだで、この二人もそれなりに長い付き合いになるしな。

 だが、そんなことよりも気になることがあった。


 この二人の氷精って強くないか?

 多分、今の戦いも軽い模擬戦程度のものだろう。

 それをみていると、俺の氷精って弱すぎないか? と思ってしまう。

 俺は同じ呪文を使っているはずなのに、明らかに強さに違いのある自分の【氷精召喚】と比べてショックを受けざるを得なかったのだった。

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