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魔電鋼の使いみち

「寒い、寒すぎる……。全く、冬に外でこんなことをさせるのは大将ぐらいなもんだな」


「悪いな、バルガス。けど、おかげでそれなりの数の魔電鋼が集まってきたな」


「まあ、やることは氷炎剣で泥人形を切るだけだからな。つっても、一人加減の知らないバカが氷炎剣で沼の氷まで燃やしやがったんだけどな」


「おいおい、まじかよ。この箱ソリも沼の氷の上にあるんだよな? 沼全体が燃えたりしたわけじゃないんだよな?」


「ん? ああ、それは大丈夫だ。氷炎剣に込める魔力でどれだけの量の氷を炎に変えられるかが変わるからな。というか、そんな広範囲の氷を炎に変えられるのは大将くらいだろ」


「あ、そうか。魔力量で効果範囲も変わってくるんだったな。まあ、俺も魔石の魔力を使ったからで、普段からそんなことしないよ」


「魔石があるだけであんなことができるとも思えんがね。で、魔電鋼はいつ雷鳴剣にするんだ? 完成したら俺にも一本くれよな、大将」


「うーん、どうしようかまだ悩んでいるんだよね。もしかしたら、魔電鋼は雷鳴剣以外に使うかもしれないんだ」


「はあ? あれは大将も対多数を相手にするのに便利だって言ってただろ。雷鳴剣を作るために魔電鋼を集めているんじゃないんだったら、なんに使う気なんだよ?」


「そうだな。……とりあえずは時計がほしいかなって思ってるんだけど駄目かな?」


 真冬のネルソン湿地帯で泥人形と格闘を続けるバルガスとその配下の騎士たち。

 彼らの活躍のおかげで俺はそこそこの数の魔電鋼を手に入れることに成功した。

 魔電鋼とは魔力を込めると電気を発生する不思議な物質だ。

 それがあれば、アーバレスト家が作り上げた優秀な魔法剣を作り出すこともできるだろう。


 だが、俺はバルガスとの会話の中で、雷鳴剣の製造を後回しにする可能性を出した。

 かわりに俺が作りたかったもの。

 それは、電気で動く時計だったのだ。




 ※ ※ ※




 時計、それは時刻を表示するための装置だ。

 この時計だが、実は俺がこの世界で生まれてから今までほとんどお世話になってこなかったものでもある。

 なにせ、貧乏農家の家に生まれたのだ。

 日々の食事にすら困るくらいのレベルの家にそんなものがあるはずもないし、別に必要もなかった。

 朝、日が昇れば畑仕事を始めて、日が暮れたら寝るくらいの生活が一般的だったからだ。


 農民は時計というものを使わずに生活している。

 それは間違いない。

 が、それでは貴族や騎士といった上位の身分のものたちは立派な時計を使っているのかと言うとどうやらそうではなかったようだ。

 俺が騎士になってからどういう時計が使われているのか調べたのだが、満足のいくものはなかった。

 一応、一日を何等分にして、その等分ごとに経過する時間を測るものもあるにはあるが、コンマ何秒という時間すら正確に測れた前世の時計とは大違いだった。

 しかも、しばらくすればその時間のズレを修正しなければならないし、それも一年を通してみるとかなりの回数になり、その時計では合計何日分のズレが生じるのかわからないといった有様だった。


 しかも、その大雑把な時計がものすごく高いのだ。

 時計を作ることができる職人はフォンターナにはおらず、王都圏にしかいない。

 にもかかわらず、長い動乱が原因でその職人の伝統技術が何度か途切れているのだとか。

 結果、劣化に劣化を重ねた技術をなんとか受け継いだ職人が数少なく保護されているだけで、そんな職人が作るものだから高価にならざるを得ない。

 当然、壊れたら修理に出すといっても戻ってくるまで数年はかかるという状態になってしまっているのだ。


 が、その状態のままでは今のフォンターナは困ったことになる。

 というのも、フォンターナ領全体にいるリード家の【念話】がその理由だ。

 カイルが作り上げた【念話】はリード家の人間同士が遠距離で離れていても意思を伝え合うことができる超絶便利な魔法だ。

 当然、俺はそれをフォンターナ領をまとめる仕事に活用することにした。


 が、少々問題が出てきているのだ。

 遠距離で話した仕事の内容を言った言わないというトラブルが出始めたのだ。

 それ自体は人間だから仕方がないだろう。

 自分が言ったことでも忘れることはあるからだ。

 だから、俺はリード家が【念話】を行なった場合には必ず記録を取るようにと指示を出した。


 しかし、まともな時計が存在しないと双方がとった記録に食い違いが出てしまうことになったのだ。

 今はまだいい。

 それほど大きなトラブルには発展していないから。

 だが、もし戦が起きたときだったらどうだろうか。

 他の貴族と戦闘状態に陥り戦うことになった場合、俺が出した指示が届いた届いていないとなれば困る。

 戦闘時は常時判断を下すことがあり、突撃を命じた次の日には停止を言い渡すこともあるかもしれないのだから。

 それを「停止命令のあとに突撃命令を出した」などと前後関係がごちゃごちゃになれば大変なことになる。


 ゆえに、記録をとるにしてもある程度共通の正確な時刻用のものさしが必要なのだ。

 そのために、俺は時計を必要としていた。

 それも、なるべく狂いのない正確な時計をだ。


「というわけで、出番だ、グラン。この魔電鋼で時計を作ってくれ」


「……いや、これはまいったでござる。魔電鋼という新たな素材を預けられるというのは造り手として大変ありがたいのでござるが、いきなりこれで時計を作れと言われても拙者、困ってしまうでござるよ、アルス殿」


「グランなら大丈夫だろ。それにバルカニアの学校には占星術師がいただろ? あいつに聞けば、星の動きとかを教えてくれるはずだ。暦についても詳しいはずだ」


「あの、アルス殿。暦についてもそうでござるが、時計の機構についてはなにか考えがあるのでござるか? この魔電鋼があれば必ず作れるという保証はないかと思うのでござるが……」


「ああ、それなら一応考えがある。ちゃんとできるかどうかはわからないけど、水晶と電気があればかなり正確な時刻を測れると思うんだよね」


 魔電鋼を得た俺は、その後もバルガスにしっかりと集めるようにと伝えて再び雪の中を移動して戻ってきた。

 といっても、フォンターナの街の執務室ではなく、バルカニアにいたグランのところへとやってきた。

 やはり、ものづくりを依頼するとなるとグランを措いて他にはいないだろう。


 そして、そのグランへと魔電鋼を渡して説明する。

 せっかく時計を作るのなら、より正確なものを作りたい。

 であれば、せっかくなので近代的なものを作ろう。

 水晶と電気を用いた時計、すなわちクオーツ時計を作ることにしたのだった。

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