天体ショー
「カイル、あと何日かすると面白いものが見られるぞ」
「あ、おかえり、アルス兄さん。面白いものってなにかな?」
「実は今度は何百年ぶりに珍しい天文現象が重なるらしい。しかも、3つもだってさ」
「天文現象? 天文ってあれだよね、占星術とかの星を見るやつの。いったいなにが起きるの?」
「よし、順番に説明してやろうか。1つ目は冬に見える星のひとつがいつも以上に大きく見える。普段よりも何倍も大きく明るく見えるんだ。だいたい、夕方前から夜中にかけてって感じかな」
「へー、同じ星が大きく見えることなんてあるんだね。知らなかったよ」
「すごいだろ? だけど、それだけじゃないぞ。同じ日の夜には月の色も変わるんだよ。普段見ている月と違って、赤色に見えるんだ」
「えっ、月が真っ赤になるの? なんか怖いね、それって」
「そうかな? 別に怖いことはないと思うけど。時間によって赤の色合いが変わるらしいけど、これは真夜中のほうが一番赤くなるらしい。で、その次の日の午前中には、なんと太陽が隠れるんだ」
「太陽が、隠れる? よくわかんないけど、太陽がどこかにいっちゃったりするのかな、アルス兄さん?」
「んー、面白い発想だけどそうじゃないよ。実は太陽の前を月が通ることで、太陽の光が地上に届かなくなるんだ。予想では、完全に太陽が隠れるらしいから、明るいはずの日中に真っ暗になるんだ。急になるわけじゃなくて、だんだん太陽が隠れるから面白いぞ」
「……えーと、つまりアルス兄さんの話をまとめるとあと何日かすると空の星の大きさが膨れ上がって、月が赤く見えた次の日には太陽の光が消えるってことだよね? あの……、なにか異常事態の前触れなんじゃないの、それって?」
「心配するなって。大丈夫だよ。星のめぐり合わせで極稀にそういうことが起こるのが、今年はたまたま重なって起こるだけだから。ただの偶然というか、計算上確実に起こる事象だから心配はいらないよ」
「いや、絶対にみんな心配になるよ、それって。ものすごい大事件だよ。普通は明日起こることでもなにがあるかわからないんだよ? みんながアルス兄さんみたいにそんな変な出来事を受け入れられるわけないよ」
「え、いや、でも……。いや、そうか。確かにカイルの言うとおりかもな。俺だって生まれてから今までそんなもの見たこともないし、村の爺さん連中に聞いたこともなかったしな。知らなかったら普通はびっくりするか」
「そうだよ。びっくりするどころか、それをみた人はみんな不安になると思うよ」
「なるほど。そりゃそうだわな。……ってことは、事前にこの話は広めておいたほうがいいかもしれないな。カイル、ちょっと頼まれてくれるか? リード家のやつらに【念話】を使って今の話を伝えておいてくれ。数日後にその天文現象が起こることをフォンターナ領に周知するんだ」
「わかった。すぐに伝えておくよ」
バルカニアにある天文台で占星術師であるキリと話をした。
その中で太古の暦の話を聞き、近いうちに皆既日食が起こることを知らされた。
そして、さらに話を詳しく聞いて資料を紐解き、計算してみると他にも面白そうなことがあることがわかったのだ。
特定の星が大きく見えることと赤い月、それと皆既日食が夜を挟んで起こるというのだ。
これはかなり珍しい。
3つがすべてほぼ同時期に起こるというのは数百年、あるいは千年かそれ以上に一度という極稀にしか起こらない現象なのだそうだ。
こんなことはめったに無い。
少なくとも、俺が生きているうちには二度とないだろう。
だから、俺はすぐにバルカニアからフォンターナの街に移動して、そこで仕事をしていたカイルに教えたのだ。
普段は早めに就寝するまだ子供のカイルだが、その日は少し遅くまで起きて一緒に空を眺めようと誘うために。
俺はカイルならきっと喜んでくれるだろうとばかり思っていた。
が、カイルはその話を聞いてすぐに「怖い」と感想を漏らした。
別段怖いものではないと思うが、それはあくまでも俺に前世の記憶があるからかもしれない。
前世であれば世界各地で見ることができる天体ショーを映像で見ることができたり、その現象が何年ぶりだという話をちょくちょく聞いていたからだ。
しかし、それはあくまでも前世でしっかりと記録が残り、次に起こる現象を予測することができ、さらに映像を見ることができる環境だったからこそ不安にならずにすんでいたのだ。
全くの未経験でそんなことが起これば不安に思うことはそう不思議ではないだろう。
カイルの話を聞いてようやくそのことに気がついた俺は慌てて対策をとることにした。
カイルに【念話】を使ってこの情報を広めることにしたのだ。
そして、ついにその日が来た。
空を見上げる誰もが驚く天体の不思議な現象を見ていたその日。
俺も予想していなかったことが起こったのだった。
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