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現状確認

 講和を結んだメメント軍が自分たちの領地へと引き返していく。

 とりあえずはこれで一安心だろう。

 今から再びメメント軍が急いで引き返してくることもないではないが、それには向こうもリスクを負う。

 無駄な出費と、停戦合意の違反はこれからも続く三貴族同盟の会談での話し合いで不利益を被りかねないのだ。

 一応、メメント軍に対処するための兵を陣地へと布陣して見張らせておく。

 あとは西の監視も重要だろう。

 川という水路を使って軍が来ないかどうかと、アーバレスト家の残党が暴れたりしないかどうかだ。

 まあ、そのへんはバルガスとガーナに任せておいていいだろう。


 それよりも考えておかなければならないのは今後のことだ。

 これからしばらくすれば冬が来る。

 そうすれば雪が降り積もり、人の往来はなくなる。

 当然軍の移動もままならなくなるのでひとまずフォンターナは安全となるのだ。


 だが、そんな雪の守りも永遠に続くわけではない。

 いずれ冬は終わり雪が溶け、春を迎える。

 そのときにある程度三貴族同盟からの睨みをはねのけることができるだけの力をつけておかなければならない。


 力をつける。

 それは別に俺がトレーニングをして強くなることを意味するわけでは当然ない。

 この場合の力はあくまでもフォンターナ領という領地としての力だ。

 だが、この問題がなかなかに難しい。


 というのも、フォンターナ領と一口に言っても結構複雑なのだ。

 フォンターナ家はフォンターナ領としてかつてのウルク領とアーバレスト領を切り取り吸収した領地を持つ。

 だが、そのフォンターナ領全体をフォンターナ家当主代行になった俺が自由自在に運営していくことはできないのだ。


 フォンターナの街でカルロスの居城の執務室の椅子に座った俺がふうっと一息吐きながら温かい飲み物を口に含む。

 そして、今一度このフォンターナ領についてのことを頭の中で整理することにしたのだった。




 ※ ※ ※




 現フォンターナ領とは旧フォンターナ領と旧ウルク領・旧アーバレスト領の3つの領地をまとめた土地のことを指す。

 このフォンターナ領の領主となるのが亡きカルロスの残した子どもであるガロードだ。

 だが、ガロードはまだとても政務につくことなど不可能な幼い子供である。

 そこで、そのガロードのかわりに政務を執り行うものが必要となった。


 俺はその当主としての仕事の代行者の位置に滑り込んだのだ。

 カルロスが亡くなったという情報を誰よりも早く入手し、そして誰よりも早く行動したからこそ実現した出来事だった。

 実を言うとこれは本来できないはずの横紙破りといってもいい。

 なぜなら、カルロスが亡くなったと言っても、それまでカルロスの直属の配下として一緒に仕事をしてきた人たちはそれなりにフォンターナの街に残っていたのだから。

 通常であればカルロスとともに仕事をしてきた者の中からカルロスの仕事を引き継ぐ者を出すのが望ましい。


 だが、俺がガロードの身柄を押さえて強引にこの当主代理という立場に立った。

 まあ、一応はカルロスの異母姉弟であるリリーナと結婚していて繋がりがあり、かつフォンターナ領での実績も持っている。

 不満を持つ者はいるだろうが、少なくとも表面上は俺の指示に従って引き続き仕事をしてくれている。

 その意味であれば、俺はフォンターナ領をまとめていたカルロスに成り代わったと言ってもいいだろう。


 しかし、いくらカルロスでも領地に関してできないことはある。

 それは当主と騎士の関係からくるものだった。

 フォンターナ領があり、それをまとめるフォンターナ家当主だが、実際にはその中にいくつもの騎士領がある。

 例えばカルロスが存命だったときのバルカ騎士領にしてもそうだし、ピーチャのアインラッド領やガーナのイクス領などだ。

 領地をまとめる当主は自分の領地内にいる騎士に対して命令を下すことができる。

 が、各騎士領の運営のやり方についてはその土地を治める騎士が独自裁量をもつのだ。


 各騎士領を治めている騎士が領地でどんな場所を開拓して畑を増やすか、あるいは庶民にどんな税を納めるように命じるかなどはその騎士が自由に決められるのだ。

 その騎士領のなかの内政についてはフォンターナ家当主という存在であっても勝手な口出しはできない。

 いや、しようと思えばできるかもしれないが、それを不満に思った騎士がフォンターナ領で反乱を起こしたり、フォンターナからの離脱を試みる可能性もあるのだ。

 なので、一般的にいって当主は各騎士領からフォンターナに対して税を納めさせ、有事の際には兵を動員するように命じることができるくらいの権力しかないのだ。


 ようするに、意外とフォンターナ家当主というのは権力が少ない。

 それはさらに言えば当主代行になった俺も今までよりも権力が増えたとは言え、なんでもできる独裁者になったわけではないのだ。

 フォンターナ領を守るためといってあまりに無茶な行動を取ればそれに反発する者もいて、そこからフォンターナがバラバラになる可能性もあるのだ。


 だが、それについてはカルロスも考えていて手を打っていた。

 特にカルロスはレイモンドが急死したあとに突然領内をまとめただけあって、よりカルロスという当主に権力が集まるように仕向けていたのだ。

 かつてレイモンド派であり、反カルロス派として行動した騎士の領地は没収し、その多くをフォンターナ家直轄領としていたのだ。

 さらに各地の騎士領を治める騎士の家族をフォンターナの街へと移り住むように命じている。

 いざとなれば妻子を見捨てることもないではないが、多くの騎士にとってフォンターナの街に住まわさせられた子どもは人質としての価値があった。

 なぜなら、その騎士が死んだときにその騎士の配下の魔力パスを継承するのは多くの場合、フォンターナの街に住む長男なのだから。


 こうしたカルロスが残した遺産をガロードに代わって俺が手にすることができた。

 フォンターナ家直轄領は当主代行として割と自由に采配を振るうことができる。

 対して、各騎士領に対しては無茶な命令ではなければそれなりに命じることもできる。

 なら、今までできなかったことをやろうではないか。

 バルカ騎士領当主のアルス・フォン・バルカではできなく、フォンターナ家当主代行としてのアルス・フォン・バルカならできることを。


 こうして俺は冬になる前に新たな行動を開始することにした。

 フォンターナ領を守る、ひいては俺の身を安全にするために、フォンターナ領をより強くする。

 そのための政策を実施することにしたのだった。

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