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カイルの初陣

「う……、これはすごいな。足元がふわっと浮いてる感じがしてちょっと怖いぞ」


「そうかな? 前に乗った気球のときよりはかなり安定していると思うよ、お父さん」


「そうか、気球はそんなに揺れていたのか。はは、父さんよりもカイルのほうが頼もしいな」


 お父さんが飛行船の操縦士に合図を出して、ゆっくりと飛行船が浮かびだした。

 お父さんは初めて乗る飛行船にちょっと不安そうだ。

 でも、ボクはあんまり怖くない。

 前に気球が北の森に墜落したときも乗っていたからかな?

 あのときは揺れたのもあるけど、帰ることができるかどうかもわからなかったからちょっと不安だったんだ。


 その飛行船がどんどんと高く上がっていって地面を見下ろすほどになる。

 そうすると、ものすごい数の人がいるメメント軍が慌て始めたのが見えた。

 ほとんど全員が空に浮かぶ飛行船を見て指を指している。

 そんな慌てふためく人の上を通るように飛行船が進んでいった。


「あ、攻撃してきたよ。魔法も使ってきた」


「カイル様、よくご覧になってください。あれがメメント家のもつ魔法、【鎌威太刀かまいたち】です」


「かまいたち? それって強い魔法なの、ペインさん?」


「はい、もちろんです。【鎌威太刀】は手に武器を握っているときは、そこに風の加護をつけると言われています。するとどんななまくらであっても、金剛石すら切り裂ける攻撃力を得られると言われています」


「へー、バイト兄さんの【武装強化】みたいだね」


「そうですね。ですが、【武装強化】とは違う点もあります。それは武器を持たずに手から遠隔攻撃として発射することもできるのですよ。風の刃として、離れた相手を切り裂くこともできる、万能の攻撃魔法と言えますね」


「すごい。一つの魔法で二つの攻撃方法があるんだ。魔法ってそういうものもあるんだね」


「はい。非常に強敵です。ですが、メメント家がこれほどの大貴族となり得たのは【鎌威太刀】だけの効果ではありません。やはり、当主級だけが使えるという上位魔法の存在が大きいと言えるでしょう」


「どんな魔法なの、ペインさん? メメント家の上位魔法って。【氷精召喚】とか【黒焔】とか【遠雷】よりも強いの?」


「絶対的な攻撃力という点だけで言えばウルク家の【黒焔】ほど強力なものはないのではないかと私は思います。が、メメント家の上位魔法は【黒焔】よりも破壊力がありました。それこそ、いくつもの貴族領を滅ぼしてのし上がるほどの破壊力がメメント家の【竜巻】にはあるのです」


「……たつまき?」


「はい。カイル様はつむじ風というのをご覧になったことはありませんか? 風が渦を巻いて周囲のものを飛ばす現象です。【竜巻】というのはそれをさらに大きくしたものです」


「うん、つむじ風なら知っているよ。グルグルって回ってる風のことだよね? でも、あれが大きくなるとそんなに破壊力があるものなの?」


「はい。あ、下を見てください、カイル様。ちょうど、メメント家の当主級がこの飛行船を狙って【竜巻】を使ってきましたよ。少々揺れるかもしれませんのでお気をつけて」


「あ、本当だ。……すごいね。周りのものが吸い込まれて飛ばされてる。……この飛行船は大丈夫なの、ペインさん?」


「はい。前回の飛行船での偵察の際にもアルス様は【竜巻】を確認しておられました。その際に、メメント家の上空を飛ぶにあたって【竜巻】の影響を受けない高度を維持するようにと指示を出されていますから」


「そっか。ならこの飛行船は大丈夫なんだね」


「そうですね。当主級がひとりで【竜巻】を使ったのであれば、という条件が付きますが」


「ひとりで使う? どういうこと、ペインさん?」


「メメント家の上位魔法【竜巻】は複数の当主級が協力して発動することによって威力を底上げすることができるのですよ。ひとりで使うと空に浮かぶ飛行船には届かない高さの風の渦ですが、協力して威力を底上げすれば風の渦は天まで伸びると言われています」


「天まで? それってものを吹き飛ばす風の威力も上がるんだよね?」


「もちろんです、カイル様。だからこそ、メメント家は他の貴族家を圧倒してきました。何しろ、城に籠城しても建物ごと吹き飛ばされてしまうほどの威力が出せるのですから。もちろん、野戦でも活躍間違いなしです。最大強化された【竜巻】の破壊力はかつての王家の力にまで届くのではないかとさえ言われるほどです」


「そ、そんなにすごいんだ、メメント家って。あ、アルス兄さんは大丈夫なの、ペインさん?」


「わかりません。が、アルス様はメメント家の【竜巻】を話に聞いた段階でその危険性を十二分に理解していたようです。だからこそ、陣地で籠城するのではなく打って出ることも考えて行動していたのでしょう」


「そうか、アルス兄さんは今回の作戦で必ず当主級をひとりは倒すって言っていたけど、それが理由だったんだね」


「そうですね。本当ならメメント家が動きづらいこの機会にさらに当主級を討てれば一番なのですが、どれほど考えても複数討ち取るのは難しいという結論でした。私も同意見です。むしろ、一人でも当主級を倒すことができれば御の字でしょう」


「そっか。でも、それならボクもアルス兄さんのためにできることをしてあげたいな」


「ふふ、アルス様もカイル様のそのお気持ちだけで喜ぶでしょうね。今はこの上空から戦場全体を見渡せるという機会を利用して戦の動きを理解するだけでも十分でしょう。あとは、アルス様におまかせしましょう」


「うん、でも、やるだけやってみるよ、ペインさん。ヴァルキリーたち、お願い。アルス兄さんを助けてあげて」


 飛行船の上から下を見ているとメメント家の騎士や当主級らしき人が魔法を発動してきた。

 けれど、それらは飛行船には届かない。

 ペインさんが言うには、アルス兄さんとペインさんがメメント家の偵察に行ったときに魔法が届く高さも確認していたみたいだ。

 だから、安心してペインさんからメメント家のことを聞くことができた。


 やっぱり、大貴族と言われるメメント家の力はすごいと思ってしまった。

 アルス兄さんは大丈夫なんだろうか。

 ペインさんはアルス兄さんにまかせておいてって言うけれどとてもそんな気にはなれなかった。

 だって、ボクが戦場に行きたいって思ったのは無茶をするアルス兄さんを助けたいからなんだ。


 だから、ボクはアルス兄さんを助けるために地上にいるヴァルキリーたちにお願いしたんだ。

 せめて、アルス兄さんが攻撃を仕掛けた軍以外の他の4つの軍が近づけないようにって。




 ※ ※ ※




「か、カイル様? なにをなさっているんですか?」


「え? 角ありヴァルキリーに指示を出しているんだよ。ほら、メメント家の他の軍がバルカ軍に向かおうと動いているから、その動きを止めるように【壁建築】をさせて進路を塞いでいるんだ」


「いえ、そうではなくて……。なぜ、そんなことができるのですか? 上から見ているとわかります。ヴァルキリーたちは戦場を非常にうまく立ち回って壁を作っていっている。それはわかります。が、あんなに上手くメメント軍の動きを把握して壁を作るのはヴァルキリーであろうと、人間であろうと無理です。どうやったらあのような動きが可能なのですか……」


「え、だからボクが指示を出しているんだよ。上から見ればメメント軍の動きはよく分かるからね。それに合わせてヴァルキリーたちの行き先と壁を作る場所を教えているんだよ」


「……あの、どうやって指示を出しているんでしょうか、カイル様? ここは【竜巻】すら届かない上空です。地上にいるヴァルキリーに指示など出せるわけありませんよ」


「別に魔法でヴァルキリーに話しかけているだけだよ? 前に森の大木がボクに話しかけてきたことがあって、それからボクも練習したんだ」


「木が話しかけてきた? ……そういえば、遭難したときにそんなことがあったと言っていた気が……。まさか、離れた相手にも声を届けることができるのですか?」


「うん。空の上からなら話し相手も見えるしやりやすいね。よし、これでアルス兄さんの狙っていた軍は完全に他のメメント軍から孤立したね。これなら邪魔が入らないよ」


「……いやはや、アルス様といい、バイト様もカイル様も末恐ろしい。もしかしてお父上もなにか特殊な魔法をお持ちなのでしょうか?」


「バカ言わないでくださいよ、ペインさん。この子たちの父親といっても俺はそんな力はないですよ。……いったい我が子は誰に似たのかといまだに思います」


「どうしたの、お父さん? あ、タナトスさんが巨人になって【竜巻】を地面ごと吹き飛ばしたよ! よし、いけ! ああっ、防がれた。あ、けど後ろからアルス兄さんが行った。……やった! アルス兄さんが当主級を討ち取ったよ、お父さん。これで、バルカの勝ちなんだよね、ペインさん?」


「……いえ、まだ油断は禁物ですよ、カイル様。ここは他の貴族の領地なのです。それにまだメメント家には4つの軍が健在です。数の少ないバルカ軍にとって、いかに安全にフォンターナ領まで退却することができるかどうかも大切なのです。カイル様、ここからアルス様に話しかけることは可能ですか?」


「うん、できるよ、ペインさん」


「そうですか。では、アルス様に提案なさってください。退却のための殿はカイル様が飛行船からヴァルキリーを使って手助けする、と。そうすれば、より安全に帰還することができるでしょう」


「うん、わかったよ、ペインさん。アルス兄さんに言ってみるよ」


 ペインさんの助言を聞いてアルス兄さんにさっそく話しかけた。

 おかしいんだ、アルス兄さんったら。

 ボクが話しかけたらびっくりしてあたりをキョロキョロと見渡している。


 けど、すぐにボクの伝えたことを許可してくれた。

 頭の上に両手で丸を作って飛行船に向かってみせてくれている。

 あれはたぶんボクの提案を了承してくれたってことかな?


 こうして、バルカ軍はフォンターナ領の陣地まで引き返していった。

 バルカ軍の勝利だ。

 けど、やっぱり子供のボクじゃアルス兄さんの手助けはあまりできなかったな。

 はやく大きくなって一緒に戦いたいな。


 こうして、ボクの初陣が終わった。

 もっと頑張ろうっと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カイルくん、おそろしい子ww [一言] 当主級「扱いがひどい!」 大司教「こっちはもっとひどい!」
[一言] 航空偵察出来たら我が軍は圧倒的優位性を持つね
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