魔石埋め込み術式
カルロスの体から摘出した雫型魔石。
それを俺は【記憶保存】の呪文を使って完全に記憶した。
そして、魔力的に記憶したその構造をもとに同じものを再現してみる。
結果としてそれは成功した。
不死骨竜から作った魔石とどこがどう違うのかはよくわからないが、こちらのほうが小さくても魔力内包量が多い。
が、不死骨竜の魔石ほど大型にはできないようだ。
あくまでも大きさは親指大からそれよりも少し大きい程度でしか再現できなかった。
まあ、これが腹の中にあるものであればコンパクトな大きさのほうが都合がいいのかもしれない。
そして、その記憶した状態でコピーするかのように複数個作り上げた雫型魔石をミームに渡して実験させた。
被験者に新たな魔石を埋め込み様子を観察する。
しばらくの間、缶詰状態になりながら新薬を腹部に埋没する実験と称して、正式に人を集めたのだ。
嘘は言っていないが、その新薬という名の雫型魔石は体を治す効果などは無いだろう。
最終的にこの実験は効果なしと位置づけられることが決まった状態でスタートした生きた人を使った人体実験を繰り返す。
それによりだんだんとこの魔石について情報が集まり始めたのだった。
「やはり、雫型だと体内に残り続けるのか」
「いや、どうもそうとも言えないようだね。体内に埋め込んだ雫型だが、これも本来であればだんだん小さくなるのではないかと私は考えている」
「そうなのか? でも、消えて無くなったりはしていないんだろ?」
「おそらくだが、魔力の吸収率が違うのではないかな? 同じ人物に雫型と結晶型の2つを同時に埋め込んだ結果、雫型のほうがより魔力を吸収していたことが分かったんだ」
「なるほど。腹の中で自然に魔力を吸収しているって言っても、【魔力注入】を使っているわけじゃないからな。吸収量に違いが出ることもあり得るのか」
「これもおそらくだが、雫型は効率よく人体から魔力を吸収し、溜め込む能力が高いのではないかと考えられる。そして、その取り込んだ魔力を使って魔石の縮小現象を抑えているのではないかな。魔力量が少ないものでは吸収量が不足するのか、微妙に小さくなっている傾向がある」
「……で、騎士に対しても雫型は埋め込んだんだろ? どうなった?」
「喜んでくれたまえ。実験は成功した。被験者となった騎士の魔石は減少せずに体内に留まり続けている。しかも、魔石の内蔵魔力量が個人の総魔力量と判断されているようだ。今まで使えなかった魔法が新たに使えるようになったという事例が確認された」
「位階が上がったってことだな。今まで【アトモスの壁】が使えなかったやつらが使えるようになれば助かるな」
「騎士について実験して分かったことは他にもある。雫型が吸収するのはその人の魔力ではあるが、外からとりこんだものも関係しているらしいね」
「外からっていうのはどういうことだ?」
「例えば食べ物や大気中の魔力を取り込むことだね。騎士の面々はそこらの一般人よりもしっかりと食事を与えているだろう。食べ物が普通よりも多いことで、より多く食物から魔力を摂取できている。そして、バルカ軍は呼吸を通して魔力を取り込むように訓練させているそうだが、それも一般人にはない行動だね」
「ああ、そのことか。つまり、騎士連中はそこらの一般人よりも体の外から取り込む魔力量が多いから、それが雫型に溜まって魔石を維持していることにつながっているのか」
もともと軍では訓練の一環として魔力トレーニングをさせている。
俺が子供の時から独自の研究で発見したトレーニング方法で、空気中からも魔力を取り込み、食べたものからも魔力を取り込んで、自分の腹のあたりでもともと自分が持っている魔力と混ぜ合わせ濃縮させるという方法だ。
これをしていると普通に生活しているよりも魔力を効率よく取り込めるのは、今までの実績で明らかになっている。
だが、この方法で魔力量が増えるものの体から自然に魔力が霧散してしまうのは変わっていなかった。
雫型魔石を体内に入れると、その無駄に垂れ流してなくなっていた魔力が体の中に蓄積されることに繋がる。
そして、その魔石に溜まった魔力もその人の総魔力量としてカウントされるのだろう。
今まで無駄になっていた魔力が雫型魔石によって留められ、それによって位階が上昇した。
【壁建築】などしか使えなかったバルカの騎士の中で雫型を埋め込み、より上位の【アトモスの壁】などが使えるようになるものが出てきたのだ。
現状ではまだまだ調べなければいけないことが多いだろう。
魔石を体内に入れることで本当に害はないのか。
総魔力量が上昇したことで、魔力パスによる魔力の流れに変化はあるのか。
いろんな気になることはある。
が、それを差し引いてもこれは非常に面白い技術だと言えるだろう。
なぜなら、今までできなかった直接的な強化方法であるのだから。
「よし、やってくれ、ミーム」
「本当にいいんだね?」
「もちろんだ。他の連中にやらせて、自分がしないってわけにもいかないしな。一思いにやってくれ」
「わかったよ、我が同志よ。それでは、これより手術を執り行う。被験者アルス・フォン・バルカに対して雫型魔石の埋め込み術式を開始する」
そして、いくつかの人体実験を経て一応の安全性が確認されたこの魔石埋め込みの手術を俺も自分の体に受けることにした。
こうして、俺のお腹には魔石が埋め込まれ、新たに位階の上昇へとつながったのだった。
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