新年の最初の仕事
フォンターナの街にある教会。
そこに、フォンターナ領から続々と騎士が集まってきていた。
もうじき、年が変わるという時期で、普段からフォンターナ領の各地から騎士が集まるが、その数が多い。
それも当然だろう。
この一年でフォンターナ領の領地は以前までの三倍ほどに跳ね上がっているのだから。
しかし、普段とは少し違ったのは騎士が集まるタイミングが例年よりも少し早いということだ。
これは、通常であれば領地を治める貴族の当主に対して新年の挨拶をするのだが、今年に限っては亡くなったカルロスの葬儀をするためだ。
結局、カルロスの葬儀は年が暮れる前の冬の時期ということになったのだ。
大々的にカルロスの葬儀を執り行うにしても、各地にいる騎士を集める必要があり、それが何度もあると大変だということで、集まる機会を一度にしてしまおうという考えからきている。
そのため、カルロスの葬儀をして10日ほどたてば年が明けるというタイミングになってしまったのだ。
雪がシンシンと降り積もる中に集まってきた騎士たち。
旧ウルク領であるウルク地区を治める騎士たちはほとんどフォンターナの街に来ていた。
だが、旧アーバレスト領であるアーバレスト地区担当の騎士は若干少なめだ。
これはアーバレスト家から領地を取り、それほど時間が経っていないためにまだ西が完全に安定化していなかったからだ。
イクス家のガーナは来ているが、バルガスはアーバレスト地区に残って領地を守っている。
だが、それでも大勢の騎士が集まった。
その中でカルロスの葬儀が行われた。
教会の中に置かれた棺の中にカルロスが眠っている。
といっても、その体は五体満足に揃っているわけではなかった。
王の護送中に襲撃を受けて非常に激しい戦闘になったのだろう。
体のあちこちが傷を負い、喪失してしまった部位もある。
というよりも、護送部隊が壊滅し、生き残ったリオンですらほうほうの体で逃げ延びたのだ。
あとになって回収できたカルロスの遺体は大きく損傷していた。
だが、一応棺桶のなかに眠るカルロスは穏やかな顔で眠っているように見えた。
ミームと一緒にエンバーミングを施して、遺体を修復したかいがあったというものだ。
そのカルロスの遺体が納められた棺をパウロ司教が弔っている。
棺に向かってカルロスの遺体へ祈りを捧げ、次に集まった騎士たちに向かってありがたいお言葉とやらが含まれた説法を説いている。
それがようやく終わった。
「それでは、聖騎士アルス・フォン・バルカ、前へ」
「はっ」
「フォンターナ家先代当主カルロス・ド・フォンターナに対し、フォンターナ家当主代行として祈りを捧げなさい」
「はい。カルロス様、あとのことは私にお任せください。必ずやフォンターナ家を守り抜いてみせましょう」
葬儀の最後にパウロ司教に呼ばれて前に出ていった俺が、カルロスに最後の言葉を送る。
そうして、魔法を発動させた。
フォンターナ家が誇る上位魔法、【氷精召喚】だ。
俺の唱えた呪文に呼び出される青い光の球をした氷精が周囲へと浮かぶ。
その氷精に対して、俺は命じた。
カルロスの入った棺の中を凍らせよ、と。
次の瞬間、棺の中がカチコチに凍りついた。
どうやら、これがフォンターナ家の当主に対して行う葬儀のやり方らしい。
当主級だけが用いることができる上位魔法をもって前当主を送り出すという意味合いがあるのだとか。
本来なら次の当主であるガロードが行うべきなのだが、さすがに幼子には任せられない。
故に俺が代行したのだ。
以前行なった演説もそうだが、こういうのが意外と良いパフォーマンスになる。
こうして、俺は再び領地中から集まった騎士たちに対して、誰がフォンターナを率いているかを見せつけることに成功したのだった。
※ ※ ※
「新年明けましておめでとうございます、アルス様。我らは今年もフォンターナ家のために粉骨砕身働くことを誓います」
カルロスの葬儀を行い、少し時間が経過すると今度は新年の挨拶が行われた。
葬儀の後は雪が降り積もり、他にすることもない騎士たちに葬儀でも提供していた新しい酒として「カルロス・ド・フォンターナ」という銘柄を振る舞ったところ、こちらの予想よりも良い評価を得られたようだ。
特に度数が高かったのが気に入ったのかもしれない。
カルロスの死を悼みながらみんな盛大に飲んでいた。
ちなみに俺はまだ子どもだという理由でほとんど飲んでいないが、よくあんなに飲めるものだと感心してしまう。
数日に渡って酒盛りが続いたあと、年が明けて新年の挨拶へとやってきた騎士たちに対応したのもガロードの代理である俺だ。
みんなが俺に頭を下げていく。
が、意外と数が多く、これだけで一日が終わってしまいそうだ。
よくこんなことをカルロスはやっていたなと思ってしまった。
「あ、アルス様、これはいったいどういうことでしょうか? 今年フォンターナへと納める税収ですが、これはなにかの間違いなのではないのですか?」
「いや、間違いではない。領地を任せている以上、税はしっかりと納めるようにな」
「しかし、これはいくらなんでも多すぎです。このような税を納めることは到底無理ですよ」
「そんなはずないだろう。土地の広さから畑の面積を出して、収穫可能な麦の収穫量を予測して出した計算によるものだ。かなり余裕のある水準にしているぞ」
「そんなバカな。今までこのような収穫はできたことがありません。計算をしたというのであれば、それは計算結果が間違っているのだと考えられます」
「……ああ、なるほど。そちらはバルカの農地改良をしていないのか。農地改良を行えば十分に達成可能な数値だから、土地の再開発を行うように」
「そんな……。バルカの農地改良というのは、以前からやっていたあなたの部下の派遣のことでしょう? それをやらなければ達成できない税収を払うなどとはおかしいではありませんか」
「そんなことはない。むしろ、農地を改良すればフォンターナ家に税を納めても余裕で余剰分がでるくらいで今まで以上の財政を確保できるはず。だというのに、それをしないというのは職務怠慢だよ。場合によっては土地を治める資質なしと判断されかねないから、検討しておくように」
「ぐっ、わかりました。考えておきましょう」
もっとも、各騎士との話に時間がかかるのはそれなりに話すべきこともあるからだ。
特に一番多いのは税収についてだった。
基本的には領地を持つ騎士にはその土地で取れた税から上位統治者であるフォンターナ家に納税するようにとこちらが命令する。
だが、それが問題になっていた。
フォンターナ領の中で麦が取れる土地と取れない土地がはっきりと分かれているのだ。
しかもそれは地形などの要因ではない。
バルカに農地改良を依頼したことがあるかどうかで大きく違っていたのだ。
かねてから行なっていたバルカの派遣事業で、各地の騎士領に農地改良を行なっていたが、それを依頼した土地はどこも飛躍的に収穫量が上がっていたのだ。
だが、すべての騎士領が農地改良を依頼していたわけではない。
なにせ、こちらは金を要求もしていたのだ。
依頼をするかどうかはその騎士領に委ねられていた。
が、俺がフォンターナ領の当主代行となったときに、税は畑の広さできっちりとることに決めたのだ。
同じ広さでもバルカが手入れした土地としていない土地では収穫量に違いがある。
そして、俺が計算の基準としたのは前者の農地改良した土地での収穫量だったのだ。
そうなると、古い農地ではまず払えないような税になった。
その土地の騎士からは非難轟々だが、こちらも譲れない。
なにせ、フォンターナ領の税収をいかに上げるかが俺にとっても重要課題なのだから。
彼らには悪いが俺から借金をしてでも農地改良をしてもらうことにする。
こうして、新年からフォンターナの騎士とバチバチやり合う領地経営が始まったのだった。
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