新加入
「アルス様、少しよろしいですか?」
「どうしたんだ、リオン。何かあったのか?」
「はい。どうやら教会がうまく話を運んでくれたようです。無事に三貴族同盟が会合を開き、お互いに話し合いをすることができることになったそうです」
「そうか。とりあえず一歩前進だな。フォンターナ家としては三大貴族とうまく繋がりを作って、メメント家の動きを抑えるようになれれば万々歳だな」
「はい。まだ予断を許さない状況ではありますが、会合を開くことになりメメント軍の動きが止まりました。警戒はまだ必要ですが、一息つけそうですね」
「そうだな。何度かこの陣地まで来ての小競り合いがあったからな。それが落ち着いてくれれば助かるよ」
「それもこれもアルス様の働きのおかげですね。カルロス様も恩賞を弾むことでしょう」
「そりゃ助かるな。こっちは相変わらず金欠の中で戦っているからしんどかったんだよ」
「私からもカルロス様にしっかりと褒賞を授けてもらえるようにお願いしておきますね。それで、私から一つアルス様にお聞きしたいことがあったのですが、聞いてもよろしいですか?」
「ん? なんだよ、リオン。改まってなにが聞きたいんだ?」
「はい。アルス様の持つ気球、あるいは飛行船と呼ばれる乗り物についてです。今回の戦いでは非常に大きな活躍をしたと記憶しています。その飛行船についてなのですが……」
「言っておくけど、あれは貴重なものを使って作ったやつだからな。カルロス様といえどもポンッと献上することは難しいぞ。購入してくれるなら売ることも考えるけど、そのときは何か事故があっても責任取れないしな」
「いえ、飛行船そのものよりも性能についてお聞きしたいのです。あれは人を乗せて空を飛べるのですよね? あれがあれば王やその側近の方々を乗せて安全に王都まで移送することは可能なのでしょうか?」
「はあ? お偉いさんを乗せて? だめに決まってるだろ、そんなこと」
「駄目ですか。……ちなみにそれはどのような理由によるものでしょうか?」
「一つは安全性についてだな。あれは俺が趣味で作ったようなもので完全ではない。なんらかの事態が発生すれば命を落としかねない危険なものであるってことだ。一応安全な脱出装置の開発もしているけど、少なくともお偉いさん方を乗せるようなものじゃないよ」
「安全性ですか。……しかし、誰にも邪魔されること無く移動できるという意味では飛行船の価値は高いですね」
「いや、安全性の問題を解決しても、まだ重要な問題が残っているぞ、リオン。飛行船は天候の変化に弱いんだ。雨が降ったり、強い風が吹いていたりするとまともに飛べない」
「それは、一時的に着陸すればいいだけなのでは?」
「何言ってんだよ、リオン。フォンターナ領の中ならばそれでもいいかもしれない。けど、他の貴族領で一時的であっても着陸したら何があるかわからないぞ。というか、今回の戦いで飛行船が活躍したからな。その情報を持っている者の領地だったら、着陸した瞬間に殺されて奪われてもなんら不思議ではない」
「なるほど。確かに天候という不確定な要素が介在し、いざというときに安全を確保できないというのであれば王を移送することはできませんね」
「というか、もう王の身柄を移す話になっているのか、リオン?」
「いえ、まだです。が、三貴族同盟の会談に王家の者が参加して話をまとめる手筈になっています。王がいなくともどの貴族家を新たな覇権貴族とするか決めることは可能です。しかし、その話し合いが正式にまとまった場合にはやはり王自身がその場にいる必要があります。つまり、話がまとまった段階できちんと王を王領へと送り届ける必要があるのです」
「……よくわからんけど、新たな覇権貴族になったやつに迎えに来てもらえばいいんじゃないのか?」
「おそらくそうなるでしょう。ですが、そうなると正式に王を迎える必要があるため準備に時間がかかるかもしれません。今回の件を早く解決したいのであれば、こちらが安全にかつ迅速に王を王都へと送ることができればそれが一番なのですよ」
「けど、さっきも言ったとおり飛行船を使うのはなしだ。となると、陸路を行くしかないがフォンターナから王を送るにはメメント家が邪魔すぎる。やっぱり無理じゃないか?」
「いえ、そうとも言えません。陸と空が駄目なら残りは一つ。水路を行く方法が考えられますよ、アルス様」
「水路?」
「はい。お忘れですか? フォンターナの西にあるアーバレスト領には複数の貴族領からの川が流れ込んでいます。その水路をさかのぼるようにして移動すれば王領へとつくことが可能です」
「なるほど。確か西から行けばメメント家の勢力圏外になるんだったか? そっちのほうが確実かもな。でも、フォンターナ家で操船技術の高い集団っているのか? 水路で行っても王の身を守る護衛できる存在が必要なんじゃ?」
「はい、実は新たにフォンターナ家に加入した者がいます。その者たちは船の技術を持っているのですよ」
「へー、そんな技術持ちがフォンターナに忠誠を誓うことになったのか。誰だろ?」
「アルス様もご存知のかたですよ。ラグナ・ド・アーバレスト、アーバレスト家の当主がアーバレスト家を率いてフォンターナへと降ることになりました」
リオンが衝撃的なことを言ってきた。
フォンターナに対してアーバレスト家が忠誠を誓う。
それは長年貴族として領地を治めてきた貴族家が別の貴族家の軍門に降るということだ。
アーバレスト家の新たな当主であるラグナはどうやら思い切った決断をしたようだ。
だが、仕方がないのかもしれない。
俺が自分で言うのもなんだが、アーバレストは負けすぎた。
もはや貴族としての上位魔法を発現するだけの騎士数を確保することもできず、しかも、借金まみれに落とされたのだ。
俺が求めた賠償請求金額が向こうの予想以上に多かったのだろう。
このまま放っておけばいずれ領地運営に限界が来ることは明白だ。
だからこそ、なんとかするのであればフォンターナがメメント家と戦っている瞬間に仕掛けるしかなかった。
が、もはやそうするだけの戦力もない。
そうなると、あとに残っている選択肢は限られていたのだろう。
他の貴族家からなんらかの支援を受けて領地を取り戻し、再び自立するか。
あるいはフォンターナの軍門に降るか。
そのどちらも普通であれば選べない。
なにせ、今まで領地を隣り合って争い合っていたのだから。
だが、ラグナはフォンターナにつくことに決めた。
もしかしたら、再び地力をつけて上位魔法を発現させる機会を狙っているのかもしれない。
が、現状ではアーバレスト家の加入をフォンターナ家がはねのける余裕はない。
リオンの言う通り、陸も空も王の移動ルートとして使えないのだ。
であれば、水の上を行くしかない。
そのためには衰えたとはいえアーバレスト家の力は必要になる。
こうして、絶好のタイミングでアーバレスト家はフォンターナ家の一員となったのだった。
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