演説
「皆、よく聞いてくれ。この度、カルロス様がお亡くなりになられた。王都へと王を護送していたときのことだ。卑劣にも王の身を狙う者によって攻撃を受けたのだ。
カルロス様は王の身を守るために懸命に戦われた。ご自身が傷つくことを厭わず、その身を呈して守りながら戦い抜いたのだ。
だが、結果は先に言ったとおりだ。カルロス様は凶刃に倒れてしまった。勇敢に戦われたものの、相手も当主級の実力者が多数含まれた強襲部隊だったからだ。
かつて、フォンターナ家は王家によって多大なるご恩を頂いたという。それはもはやカルロス様にとっては何代も前のご先祖様のことだった。だが、カルロス様はそんな王家に対する恩を決して忘れたりはなさらなかった。
今回、王がフォンターナ領へとお入りになったのはひとえにその身に危険が迫っていたからだ。王の身を狙う輩がいる。しかも、その背後には恐ろしく強大な組織がいる。
普通ならばそのような危険な状態の王を保護するのは今や覇権を狙うことを隠さなくなった三大貴族たちだった。だが、彼らは王の身を保護することはなかった。
それはなぜか。理由はただひとつだ。彼らこそが王の身を狙っていたからだ。強大な力を持つ三大貴族に狙われてしまった王は安らかに体を休めることもできなかっただろう。
だが、それを助けたのがカルロス様だった。かつての恩に報いるために、大きな危険が渦巻いている王の御身を守るため。カルロス様はこのフォンターナ領で王を保護なされたのだ。
そして、その王の身を王都に送り届ける。その道中で今回の事件があった。
カルロス様はさぞ悔しかったことだろう。ご出立の前には私にこう言っていたのだ。必ずや王をご領地に送り届け、不安のない生活を送っていただくのだ、と。
だが、それは叶わぬ夢となってしまった。自らも恩を受けた身でありながら、王へと刃を向けた者たちの手によってだ。
そして、カルロス様はこうも思っておられるだろう。このことがフォンターナの未来を暗く閉ざしてしまうことがないように、と。このフォンターナの地にいる我らのことを最期までお考えになられていたはずだ。
私は皆に聞きたい。こんなことが許されていいのか。敬愛していたご当主様をこのようなことで失って平気なのか。
否である。
私はこんなことは許されていいとは思わない。断じて許してはならないと考えている。
今こそ、フォンターナは一致団結して協力するときではないだろうか。カルロス様が残した最後の希望、カルロス様のご嫡男ガロード様を助けて、我らがフォンターナの未来を守っていこうではないか。
私はフォンターナを守りたい。なぜなら、カルロス様が王の護衛で出立される直前にわたしの前に来てこう言われたからだ。フォンターナを頼む、と。
私はこのカルロス様の最期の言葉を守りたいと思う。フォンターナに残された最後の希望であるガロード様を守り、助け、お育てするとここに誓おう。
私はここに宣言する。フォンターナを守るために、カルロス・ド・フォンターナが騎士として、また、民を見守る教会から認められた聖騎士として、我が甥ガロード・ド・フォンターナの後見人としてフォンターナを守ることを宣言する。
あらゆることからフォンターナを守る。そのために皆も手を取り合って協力してくれないだろうか。私と一緒にカルロス様の意思を継いでほしいと願う。
これから訪れるであろういかなる困難も諸君らの力を持ってすれば必ずや克服できると信じている。ともに歩もう。新たなフォンターナの未来のために!!」
「「「「「ウォオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」」」
「フォンターナの未来のために!」
「「「「「フォンターナの未来のために!!」」」」」
「フォンターナの未来のために!」
「「「「「フォンターナの未来のために!!!」」」」」
よっしゃ。
うまくいったぞ。
バルカニアにフォンターナ領の主要な騎士を集めて、その前で演説を行なった。
場所はバルカ城のステンドグラスに彩られた謁見の間だ。
背後から光が入り、俺の後ろでキラキラと幻想的な演出をしてくれるステンドグラス。
それを後光のように背後から背負って、騎士たちを言い含める。
もちろん、最初からある程度の仕込みはしておいた。
フォンターナの未来のために、などというどういう意味にも取れて、みんなが同意しやすいフレーズを使って一致団結さを演出したのだ。
どうやら、このやり方はかなり効果があったようだ。
仕込みとして伏せていたサクラ以外も熱狂的に拳を突き上げて「フォンターナの未来のために」と声を上げている。
実際のところ、カルロスに「フォンターナを頼む」などと言われたことは一度もないが、まあいいだろう。
嘘も方便というしな。
これで俺は正式にカルロスの子供のガロードの後見人という立場を手に入れることができた。
もちろん、2才児のガロードになにかができるとは思えない。
ということは、俺が自由に采配を振るうことができるということでもある。
俺の行動に反対するやつがいれば、フォンターナに対する裏切り者として処罰しよう。
こうして、俺はカルロスの死後の僅かな期間でフォンターナ領を手中に収めることに成功したのだった。
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