仮設住宅
「こうしてみると、俺の魔法は優秀だな。ほとんど崩れてないぞ」
「本当ですね、アルス様。おそらく、きっちりと大きさの整ったレンガがピタッと接合しているからではないでしょうか。言い換えれば、ほかの建物はかなりいい加減に作られているとも言えるでしょうね」
「そうだな、ペイン。まあ、【壁建築】なんかは大猪の突進を防ぐために作ったようなもんだったしな。そう簡単に崩れるようじゃ話にならないよ」
「あ、もうすぐ次の村に着きそうです。到着次第、避難所の設置をお願いします、アルス様」
「ああ、分かった」
地震が起こってすぐに被災者救助について動き始めた。
とりあえず、各地を治める騎士たちには自分の領地にいる家臣たちに被災者を助けるようにさせた。
一応、被災した者たちを受け入れる場所を用意させ、そこに薪を運び込むように命じている。
が、どの程度真面目にやってくれるかはいまいちわからない。
もしかしたら、やりましたというもののあまり熱心にはやらないかもしれない。
だが、自分の領地が弱ることを良しと考えるものもいないだろう。
こちらも譲歩して減税や救助費用の一部を出すと約束している。
あとはその土地の責任者に任せるしかない。
そして、その救助を命じた俺も実際に自分で動く必要がある。
命令した俺がなにもしないわけにはいかないからだ。
実際にこちらが手本となるように行動に移すことにしたのだ。
バルカにいるヴァルキリーたちを投入し、大量の毛布をソリで引きながら各町や村を回っていく。
食べ物も必要だが、今回は運ばない。
あまり火事が起こっていないのであれば、最悪倒壊した建物からもある程度なら回収できるかもしれないからだ。
だから、優先すべきは避難場所と暖を取る方法を持っていくことだった。
いくつめかになる村についた俺が早速村の村長に会い、空いた土地を提供してもらう。
そこに魔法を使って建物を建てる。
いや、魔法と言っても呪文化していないので正確には魔術というほうが正しいのかもしれない。
まあ、どっちでもいいか。
そんなことを考えながら魔力を練り上げて魔法を行使する。
一緒についてきたバルカの騎士が【整地】した土地へと手を付けて魔力を送り込む。
そして、その魔力をさらに【記憶保存】で覚えていた建物の形へ変え、そしてその形通りに魔力をレンガ造りの建物へと変えた。
一瞬にして、大きな建物が建つ。
以前までなら俺の魔力では2階建ての建物くらいしか作れなかったが、今はその頃よりもさらに魔力量が増えている。
そのため、以前までよりも大きな建物が作れるようになっていた。
その魔力量が増大した俺が作ったのはレンガでできたアパートのような建物だった。
いや、イメージ的にはアパートというよりも団地住宅の一棟というほうが近いかもしれない。
実はこれは以前、メメント家と戦ったときに【記憶保存】して形を覚えていたのだ。
メメント家との戦いでは迫りくる相手を迎え撃つために3つの陣地を作り上げた。
当然ながら、その陣地には多数の兵が入り駐屯する。
つまり、兵が寝泊まりするための建物が必要だったのだ。
その時、バルカの硬化レンガを使ってアパートメントを建築したものがいたのだ。
と言っても高級な建物ではない。
本当に兵を押し込めるようにして寝床を作るためだけに建てたような建物だった。
カプセルホテルのように一部屋ごとの空間は狭い。
だが、同じ敷地面積では圧倒的収容量を誇り、さらに前線基地用の建物として作られたため分厚い作りになっており倒壊しづらい構造だった。
今回の地震でも倒壊せずにピンピンしていたという報告を受けている。
そんな建物を記憶していた俺はあっという間に4階建ての無数に部屋のある建物を村の空き地に作り上げたのだ。
「よし、毛布を運び込め。要救助者を収容したら、その者たちを使って村の倒壊した建物から食べ物の回収を。あとは晴れた日に建物の復旧をよろしく」
「はっ」
俺がまたたく間に建物を建てたところを見て、村人たちが驚いた顔をしている。
が、もう見飽きたのか、一緒に来た兵士たちは誰もなにも言わずに俺の指示を聞いていた。
いくら俺が魔法で建物を建てられるといっても、フォンターナ領のすべての被災者の建物を復旧するのは無理だ。
なので、アパートを建てたあとは、一緒に来ていた兵を数人管理人として残しておく。
呪文一つで建物を建てられる魔法がすでにあれば楽だったのになと思わなくもない。
が、呪文は一つ作り出すだけでも長い時間がかかる。
ひたすら同じ言葉をつぶやき続けながら、全く同じ現象を引き起こす魔術を成功させ続けなければならないからだ。
まだ、ただの農民だったころなら時間があったので好きなように便利な魔法を作ることもあったが、さすがに今はそうもいかない。
他にもしなければいけない仕事があるからだ。
それに、建物を作る魔法なんか作ったらフォンターナ中に同じ建物ばかりになってしまいそうで、それはそれであまり面白くもないだろう。
「ふう。とりあえず、この村ではこんなもんだろう。よし、次にいこうか」
「わかりました、アルス様。今日の予定では、あと13の町村を回ることになっています。時間がありませんので急ぎましょう」
「……そんなにあるのか。魔力回復薬まだあるよな? ちょっと回復させとかないと持たないな」
冬の寒さの中でも移動できる箱ソリに入り込み、暖かいお茶のような魔力回復薬を飲んで体を温める。
そうして、すぐに次の村へと向かって走り出した。
まあ、忙しく走り回っただけ多少は救える命もあるだろう。
こうして、俺は要請のあった場所へと足を運んではアパートを建築しまくっていったのだった。
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