表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/1265

疲労回復

「これはあかん。どげんかせんといかん」


 俺は全身筋肉痛の体に夜も眠れぬほどうなされながら、どうしたものやらと頭を悩ませていた。

 理由はヴァルキリーに騎乗したことにある。

 手綱だけをつけてヴァルキリーの背中に乗って移動する。

 この試み自体はそれなりにうまくいくことがわかった。


 普通、乗馬するとなれば誰でも簡単に乗れるというものではないだろう。

 本来自由気ままに移動する生き物の背中に乗るというのは、乗られる動物側からすればたまったものではない。

 振り落とそうと体を揺らしまくることだろう。

 そうでなかったとしても、こちらの思う通りに移動させるというのは並大抵の技術ではないはずだ。

 だが、ヴァルキリーに関してはその点について問題はなかった。


 もともとヴァルキリーは前世に見たことのある馬ではなく、使役獣という生き物なのだ。

 俺の魔力で生まれ育ち、生まれたときから俺の言うことを理解し、聞いてくれる聡明さがあった。

 そのヴァルキリーの背中に乗るというのは、馬に乗るのとはわけが違うくらいに簡単だったのだ。

 俺がなにも言わなくとも、背中に乗る俺が負担に感じないように動いてくれる。

 気遣いのできるヴァルキリーのおかげで、それほど苦もなく騎乗することができたのだった。


 だが、それでも騎乗するということは俺にとっては大変だったのだ。

 おそらく鞍や鐙といった道具がないというのも関係しているのだろう。

 カッポカッポと足を動かすヴァルキリーの移動は、どれほど俺に気を使って移動しようともすごく揺れるのだ。

 そして、その揺れ動くヴァルキリーから落ちないためにはどうすればいいのか。

 それは左右の足でガッチリとヴァルキリーの胴体を挟み込んで、体を固定するしかなかった。


 これが俺の想像していた以上にしんどかったのだ。

 しばらく乗ったあとの体の状態は、太ももの内側などはピクピクとけいれんし、少しでも触れようものなら飛び上がってしまうほどの痛みが出てしまうありさまだ。

 さらに筋肉痛は下半身だけにはとどまらない。

 いくら下半身に力を込めても上半身が不安定であれば落ちかねないのだ。

 では揺れ動くヴァルキリーの上で上半身を揺らさないためにはどうすればいいか。


 そこの答えは体幹の筋肉を総動員するというものだった。

 体幹、またの名をコアマッスルとも言う。

 体幹がしっかりしている人というのは頭の先からお尻までまるで一本の棒が存在するかのようにして伸びている。

 体の軸がしっかりしていると言ったらいいのだろうか。

 その状態をしっかりとキープし続けることができれば、揺れも大幅に減るに違いない。


 その考えは決して間違いではなかった。

 だが、同時に体の各所から筋肉痛の悲鳴が鳴り響いている。

 まさか騎乗するというだけで、ここまでのダメージがあるとは思いもしていなかった。

 甘く見ていたと言わざるを得ないだろう。

 だが、だからといって諦めるというわけにもいかない。

 前世では騎馬民族なんて連中もいたくらいだ。

 決して動物の背中に乗るというのは不可能な行為ではない。

 そうして、その日から俺は毎日騎乗訓練を続けることにしたのだった。




 ※ ※ ※




「瞑想」


 騎乗訓練を始めてからしばらくして、新しい魔法を開発した。

 といっても、実は今までもやっていた技術の応用だが。


 今回開発した魔法は【瞑想】という呪文名にした。

 これは体から自然に漏れ出している魔力を一切漏れ出さないようにするというものだ。

 俺は目に魔力を集中すると魔力を色付きで見ることができる。

 そして、その状態で他の人を見ると、人体からぼんやりとしたモヤのような青い気体が立ち上っているのが観測できた。


 これはおそらく、その人の体内で発生させている魔力が、まるで蒸発して目減りしていくお湯の湯気のような感じで体外へと流れていってしまっているのだと思う。

 つまり、作った魔力は常時無駄になってしまっている状態だということになる。

 ならば、体から魔力が漏れ出ないようにしたらどうなるのか。

 かつてこのことを試していたことがあった。


 結論から述べると、自然治癒力が大幅に向上するという結果になった。

 無駄になってしまっていた魔力が体を治すために役立ってくれるのかもしれない。

 今まではこの効果をしっていたが、呪文化はしていなかった。

 疲れたときに疲労回復を促すなら、わざわざ呪文にしなくとも使えるからだ。


 それが、今回なぜわざわざ呪文化したかと言うと、理由がある。

 それは呪文を唱えたときに現れる効果が一定であるというところに目を向けたからだ。


 【整地】という魔法ならばいつでも決まった広さの土地を整地してくれる。

 【レンガ作成】ならば呪文を唱えると毎回同じ形のレンガを作り出すことができる。

 だが、【身体強化】には体を強化するという効果の他に、呪文を唱えたあと一定時間効果が持続するという側面もあった。

 つまり、呪文化の際に呪文の効果時間も決まるのだ。


 そして、面白いのが【身体強化】の呪文を唱えたあと、俺が眠ってしまってもその呪文の効果は継続しているらしい。

 実際、強化された状態で寝返りを打って家の壁を叩いて壊したという事件があったのだ。


 家の壁が壊れるというのは問題だが、使い方によっては便利にもなり得る。

 要するに俺は【瞑想】という呪文の効果が長時間続くように呪文化をすることにしたのだ。

 その結果、俺は【瞑想】と呪文を唱えてから眠ることで自然治癒力を強化状態のままにすることに成功し、どれだけ全身の筋肉痛がひどかろうと一晩眠れば完全回復できる事になったのだ。


 ベッドで眠ると完全回復など、まるでどこぞの勇者にでもなった気分だ。

 こうして俺は回復手段を手に入れ、日々の騎乗訓練を気兼ねなく行えるようになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
[一言] 馬って実は汗っかきで、鞍無しで乗ると滑ってまともに乗れないんです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ