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質と量と回復と

 不思議な感覚だ。

 いつものように静かに呼吸を繰り返す。

 大気中に漂う微量の魔力を呼吸を通して体内に取り込む。

 そして、その空気中の魔力と食べ物からも吸収した魔力が自分の体から湧き上がる魔力と腹の中で混ざり合うようにイメージする。

 均等に、むらなく混ざりあったその魔力を今度は凝縮する。

 それまではまだふわふわした気体だった魔力を液体へと変化させ、さらにその液体をどろどろになるまで濃縮するのだ。


 初めて畑仕事をし始めたころからこの魔力トレーニングを積んでいたこともあり、もうほとんど無意識にこれらの作業を俺の体は行なっていた。

 だが、最近になってそこにさらにひと手間加わるようになった。

 ミームの手によって、カルロスの体から摘出されたという雫型魔石をもとに俺が魔力で再現した同質の魔石を臍の下あたりに埋め込まれてからだ。


 いつもならば極端に濃縮した液体のような魔力を体の頭から腕、足の先まで送り込むようにしていた。

 しかし、今は少し違う。

 腹の中で濃縮した魔力を埋め込んだ雫型魔石に送り込むのだ。

 意識せずとも勝手に体の魔力を取り込んでいく魔石。

 小さな魔石であるにもかかわらず、どんどん溜め込んでいく。

 そして、この魔石に溜まった魔力は皮膚から霧散していくようなこともなく、体内に留まり続ける。


 なんと表現するのがいいのだろうか。

 今までは俺の体では魔力を作り上げることができたが、その作った魔力は常に古いものを捨て新しいものを使っていた。

 言ってみれば、発電所みたいなものだろうか。

 食べ物などといった食料を使って魔力を作り上げる装置。

 そんな作ることに特化した施設に、この度新たに大型バッテリーが搭載されるに至ったのだ。

 今までは作るだけだったところに、蓄電を可能とするバッテリーが内蔵された。


 もちろん、このバッテリーたる雫型魔石にも魔力を溜め込む容量の限界というのは存在しているのだろう。

 だが、瞬間的に見れば俺が使える魔力量というのは、今までの魔力製造量プラス貯蓄魔力量となったわけだ。

 ようするに総魔力量が増えたと言い換えることもできる。


 そして、一度に使うことができる魔力量が増えたことで新たに発動可能となった魔法がある。

 フォンターナ家の上位魔法たる【氷精召喚】とも違う上位魔法。

 それは教会に名付けされ使えるようになった生活魔法の上位に位置する魔法。

 つまり、回復魔法だった。


「回復」


 魔力量が上昇し位階が上がった瞬間に急に使えるようになった回復魔法。

 それを俺は早速自分の体に使ってみることにした。

 ミームによって行われた手術によって俺の体の腹部には手術痕が残っている。

 その傷跡が【回復】によって消えた。

 成功だ。

 どうやら無事に傷を治すことに成功したようだ。


「しっかし、回復魔法を手に入れるまで結構かかったな」


 自分の体の傷が一瞬にして治ってしまうという現象を見ながらも、俺はそんなことを考えていた。

 パウロ司教がバルカ村の教会で一神父として活動していたころ、俺からの魔力パスの影響で魔力量が急上昇して位階が上がり司教としての立場を手に入れたのはもう何年も前の話だ。

 ただ、これはあくまで例外で大体は一つの貴族領の教会トップに立つ立場のものが回復魔法を使えるレベルらしい。

 だが、パウロ司教は俺やヴァルキリーの魔力とつながった魔力パスの影響で位階が上昇したのだと考えられる。


 その意味で言えば、俺もそのうち魔力量が増えて回復魔法が使えるようになるだろうとは思っていた。

 が、思ったよりも時間がかかったように思う。

 実はこれは俺が子供の頃からしていた魔力トレーニングのデメリットでもあった。

 体内で発生した魔力を凝縮させて、それを肉体に満たすことで得るメリットもあればデメリットもあったのだ。


 濃厚な魔力は肉体面を通常よりも強化してくれていた。

 まだ年齢一桁だった子供の俺が魔力量の多い騎士や当主級などを相手にしても力負けしなかった理由はそこにある。

 が、濃縮しすぎた魔力は魔力量としてみると通常よりも減ってしまうという面があったのだ。

 例えば普通ならば十はあるはずの魔力を濃縮して一くらいにまでしてしまうと質は上昇したが、量は単純に言って十分の一に減ったことを意味する。

 そして、名付けによる魔法習得、とくに上位魔法は魔力量によって使えるか否かが決まるのだ。


 つまり、俺は肉体面の強さを手に入れるために質重視にしていた魔力によって、上位魔法を使えるようになる魔力量という基準を満たせずにいたということだ。

 それが今回の雫型魔石によって解決した。

 体内に大量の魔力を貯蔵したことで総魔力量が増えたと認識され、教会の上位魔法である【回復】が使えるようになったというわけである。


「ミーム、ちょっといいか?」


「どうしたのかね? なにか問題が出たのかい」


「いや、そうじゃない。実験は無事に成功した。だけど、これ以上はこの手術はするな。魔石埋め込み術式は今後禁止とする。いいな?」


「……いいのかい? これは同志にとっても意味のある手術であると思うのだが」


「意味がありすぎるからだよ。というか、これ以上続けてみろ。ミームが手術した騎士たちは軒並み位階が上昇することになる。そうしたら、さすがになにか理由があるんじゃないかと勘ぐられる。お前も無駄に探りを入れられることになるぞ」


「だが、それだと今後は一切手術ができなくなるのではないかな? 騎士たちの魔力量を上げることができるのは同志にとっても大きな意味があるはずだ。それを捨てるとでも?」


「いや、それについては問題ない。もう覚えた」


「覚えた? なにを覚えたんだい?」


「魔石の埋め込み場所だよ。これからは手術をする必要はない。俺が直接魔石を体内に作るからな」


 ミームに対してこれ以上の手術は禁止だと言う俺。

 それに対して、さすがにすぐには納得のいかない様子のミームに対して俺は近づいていく。

 そうして、おもむろにミームへと手を伸ばし、その腹へと右手を押し当てた。

 呼吸を整えて魔力を操る。

 俺の魔力をミームの腹部へと送り込み、そして魔石を作り上げる。

 ミームのように手術で腹を開け傷を作ることもなく、対象の腹部へと雫型魔石を作ることに成功した。


「まさか……、手術の代わりに魔法で代用するとはね」


「これなら傷が残らないから、体を見ただけでは魔石を埋め込まれたとは気づかれにくいはずだ。今後、騎士たちにたいしては俺が自らこの方法で魔石を埋め込む。ミームには悪いが、今回の実験は表に出すことはできない。人体解剖図とは違って発表は控えてくれ」


「……ふう、さすがにこれは危険な技術だというのはわかるよ。ただ、研究結果として残せないのは残念だね」


「悪いね。まあ、その分研究費は増額しておくから勘弁してくれ」


 こうして、俺とミームの秘密の研究は一定の成果を得て終了した。

 そして、俺はこの魔石埋め込み術式の魔法を配下のバルカの騎士たちに使っていくことにしたのだった。

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[良い点] アイエエエ,マッドサイエンス……(しめやかに失禁)
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