紙と金と信用
徴兵制をもとにした常備軍の拡大。
今までのバルカ軍だけではなく、フォンターナ家直轄領などからも若く健康な男手を集めて兵としての訓練を施す。
そのためにはなんとしても金がいる。
それも大金が。
だが、その金を捻出することは今のバルカでは少々心もとない。
俺はカルロスのかわりにフォンターナ家当主代行という立場に身を置くことに成功したが、そこからすぐにフォンターナ家の金を使い込んだりするのは風聞が悪いというのもある。
少なくとも直後は無理だ。
最初はある程度バルカ側が負担して常備軍を作っていかなければならない。
そのためにはすぐに手元においておける金が必要だ。
だからこそ、俺は新商品を作ってその販売を通して利益を得るという方法ではなく、もっと手っ取り早く現金を得る方法を行うことにしたのだった。
「いや、どういうことだよ、坊主。この紙を金に変えるってどういうことだ? こんな紙切れじゃお金の代わりにはならないのはわかって言っているんだよな?」
「もちろんだよ、おっさん。今のバルカが紙幣を発行したところで信用度はないからな。そうじゃなくて、この紙を金を持っている連中に大金で買ってもらうんだよ」
「紙を買う? そんなもん誰が買うんだよ。紙がほしいなら普通に買えばいいだけなんだから」
「そりゃ、普通の紙と同じならな。もちろん、俺が売る紙は普通じゃない。紙を購入してから一定期間が経過すれば、もとの購入金額以上でこちらが買い戻すことを認めた紙だからな」
「はあ? ……って、お前、そりゃ借金の証文ってことじゃないか? 何考えているんだ? 金を借りるって話だったのか?」
「そうだ。後で利息をつけて返すから俺に金を出せってことだな。フォンターナ領は間違いなくバルカの魔法で発展する。数年後の税収の増加を見込んで、今必要な金を借りるってことだ」
「いやいや、ちょっと待てよ、坊主。お前もほかの騎士たちに金貸しをしてるじゃねえか。わかってんだろ? 金貸しに金を借りたら高利息で尻の毛まで抜かれることになるぞ?」
「ちょっと違うな、おっさん。俺は別に金貸しに金を借りるわけじゃない。俺が出す証文を買う気のあるやつだったら金貸しである必要はないからな」
「……何言っているんだ? 結局金を借りることには変わりないだろ?」
「違う。金貸しに金を借りる場合はほとんどの場合、金貸しの側が貸す金額と利息を決める。だけど、俺が今回やるのはそうじゃない。俺が利息と返済期間を決める。この場合、相手がなにを言ってこようと、返済期間が来るまでは絶対に金を返さないし、利息も変動させないことを意味する」
「よくわかんねえな。普通なら金を貸すほうが上位者になるのが、金を借りる側になるはずの坊主が基準を決めるってことか? そんなの金を貸そうってやつがいるのか?」
「そりゃいるだろ。忘れたのか、おっさん。今の俺は貴族のフォンターナ家当主の代行、つまり、昔で言えば家宰のレイモンドと同じような立場だ。おっさんだって以前はそこらへんの商人が貴族と繋がりを作るのは難しいって愚痴ってただろ? 貴族としての権威の力が裏付けとしてあれば、金を貸して俺と繋がりを作りたいやつなんていくらでもいるよ」
「……だが、商人はみんな金勘定には厳しいぞ。坊主が貴族家の当主代行という立場を利用して金を集めて返済するつもりなんて毛頭ない、なんて相手に思われたら誰も金は出さない。大きな金額を扱う者たちほど、見る目は厳しいぞ?」
「大丈夫だ。きちんと返す当てがあるっていう保証があれば金を出すことにためらうことはなくなる」
「どうするんだ?」
「銀を見せる。バルカで密かに貯蔵している純銀の山を見せればいい」
「……純銀? って、ああ、まさかあの犬人の銀を見せるのか? あのことは秘密にするって話じゃなかったのか、坊主?」
「タロウについてはもちろん秘密だ。見せるのは銀のインゴットの山だよ。そうだな、こんな感じで言うのはどうかな。バルカは秘密裏に銀山を見つけて発掘を開始している。この銀はその銀山で手に入れたもので、他とは隔絶した純度の銀が採掘可能であり、採掘は進んでいる。時間が経過するほどに銀の貯蓄量は増大しており、今バルカが金を借りても確実に返すことができる、とか説明するのは」
「なるほど。見せ金として使うのか。確かにあの犬人の魔法で作る銀は増え続けていて減ることはない。銀山っていうのは言い得て妙だな。それにあれほどの純銀を見せられて、偽物だと疑うようなやつは話にはならない。……意外といけるか?」
「たぶん大丈夫だ。それにいくら銀を生み出せると言っても、今すぐ何倍にもすることはできない。が、あの銀を元手にすれば今ある銀以上の金額を手元資金にすることはできる」
「わかった。やってみよう。とりあえず、犬人が作る銀の量の把握や証文の返済期間や利息についてももう少し詳細を詰めないといけないか……。いいな、面白いぞ、坊主。バルカの信用度で借りられる最高の金額設定で金を集めてやるぜ」
「おっさんもやる気になったみたいだな。そうだ。普通の証文とは違うってことを強調するために名前でもつけとくか。バルカ銀行券とでもしておこうか」
「銀行券、うん、いいんじゃないか、坊主。よし、さっそく資金集めといこうか」
こうして、俺はおっさんと一緒にバルカ銀行券なるものを発行して金を集めることにした。
偽造防止に証文となる紙も少し特殊にしたり、通し番号を入れたりと工夫を凝らしたこのバルカ銀行券はさすがに現物の純銀というものがあったおかげか、こちらの想定以上に反響が大きかった。
そして、数年間は間違いなく常備軍を運営してもさらに余るのではないかというほどの金が俺の手元に集まったのだった。
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