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魔物退治

「アルス様、バイト様、目的地の鉱山が見えてきました。あちらです」


「結構山奥なんだな。鉱山から取れた鉄を運びやすいように考えて道を作る必要があるか。山に慣れたやつにほかにどんな道があるのか確認しないといけないな」


「気が早いんじゃないか、アルス。まずは魔物を倒してからだぞ」


「そうだったな、バイト兄。あんまり先のことを今から考えても油断につながるだけだな。注意するよ」


「おう、気をつけろよ。で、魔物についてだがちゃんと説明は聞いてたんだろうな?」


「もちろん。でも、バイト兄が俺に声をかけてくるってことは強い魔物だとばかり思ってたんだけどな。強さが問題じゃなかったんだな」


「そうだ。強さでいえば大したことはない。バルト家の騎士でも勝てる。が、面倒だったから後回しにしていたんだよ。他にもすることがあったしな」


「そうだろうな。これは厄介だ。まさか、相手が人型の魔物だとは思わなかったよ」


「ああ、今回、鉱山の坑道に住み着いたのは犬人だ。体は大きくても1mほどしか身長はないが、二足歩行して歩く犬のような魔物だ。奴らの厄介なところは連携を取るってところにある」


「二足歩行する犬のような特徴のある人型の魔物で、手で槍や弓を扱って集団行動をする、か。狭く暗い坑道内で武器を持って近づいてくる犬人。どう考えても危険だな」


「坑道内に落ちている石や鉄を加工して武器にするらしいからな。しかも、暗いところでも相手ははっきりと目が見えるようだし、鼻も利く。こっちが【照明】の明かりを出しているとそこを狙われるから手が出しにくいんだよ」


 バイト兄を始めとするバルト騎士家の人間と一緒に鉄が取れる鉱山へと向かって進んでいた。

 そして、ようやくその近くまでやってきた。

 そこで、改めて鉱山に住み着いたという魔物について、バイト兄の話を聞く。


 どうやら、鉱山に住み着いたのは強い魔物が一体というわけではなかったらしい。

 その反対で、一体ずつはそこまで強いわけではないが相手にするには厄介な犬人という魔物が群れで住み着いてしまったのだという。


 犬人という魔物、それはファンタジーの物語に出てくるコボルトのような存在らしい。

 小さな体に黒などの暗い体毛をはやした犬のような顔をした二足歩行の生き物。

 そんな犬人が鉱山に住み着いたのだという。


 暗い中で持ち前の嗅覚などを駆使して襲いくる存在は厄介だったが、さらに対処を難しくしているのは犬人の持つ魔法だという。

 その魔法は俺の魔法に少し似ていた。

 犬人はその小さな手で握れる大きさであれば鉄などの形を変えることができる魔法を持っているのだという。

 つまり、鉱山に住み着いた犬人は鉄などを拾って手に握りしめて槍や弓矢の材料にすることが可能なのだ。


 ちなみに食べるのは鉱山の外に住んでいるヤギなどの動物らしい。

 鉱山で武器を作り上げ、その外に狩りにでかけていって、獲物を持ち帰り食べる。

 しかも、それは群れで行うのだという。

 なんとも社会性の高い魔物がいたものだと思ってしまった。


「ま、仕方ないか。なんとか鉱山が使えるようにしないといけないしな。やるだけやってみるか」


 こうして、俺は鉱山に住み着いた犬人退治を開始したのだった。




 ※ ※ ※




「よーし、さっそく坑道に入ろうか、アルス。犬人は坑道の奥の方にある少し広まったところに居着いているらしい。けど、最後に確認したのがそうだっただけで、それから生息範囲を広げているかもしれないからな。しっかりと確認しながら進むぞ」


「え? 坑道の中に入るつもりなのか、バイト兄?」


「当たり前だろ。何言ってんだよ、アルス。お前はここに魔物退治に来たんじゃないのか? まさか、怖気づいたのか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……。俺が聞いた話だと、犬人はこの坑道内に住み着いてはいるけど、食料は外のヤギとかなんだろ? てことは、向こうから出てくるんじゃないのか?」


「そりゃそうだけど、いつ出てくるかもわからないんだ。ずっと待つよりも、こっちから倒しに行ったほうがいいだろ」


「倒しに行くって言ったってさ、どうするつもりなんだよ、バイト兄。まさか、この狭い坑道内で武器を振り回して戦うつもりなのか?」


「……武器が振れないなら魔法で戦えばいいだろ」


「けど、相手は暗い中を襲ってくるんだろ? 被害が出るかもしれないじゃん」


「がー、何が言いたいんだよ、お前は。結局、中に入る気はないってことじゃねえのかよ」


「そうだよ。中に入る気はない。それよりも、もうちょっと安全策をとろうよ、バイト兄」


「なんだよ、安全策って。犬人どもが出てくるのを待って倒そうってことじゃないのか?」


「いや、それよりももっと安全にいこう。毒を使おう」


「……は? 毒だと?」


「そうだよ、バイト兄。俺達が近くのヤギを狩ってきて、その死体をこの鉱山の坑道出入り口近くに置いておく。毒をヤギの肉に注入してね。するとどうなると思う?」


「……犬人たちは狩った獲物をその場では食べない。住処に持ち帰って群れ全体で共有して食べる」


「そうだ。誰が調べた情報かしらないけど、それが正しい情報ならこの方法で犬人の群れは壊滅する。ここに来るまでの山の中にいくつか使えそうな毒草があったからそれを使えばいい。ね、簡単でしょ?」


「……お前、発想が最悪だな。聖騎士の名が泣くぞ」


「合理的と言ってほしいな。じゃ、とりあえずこの方法でやってみようよ、バイト兄。いくつかの毒を試して、無理なら毒を含んだ煙を坑道に送り込むのでもいいし。ちゃちゃっと犬人を駆除しちまおう」


「お前、絶対いい死に方しないぞ、アルス。けどまあ、わかった。その方法でやってみるか」


 どうやら、俺の説明に納得してくれたらしいバイト兄。

 さっそく俺の考えた通り、周囲の山でヤギを狩り、その肉に毒を注ぎ犬人が坑道内の住処に持ち帰るように仕向けた。

 二足歩行し、武器まで作って連携して襲ってくるという犬人。

 もしかしたら、この毒餌作戦に気がついてヤギの死体を持って帰らないかもしれないとも考えていた。

 だが、そんなことはなかった。

 どうも、そこまで頭が良くなかったようだ。


 こうして、数日に渡って毒入り肉を食べた犬人の群れは、毒にやられて死に絶えた。

 が、その死体が坑道内でいくつもあるという状態になり、そちらの処理に手間取ってしまうという失敗に俺が気がつくのは、さらにその後数日が必要だったのだった。

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