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初魔法

「おなか、すいたな」


 俺がこの世界で新たな生活を始めて数年が経過した。

 俺の年齢は3歳にまでなっている。

 赤ん坊時代はすることがなかったので、ずっと魔力トレーニングに費やしてきた。


 その結果、わかったことがある。

 魔力は自分の体内と体外に存在する2種類のものがあるようだった。

 どうやら空気中なんかにも魔力が含まれているのだ。

 そんな外にある魔力を口から取り入れ、更にそれを自分の体内にある魔力と融合させることができる。


 この事に気がついてから、自分のお腹の中、おおよそおなかの少し下あたりで2種類の魔力を融合させ、それを自分の全身に行き渡らせるようにコントロールするように努力してきた。

 おかげで今は自然に魔力を練り上げることができるようになっている。


 だが、問題が一つあった。

 それは、いまだに魔法が使えないということだ。

 どうやら母が使っていた魔法というのは「教会」にいかなければ使うことができないようなのだ。

 ある程度、子供が大きくなったら子供を教会に連れていき、儀式を受けることになる。

 そうすると、照明や着火、飲水といった簡単な生活魔法が使えるようになるのだという。

 これは、逆に言うと教会に行かなければ魔法を使えるようにならないということにもなるのだ。

 おかげで、生活魔法以外を使うことができない俺の親に聞いても、魔法を使えるようにはならなかったのだ。


 しかし、だからといって諦めきれるものではなかった。

 早く魔法を使ってみたいということもあったのだが、ろくに動けないほど小さなころから自意識が存在していたからだろうか。

 ものすごく暇だったこともある。

 俺はなんとか魔法が使えないだろうかと試行錯誤を繰り返していたのだ。

 言葉をしゃべることができるようになってからは、ブツブツと適当な単語を並べてつぶやいたりして、必死に魔法が発動しないかどうかを試し続けていたのだ。

 そして、ようやく最近になって手応えを感じ始めたのだ。

 それは俺が畑にでかけたことがきっかけになったのだった。




 ※ ※ ※




 俺の転生した新しい家はお世辞にも裕福とはいえないところだった。

 というか、むしろ貧乏といっても問題ないだろう。

 赤子のときから家を見ていて思ったが、ボロい家に住んでいる農家が俺の生家だった。

 毎日同じボロの服を着て生活し、畑で麦を育てて生計を立てている。

 が、せっかく作った農作物も税金として多くが取り立てられてしまうため、日々口にするものは少ない。

 お腹いっぱいに食事をしているところなど見たことがないくらいだ。


 あまりにもおなかが空きすぎてしまったため、俺はボロい家を出て畑に来たのだ。

 しかし、悲しいかな。

 ちょうどその時は食べられそうなものが何一つなかった。

 が、ないからといって諦めるわけにもいかない。

 とにかく何でもいいから食べたかった俺は、自分でも作物を育ててみることにしたのだ。


 家の裏の畑の端っこを自分のスペースとして位置づける。

 そこへしゃがみこんで小さな両手を地面へとつけ、目を閉じた。

 大きく息を吸い込み、次に吐き出す。

 自分の中にある空気をすべて取り替えるつもりで、深呼吸しながら体内へと意識を向ける。

 外から取り込んだ魔力をゆっくりと、じんわりと、しかし確実に混ぜ合わせるようにして魔力を練り上げていく。

 おへその下で十分に練り上げた魔力、それを今度は胸にまで引き上げ、頭や手、足の方へと押し流していく。

 押し流された魔力は体の端までたどり着き、更にそこから胴体へと戻っていく。

 慎重に、滞るところがないように、ゆっくりと、なめらかに魔力が流れ始める。

 そして、それを幾度も繰り返した。

 何度深呼吸をしたのだろうか。

 俺の胴体に溜まった魔力はその行き場がないほどの量へと増えていた。

 それを今度は地面へとつけた手のひらへと持っていく。

 空気中に存在していたときの魔力はそのまま酸素のような目に見えない軽い気体のようなイメージだ。

 だが、体内で練り上げた魔力は粘り気のある液体のようなイメージへと変貌している。

 といっても、実際に液体ではないため、手から水が滴るようなことはないのだが。

 だが、そんな魔力が手のひらを通して畑の土へと染み込んでいく。

 練り上げた体内の魔力、それをすべて土へと馴染ませるように行き渡らせていく。


 落ち着け。

 ここで集中力を切らすな。

 自分へと言い聞かせる。

 ここまでは前回までもできていた。

 俺が感じ取っていた魔法への手応えというのがこれだ。

 だが、ここからさきが失敗に終わっていた。


 失敗の原因は前回までの俺がここで集中力を切らしてしまったことにあるのだと推測していた。

 教会で教わる生活魔法などは呪文を唱えると簡単にできるように見えた。

 その印象が頭にあったので、適当な言葉を呪文として唱えたのが失敗だったのだと思う。

 それまで苦労して練り上げ、土地へと馴染ませた魔力があっという間に霧散してしまったのだ。

 今回はその反省を踏まえて安易に呪文を唱えようとすることはない。

 魔力を練り上げるときと同じようにイメージが大切なのだ。


 前世で田舎のばあちゃんがしていた畑仕事を手伝うことがあった。

 いわゆる兼業農家のようなもので、他に仕事を持っていたがそれなりの大きさの畑や田んぼがあり、そこでよく肥料なんかを見ていたことを思い出す。

 畑の基本は土の良さにあるといっても過言ではない。

 柔らかで、ふかふかしていて、触ると少し温かい、栄養のある土。

 今俺のいる畑は、どう見ても良い土をしているとは言えないものだった。

 というか、本当にこれが農家としての畑と言っていいものかと思ってしまうくらいだ。

 じゃまになる大きな石をどかして、野菜を植えられる最低限度の範囲内で土を耕しているくらいではないだろうか。

 もしかすると、21世紀とは比べ物にならないくらい農業技術がないのかもしれない。

 そう思うのも不思議ではないだろう。

 効果範囲のちいさな生活魔法は存在していても、機械のようなものが一切見当たらないのだから。


 そんな畑を前にしながら、脳内ではばあちゃんが野菜を作っていた畑を思い出し、その土をイメージする。

 一番よく使っていた多くの野菜に使用可能な万能な肥料の入った黒っぽい土。

 よく耕して柔らかくなり、無駄な雑草をすべて取り除き、水はけと日光がよく当たるように畝を作った畑。

 ひたすらその状態の畑をイメージしながら魔力を土へと向けていく。


 どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。

 はっきりした時間はわからない。

 だが、すっかりと喉がカラカラになるくらい長い時間を目を閉じて畑の上でしゃがみこんでいたようだ。

 体内に存在した魔力はすべて消費して、これ以上何も考えられない、となったとき俺は目を開けた。

 畑の一角の数m四方だけが、その姿を変えていた。

 他の地面とは全く違う状態へと変貌した、畝3つの栄養たっぷりの土が盛られた空間がそこには出来上がっていたのだ。


 こうして、俺ははじめての魔法を成功させたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そんな長時間子供放って置いて親って何してたん?それともこの世界ではこのくらいの歳になるとあんまり見て置かないのかしら
[一言] 頑張れ
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