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街づくりのコンセプト

「というわけで新しい街を作ろうかと思っているんだけど、どう思うかな、リリーナ?」


「新しい街ですか、アルス様? ええと、よくわかりませんがいいのではないでしょうか。住む場所を失った方々の拠り所になるというのであれば結構なことだと思います」


「だよね。というわけで、リリーナにお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」


「え、私にアルス様からのお願いですか。もちろん喜んでお聞きいたしますが、いったいどのようなことなのでしょうか?」


「リリーナに預けている服職人がいたよね。その職人たちがほしいんだけど」


「衣服の職人たちですか? 確かにいますけれど、私も贔屓にしている者たちですので、彼らをどうするおつもりなのかお聞きしてもいいでしょうか」


「ああ、ごめんごめん。説明の順番がおかしいよね。実は新しい街を作るにあたって街の方向性を決めてしまおうかと思ってね。今度作る街は服作りに特化させてしまおうかなって思っているんだ」


「え……、街そのものを服作り主体にするおつもりなのですか? さすがにそれは聞いたことがありませんが、うまくいくのでしょうか」


「わかんないよ。ただ、試してみようと思ってね。地震で住むところを失って仕事を求めてくる連中を振り分けるつもりなんだ。フォンターナの街やバイト兄のバルトリア、そしてバルガスのアーバレストの街へね。で、それでも足りないかもしれないから、そのときは新しく作った街に集めて針子の仕事でもさせようかと思ってね」


「あの、服を作るのは職人仕事ですがそのような技能を持つ者がくるのでしょうか。簡単な仕事ではありませんよ、アルス様」


「分かっているよ。そのことは考えてあるけど、とりあえず置いておこう。一応場所はフォンターナの街とバルカニアの中間にある川北城を改修して街を作る。そのときに職人たちをそこに移住させたいんだ」


 俺は新しく街を作ることにした。

 一応、被災した者たちの対処でもあり、よその貴族領から来た人をも受け入れるためにと考えている。

 間者はいるかもしれないが、こればかりはいくら考えても完全には防ぎようがないので十分気をつけるように各地にしっかりと言っておくくらいしかできないだろう。


 一応原則としてフォンターナ領のうち、ウルク地区からの移住者はバイト兄が治めている領地の中心の街であるバルトニアでなるべく受け入れてもらい、アーバレスト地区はバルガスに引き取ってもらう。

 どちらも人手不足ではあるので一応ある程度の受け入れ対応は可能だろう。


 そして、そこでも受け入れ限界を超えた場合やフォンターナ領全体、あるいは他貴族の領地からの流れ者はフォンターナの街で受け入れる。

 が、その補助的なものとして新しく街を作ろうとしているのだ。

 その街はフォンターナの街から北に行くとある川のほとりの城の周りに作ることにした。


 川北城、これは俺が初めて作った城でもある。

 バルカの動乱時にレイモンド率いるフォンターナ軍を相手に築いた拠点の城であり、川の水を堀に流し込んで防御力を高めている。

 が、その後、レイモンドを倒した俺はカルロスと停戦合意し川北城にはあまり存在意義が無くなってしまった。

 といっても、兵を収容可能な防御拠点であり、今でも最低限の兵を常駐させ、バルカニアへと向かう商人たちの宿場町のようになっている。


 実はカルロスとの停戦合意時に取り決めで、この川北城には兵を置いておける限度数が設定されていた。

 当然それは今も有効な取り決めではあるのだが、現在のフォンターナ家を動かしているのは俺だ。

 多少条件を変えてもいいだろう。


 もともと人が住んでいた場所ではなく、この川北城に今いるのはバルカの騎士と兵が主であり、あとは宿泊客くらいだ。

 ここを城を中心として街を作り上げて人を集めても、既存の住人と大きく揉めるような心配もない。

 バルカの牧場で取れるヤギの毛を糸にして、ここで服を作ってしまおう。

 最近はヤギの数もどんどん増やしているし、今まではリリーナが厳選した最高級の糸だけを生地にしていたが、ランクの落ちる糸をもう少し積極的に使っていってもいいだろう。


「あの、アルス様のお考えはわかりました。確かにそのような街をあそこへお作りになるのはいいと思います。しかし、やはり針仕事を簡単に考えすぎているのではないでしょうか? 職人の仕事はそこまで簡単に真似することはできないのですよ?」


「そうだろうね。ただ、俺が考えている服作りはリリーナとちょっと違うかもしれないんだ。いずれは服を大衆向けに作っていきたいんだよ」


「大衆向けですか?」


「うん。今はまだ衣服は高価なもので、貴重な生地を貴族や騎士たちに合うように職人が細かな仕事をしているだろ。だけど、いずれは庶民が着られるようなくらいの服を作れるようにしておきたいんだよ。言ってみれば仕立て服から既製服を主体にした服産業を育てたいってことだね」


「既製服ですか。でも、衣服は人の体に合わせて作るためにしっかりした採寸をもとに裁断していく必要があるのですよ。適当に切った貼ったでは人体に合う服にはなりませんよ、アルス様」


「そりゃそうだ。なにも考えずに生地を切って服を作っていたらそうなるだろうね。だから、型紙からパターンを起こして服を作るようにする」


「型紙? パターン? なんでしょうか、それは」


「人の体はみんなそれぞれ違う。職人たちはその違いをしっかりとした採寸をとってそれに合うように生地を立体でとらえて裁断する。だけど、人体は個体差はあっても共通項もあるんだ。つまり、男性用や女性用、さらに体の大きさを大中小なんかに分けて、作っていくんだよ。そうすれば、いちいち仕立て屋に採寸してもらわなくても、自分の体にある程度あった型の服を選んで買うことができるようになる」


 俺の街づくりに賛成はしつつも、服に特化した街づくりというものには懐疑的な立場のリリーナ。

 そのリリーナに俺が考える服作りの話をした。


 リリーナにとって服を作るというのは、ある意味芸術品を作らせることに近い。

 なにせすべて職人が熟練の技で作り上げるオーダーメイドの服しかないのだから。

 貴族や騎士といった上位の階級に位置するものが、自分に見合った格の服を着るために、職人を贔屓にして育て上げていく必要があるのだ。

 センスと技術が高度に要求される、一品物の服を作るマエストロ。

 そんな専門集団こそがリリーナにとっての服作りの職人と呼ばれる存在だった。


 だが、俺は少し違う。

 以前、おっさんにも言われたが、この世界では衣服は基本的に高価なものだ。

 生地や糸を自前で生産できたからといって、すぐに価格が安くなるものではないだろう。

 しかし、それでももう少し服は手軽に買える値段に落とし込みたかったのだ。

 そのために、専門家が一つ一つ丁寧につくるのもいいが、型紙から量産する服作りをする仕組みを作り上げるのもありだと思う。


 それに服を作る街といっても、全員が針と糸をもって縫い物をするわけでもない。

 バルカニアから運び込まれるヤギの毛を生地にする仕事。

 その生地をいろんな色や柄に染める仕事。

 大衆に広く親しまれる服を作るデザイナーの仕事。

 そのデザインをもとに型紙にして生地を裁断する仕事。

 そして、裁断された生地を縫う仕事。

 あるいは、それらの衣食住などに関わる仕事など働く場は多岐にわたる。


 生地を染めるには水が必要だが、それには流れている川の水が使えるだろう。

 さらにその川は少し下流に行けばスライムが生息するカイルダムにつながっている。

 染料による水の汚染があってもきれいにしてくれる効果があるだろう。

 川北の城は新しく街を作り、服に特化させるにはいい条件が揃っているのだ。


 こうして、俺はリリーナに何度も説明を続け、服職人のなかから俺のやり方に共感を覚えてくれた者を回してもらうことに成功した。

 それを受けて、早速川北城の周りを再開発し始めたのだった。

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