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アルス対策会議

「ご当主様、バルカ軍が水上要塞パラメアへと入ったとの情報が届きました」


「バルカが来たか。今、フォンターナ家は非常に複雑な状況に追い込まれている。三大貴族の一角のメメント家が動きを見せ始めているからだ。当然、それを無視するわけにはいかない。が、そこで背後をつく可能性がある我らアーバレストにどう対処するか。それが見ものだったわけだが……」


「はい、そのとおりでございます。連戦連勝の快進撃を続けているバルカをメメント家にぶつけるかどうか。正直、フォンターナがどのような選択肢を取るか予想できませんでした。しかし、結果は我らアーバレストにバルカ軍を当てるようです」


「まあ、大方の予想通りではあるだろう。なにせ、バルカには我らアーバレスト家の上位魔法を封じる魔法が存在するのだ。ならば、あえてメメント家という相手に当てずに我らに対する対抗策があるバルカを配置するというのはわかる。ゆえに、諸君らに考えを問おう。パラメアへと入ったバルカ軍に対していかに戦い勝利を掴むかをだ」


 昨年の戦いではアーバレスト家はフォンターナ軍に対して敗北を喫してしまった。

 圧倒的多数という戦力差があり、しかも、東のウルク家との共闘という有利な状況で負けてしまったのだ。

 しかも、ただの敗北ではない。

 先代当主様をアルス・フォン・バルカに討ち取られるというあってはならない敗北だった。

 我々はこのことを一年たった今でも一日たりとも忘れたりしない。

 必ずや雪辱を果たすと誓ったのだった。


 そのアルス・フォン・バルカがバルカ軍を率いてもともとアーバレスト領の難攻不落の要塞と言われたパラメアへと入ったという情報がもたらされた。

 現在のパラメアはガーナ・フォン・イクスという騎士によって治められている。

 イクス家は元来アーバレスト領と接する位置にある騎士領だが、前年の戦いによってその範囲を大きく広げた。

 イクス家の統治はうまくいっているようであり、パラメアは完全に奴らの手中に収まっている。

 バルカも重要だが、このイクス家に対してもしっかりと借りを返しておく必要があるだろう。


 現在パラメアにいる軍の規模はバルカ・イクス両軍をあわせて4000ほどだ。

 対してこちらは全軍を出せば再び8000は動かせる。

 いや、相手はあのバルカだ。

 10000という兵を動員してもいいくらいだろう。

 私がそんなふうに考えをめぐらしているときだった。

 ご当主様を始めとしたアーバレスト家の家臣団による話し合いをより深めるために、私が調べ上げたバルカの情報を話すようにと指示が出される。

 いや、どちらかと言うとバルカ軍そのものよりも、アルス・フォン・バルカその人の情報のほうが聞きたいのだろう。

 だから私は話し始めた。

 昨年の戦いのあと、必死に集めたアルス・フォン・バルカの情報についてを。




 ※ ※ ※




 アルス・フォン・バルカ。

 今年で12歳になるという男性で、まだ体は成長中の子どもだ。

 アルスが表舞台に登場したのは数年前にフォンターナ領で起こった動乱だった。

 いわゆる、「バルカの動乱」と呼ばれる農民暴動だった。


 フォンターナ家は長年東のウルク家と西のアーバレスト家に挟まれながらも領地を維持してきた歴史ある貴族家の一つだ。

 だが、以前起こった大戦によってフォンターナ家の血筋は途絶えかけた。

 当時生き残ったカルロス・ド・フォンターナ。

 まだ子どもだったそのカルロスを守り、育て上げた高名な騎士であるレイモンド・フォン・バルバロス。

 氷の守護者と呼ばれたそのレイモンドがある日突然討たれたのだ。


 その張本人こそ、現在アルス・フォン・バルカと呼ばれる当時8歳だった少年だった。

 その話を聞いたときにはほとんどのものが信じられなかった。

 ただの農民の子どもにあの氷の守護者が負けることなどあるのだろうか、と。

 だが、事実だった。

 レイモンドは間違いなく農民の少年に敗北したのだ。


 しかし、この急に起こった大事件に周囲の動きは精彩を欠いた。

 本来なら、フォンターナ家を守っていたレイモンドという大黒柱が倒れた以上、フォンターナ領は消滅するしかなかったのだ。

 だが、違った。

 同じく、まだ少年であるはずの子どもが目覚ましい働きを見せたのだ。


 その人物はカルロス・ド・フォンターナ。

 庇護者であったレイモンドがいなくなった直後には家中をまとめ、レイモンドを討ったばかりの張本人であるアルス・フォン・バルカを自らの懐に入れたのだ。

 そして、そのままカルロスによるフォンターナ領の統治が始まった。

 今までフォンターナ家のすべてを仕切っていたレイモンドがいなくなったにもかかわらず、大きな問題も起こさず、反抗的な態度を取る自領の騎士には毅然とした対応をして領地を安定させたのだ。


 しかも、それだけにはとどまらなかった。

 カルロスとアルスの二人は動き続けた。

 その戦果は多くのものが知っている通りだ。

 連戦連勝という破竹の勢いで勝ち続けている。


 だが、注目すべきはそれだけではないだろう。

 勝利そのものに目が行きがちだが、そうではない。

 もっとも恐るべきところは「常に戦い続けている」というところにある。

 アルス・フォン・バルカが登場し、カルロスが頭角を現してきてからずっと戦い続けているのだ。

 本来、これが何よりも恐ろしい。


 普通は軍を動かすということは大変な出費を強いられるのだ。

 だが、フォンターナでは違う。

 やつらは常に戦闘を繰り返しているにもかかわらず、一切飢えることがないのだ。

 それはなぜか。

 フォンターナを調べ直していた私が最も注目したのはそのことについてだった。


 そして、それはやはりアルス・フォン・バルカが関わっていた。

 やつだ。

 やつの魔法にその秘密があったのだ。

 アルス・フォン・バルカの持つ魔法はアーバレスト家の上位魔法【遠雷】を防ぐこともでき、あるいはごく短期間で拠点を作り上げる能力がある。

 しかし、それ以上に農作物を爆発的に増やすことができたのだ。

 それこそが、今のフォンターナの尋常ならざる動きの根源だったのだ。


 そのことに気がついた私はアルス・フォン・バルカの持つ魔法について調べ上げた。

 だが、その途中で恐るべき秘密を知るに至った。

 どうも、やつは通常の貴族のように魔法を継承して使用しているわけではなかったのだ。

 アルス・フォン・バルカは呪文を使わずに魔法を発動させることができる魔術師であると同時に、自らの魔術を呪文を発するだけでも使用可能にすることができる魔法使いでもあったのだ。

 アルス・フォン・バルカは魔法を創造することができる。

 そして、その数は尋常ではなかったのだ。


 【散弾】や【身体強化】などといった戦闘でも使える魔法に加えて、収穫量を増やすための【整地】や【土壌改良】、そして建築をまたたく間に行なってしまう【壁建築】など。

 その魔法の数は、判明しているだけで15種類にも及ぶのだ。

 さらにそれらに加えてフォンターナ家のもつ攻撃魔法まで使用可能ときている。

 もちろん、フォンターナの上位魔法である【氷精召喚】も使用することができるだろう。

 もっとも、それについては当主であるカルロスよりも大きく劣るという報告もあるが。


 異常。

 その一言に尽きるだろう。

 しかも、やつは自らが生み出した使役獣にも名付けを行い、魔法を使用させることもできる。

 なぜだかわからないが、アルス・フォン・バルカは教会と密接に関係しているようだ。

 普通であれば使役獣に対して魔法を授けることなど教会が認めるとも思えない。

 が、やつは先日聖騎士に任命された。

 教会側はその点を容認しているということなのだろう。


 だが、そんなやつにもつけ入るスキがないわけではない。

 ここまで調べ上げて、私はやつの攻略法に気がついたのだ。

 アーバレスト家がアルス・フォン・バルカの指揮するバルカ軍に勝つための方法を。


「ほう。それはいったいどのような方法だというのだ?」


「はい、ご当主様。それはやつの使用する魔法にあります。アルス・フォン・バルカが得意とするのは豊富な種類の魔法とそれを使用する使役獣の存在がなによりも大きいのです。であるため、それらを戦場にて使わせることがなければ問題ありません」


「……それは確かにそうかもしれんな。だが、具体的にはどういう方法があるというのだ?」


「はい。アルス・フォン・バルカ率いるバルカ軍に勝つには水上戦を行なうのが最も有効であると考えます」


「水上戦? 水の上で戦うということか」


「そうです。陸上ではやつの持つ魔法の【壁建築】などが非常に働いてきてしまいます。さらに、私が調べたところによるとアーバレストが誇る上位魔法【遠雷】を防いだ【アトモスの壁】もそうです。あれらはすべて地面に手を付けることが発動条件なのです」


「なんだと。あの遠雷封じの魔法は地上でなければ使用できないというのか?」


「そうです。アルス・フォン・バルカの【アトモスの壁】は地面に手を接することが発動時に求められます。【散弾】などやフォンターナの【氷槍】についてはその限りではありませんが、【遠雷】による攻撃を防ぐことができるという利点は限りなく大きいのです。水の上であればそれを封じることができます」


「……なるほど。しかも、水上戦ということであれば水の上に浮かぶ船による戦いを意味する。やつの使役獣は使えんことになるのか」


「はい。しかも、今までバルカ軍は水上戦を一切経験していません。水の豊富なアーバレストの兵とバルカの兵では経験が全く違います。水上戦に引き込めば必ず勝てるでしょう」


「……よし、わかった。我がアーバレスト軍をミッドウェイ河川まで下げよう。あそこなら領都を守る防衛線としても機能する上に、船を用いた水上戦を行なうにも適している。必ずや、憎きバルカ軍共々アルス・フォン・バルカを水の底に沈めてみせよう。聞いたな者ども、すぐに準備に取り掛かれ」


「「「「「はっ」」」」」


 私の言葉を受けて、ご当主様が決断なされた。

 アーバレストにとって最も危険な相手。

 その相手を完膚無きまで叩きのめす。

 そのためにも、相手を水上戦に誘い込む必要がある。

 それもわたしの仕事だろう。

 奴らにアーバレスト攻撃の進行ルートを限定させ、陸地ではなくミッドウェイという大きな河を渡らせる。

 そのためには、河にかかったミッドウェイ大橋すらも壊すことを考えておく必要があるだろう。


 こうして、我らアーバレスト軍は水上要塞パラメアから出てきたバルカ軍を誘い出し、水上戦を仕掛けることとなったのだった。

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