人材発掘
「いいな。ここまで資金が増えれば軍の運営については問題ない。それどころか、ほかへの投資に使うこともできそうだな」
「たぶん、金を出した商人連中はそのことも念頭に置いて金を出しているだろうな」
「そのことを念頭にって、どういうことだ、おっさん?」
「坊主の今までのやってきた実績を考えてもみろ。バルカではいろんなものを作って金儲けをすることが多かっただろ。それを今度はフォンターナ領全体でやるんじゃないかって考えているはずだ。そして、その商売で作られた商品に他の者達よりも早く関わっていきたい。そういう下心があったからこそ、バルカ銀行券に金をつぎ込んだってことだな」
「なるほど。そういえば、今まで格付けチェックで弾かれた商人たちがこぞって金を出してきていたりしてたな」
「ああ。坊主がフォンターナ家の当主代行になった瞬間、格付けの低い商人は青い顔をしていたからな。これからはフォンターナの街やフォンターナ直轄領でも格付けが適用されるんじゃないかってな」
「それもいいかもな。だけど、投資か……。集めた金を領地持ちの騎士にさらに貸し付けるのはやるとして、あとは教育にも回したいな。フォンターナ家直轄領のそれなりに大きい町や村にも学校を作ってみようか?」
「ちょっと待て。教育に投資? 学校を増やすだと? お前、また金にならないものに資金をつぎ込むつもりなのか?」
「教育への投資は時間がかかることさえ除けば確実に意味がある金の使い方だぞ、おっさん。というか、やるなら早いこと実施しないと、効果が出るまで時間がかかるんだから金のある今が一番いいと思う」
「そんなこと言ったって、坊主はペインにも高額の報酬を与えているだろ。しかも、ペイン以外にもそういう奴がどんどん増えている。いくら金があるって言ったって限度があるぞ。採算が取れなくなるぞ」
「……いや、ペインや他のやつは騎士志望で加入してきている。つまり、俺から名付けを行なっているわけだ。だけど、本当はもっと事務仕事ができる人もたくさん欲しい。そういう意味では学校を作るのは意味がある。カイルのリード姓を与えれば即戦力になるしな」
「確かにリードの名を与えられたらできる仕事量は半端なく増えるが……。しかし、フォンターナ家直轄領全体に学校を広げるのか? バルカニアにあるのと同じ学校を?」
「そうだな……。いや、増やすのはもう少し簡略化したものでもいいかもしれない。職業訓練所は必要ないから対象を徴兵される年齢以下の子どもだけにして、教える内容も最低限の文字の読み書きと計算だけにするか」
「それはそれで、学校を作る意味があるのか? 仕事ができる段階までいかないなら本末転倒になるだろ」
「そうでもないさ。今度作る学校はバルカニアにあるものと区別して小学校とでも呼ぼうか。小学校の目的はやる気のある人と地頭のいい人を見つけることにすればいいんだよ。昼食無料という餌につられて小学校にきた子どもに勉強を教えて、これはという子がいればバルカニアの学校に移すんだ。で、バルカニアではもう少し高度なことを教えて、そこで使えると判断した連中にリード姓を授ける。ようするに人材発掘のためだな」
「なるほど。教える教科を最低限に絞ってやれば教える側の数も減らせるか。そうすれば、思ったよりは金もかからないか」
「そういうことだ。リード姓を与えたら仕事を覚えさせて、いずれはフォンターナ領中に配置する。そうすれば、フォンターナ領はもっと発展する」
俺がフォンターナ領の統治を行うにあたって一番の問題は人材不足であるということだ。
その人材の不足を補うためにやったことの一つにペインへの報酬を高額にするというものがあった。
俺のもとで働き、その結果、騎士と認められて高報酬を得ることになったペインという存在。
それを見て、いろんなやつらが俺のもとへと仕官しにやってきた。
玉石混交といえるようなさまざまなやつがやってきたが、そいつらにはみんな共通するものがあった。
成り上がってやろうというギラギラした目だ。
確かに報酬を弾んだことで仕事に打ち込んでくれるだろう。
その中には俺が思いもしない成果を上げるものも出てきてくれる、と期待している。
だが、ほとんどのやつはやはり攻撃魔法を欲しがるのだ。
リード姓を得て頭脳担当として働かないかとこちらが尋ねても、攻撃能力のある魔法のないリードの名は嫌がったのだ。
どうしても「男として名を残したい」みたいな思想が頭にあるようだった。
しかし、当たり前だが俺はカイルの魔法がいかに優れているかよく理解している。
【速読】や【自動演算】、【念写】といった魔法だけでもありえないほどの便利さだったのだ。
だが、それすらも超越する【念話】という魔法をカイルが作り上げた。
【念話】というのはリード姓を持つものが双方向で会話できるという魔法だ。
本来であれば、カイルは別にリード姓に限らずに誰とでも思念を送って言葉を届けることができる。
が、【念話】はリード姓を持つ者同士に限られる。
それは遠く離れている相手でも声を届けるためだとカイルは言っていた。
超遠距離でもお互いの声を届けることができるのは、名付けによる魔力パスの繋がりを利用しているためだそうだ。
名付けは他者に名をつけることで魔法を授け、魔力の一部を貰い受けることができる関係になる。
つまり、常時魔力的につながっている状態であり、そのつながりを利用して相手の姿が直接見えずとも思念を送ることができるのだとか。
そんな説明をカイルはしてくれたことがあった。
つまり、リード姓を持つものは【念話】という呪文を使って遠方の相手と話ができるのだが、逆に言うと相手がリード姓を持たなければ声を届けることはできないのだ。
そのため、遠く離れた相手から俺に直接話しかけるということは不可能だということでもある。
なので、できればもう少しリード姓の者を増やして各地に配置しておきたかったのだ。
小学校を作るというのはそのためにも必要だ。
それに学校で能力を認められる者というのは男に限らないのだ。
俺の予想ではたぶん、女性のほうが頑張って勉強すると思う。
農家ならほとんどの場合は長男が継ぐことになる上に、結婚相手も父親が勝手に決めるのだ。
かといって自分で自立して生活していくにはこの世界は優しくない。
が、バルカでは例外がいるのだ。
ヘクター兄さんの奥さんであるエイラ姉さんはリード姓を与えられてバルカニアの一区画を任されるに至った。
そして、それを見て多くの女性がエイラ姉さんに続けとばかりに勉強に励んでリード姓となったのだ。
そのことが知られれば各地に作った小学校でも勉強に力を入れる女の人は多数いるはずだ。
それが実現すれば人材不足も十分に補うことができる。
こうして、俺は新たな財源をもとにフォンターナ領各地に小学校を建設していったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





