3つの陣地
「ふう、とりあえずこんなもんかな? バルガス、陣地を壁で囲う作業はこれで最後だよな?」
「ああ、これで終わりだ、大将。突貫だが、とりあえず十分だろうさ」
メメント家迎撃地点にやってきた俺はひとまず守りを固めることにした。
アインラッド砦から南に数日ほど移動したところに陣地を作成したのだ。
それも3つだ。
もともとが丘であり、その丘の高さを利用して作ったアインラッド砦。
そのアインラッド砦は丘の高さにプラスして、【アトモスの壁】で囲まれている。
その防御力はかなりのものであると思っている。
そして、そのアインラッド砦の南で3つの陣地を作った。
こちらは丘などがなかったものの、同じように【アトモスの壁】で囲っている。
単純に高さ50mの壁というだけでもすごいだろう。
なぜ、3つも作ったのかと言うとお互いに援護しあえるようにという狙いだ。
こちらの数を上回るメメント家の軍勢が押し寄せてきたときにいかに時間を稼げるかという問題がある。
教会の大司教が三貴族同盟の仲裁を行うように要請し、実際に今大司教はその仕事を果たすために南へと向かっていった。
だが、それがすぐに実現するかどうかはわからないのだ。
もしかしたら、実現せずにそのままメメント家が襲ってくるかもしれない。
あるいは教会が三貴族へと声をかけても、今年中には集まることができないかもしれない。
どちらにしても、メメント家がおとなしく動きを止めるという保証はどこにもなかったのだ。
なので、それに対して備えておかなければならない。
つまり、三貴族同盟による会談が行われるまで時間を稼がなければならないということになる。
そして、その際に重要なのがこちらの勢力が攻撃され、負けてしまうことがあってはならないということだ。
基本的に籠城する場合、外からの援軍が来なければほとんど時間が稼げない。
なので、複数の陣地を作り、そのどれかが攻撃されたら他の陣地から援軍が飛び出せるように備えておくことになったのだった。
「不安だ。本当に大丈夫なんだろうか」
「どうしたんだ、大将?」
「いや、守りを固めるための陣地が出来上がったことは喜ばしいことだろ、バルガス。だけど、この陣地が本当にメメント家の攻撃を防ぎ切ることができるんだろうか。一度そう考えだすと不安で仕方がないんだよ、俺は」
「なんだよ、ずいぶん弱気じゃねえか、大将」
「……そうか、お前は俺がペッシと戦ったときはいなかったんだっけ? あのとき、急造の陣地で籠城してたんだけど、本当に死ぬかと思ったんだぞ? ウルクの【黒焔】で窯焼きみたいになってんのに、カルロス様が援軍に来るのはあと何日も先だって聞かされて、どんだけ大変だったことか」
「まあ、確かに俺はその場にはいなかったからな。けど、そのときは【壁建築】で作った陣地だったんだろ? 今回はそれよりも高い【アトモスの壁】で陣地を作ってるんだから大丈夫じゃないのか?」
「いや、メメント家が持つ上位魔法が弱いわけ無いだろ。三大貴族家として今覇権を争う急先鋒のところだぞ。不安に思わないバルガスが羨ましいよ」
「まあ、そりゃ心配っちゃ心配かもしれないけど、まだ来てもいない相手にそこまでビビっても仕方がないだろ」
「来ないでくれるのが一番なんだけどな。つーか、まだこっちに向かってきているんだよな、メメント家って。なんか思ったよりも時間がかかっているんだな」
「うん? いや、こんなもんじゃないのか? 言っとくが大将、俺らバルカ軍は移動速度がかなり速いんだぞ? 普通は他の軍はもっと遅いからな」
「そんなに違うのか?」
「ああ、違うと思うぞ。フォンターナ領の中に道路を張り巡らせたのもあるだろうけどな。たぶん、他の貴族の軍と比べると何倍も速いんじゃないのか? いや、ちゃんとは知らないけどな」
メメント家の動きは逐一チェックしている。
こちらの掴んだ情報ではだんだんと北上してきており、この迎撃地点に向こうから接近してきているのだ。
だが、その速度は遅かった。
もっと早く、こちらへと到着し、交戦状態に突入するかもしれないと俺は気にしていたのだ。
だが、そうはならなかった。
思ったよりもメメント家の動きが遅かったのだ。
バルガスが言うには、それは俺達バルカ軍の動きが早すぎるだけではないかというものだった。
はたして本当にそうなのだろうか?
改めて手に入れた情報を眺める。
どうもメメント家の軍勢は1日の移動距離が15km程度のときもあるようだ。
その日によって幅があるものの、その移動距離が倍以上になることはない。
ということは、だいたい15〜30kmが軍の移動可能距離ということになるのだろうか?
短すぎではないか、と思ったが、バルガスの言う通りそんなものなのかもしれない。
そういえば、初めてウルク家と戦ったときも相手の動きは遅かったなと思い出した。
「……一回、自分の目で見に行ってみるかな?」
「は? おい、何いってんだよ、大将。見に行くってまさかメメント家の軍をか?」
「ああ、そうだよ、バルガス。こんだけ時間がかかるなら、実際にメメント軍を見に行ってもいいかと思ってな」
「……あのなあ、正気じゃないぞ、大将。というか、無理だ。メメント家は他の貴族領を通ってこっちに向かってきてるんだ。つまり、逆に言うとだ。メメント家の軍を見に行こうって言うなら、大将も貴族領を通らないとだめなんだ。関所で止められるに決まってるだろ」
「関所か……。そうだな、確かに途中にある関所をすべて無事に通って偵察しに行くのは難しいか。でも、大丈夫だよ、バルガス」
「はあ、今度はなにをどうするつもりなんだよ、大将は」
「関所は地上にしかない。だったら、地上を通らなければ大丈夫さ。空を飛んで行ってくるよ」
俺がバルガスにそう言うと、バルガスは頭に手を当ててうなだれてしまった。
だが、決して俺が言っていることは間違っていない。
面倒くさい関所なんか経由しなくとも移動することは可能なのだ。
こうして、俺はバルカニアから持ってきていた乗り物に火を入れたのだった。
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