製鉄
「ペイン、ちょっといいか?」
「アルス様、どうされたのですか?」
「いや、ちょっとペインに聞きたいことがあってな。けどその前に、バルカニアでの仕事はもう慣れてきたか?」
「……そうですね。少しずつという感じでしょうか。ここでの仕事はウルクのときとはかなり違いますので、戸惑っている部分も大きいですが」
「まあ、そうかもしれないな。けど、ペインが内政仕事もできるやつで助かったよ。うちは文官仕事できるやつがもっとほしかったからな」
「ここバルカでは文官と武官が分かれていることが多いのですね。普通は領地の仕事をこなしながら有事は戦場で戦うので両方できるようにしなければいけないのですが」
「まあ、うちは特殊だろうな。慢性的な人手不足で、女性でもやる気があれば働いてもらっているし」
「それも驚きました。カイル様を始めとしたリード家は女性にも魔法を授けているのですね。変わったやり方だとは思いますが、いいのではないかと思います」
「そうか。それを聞いたらみんな喜ぶだろうな」
「それで、私に聞きたいことというのはなんでしょうか、アルス様。私にわかることであればなんでも聞いてください」
「ああ、そうだった。実は鉄について聞きたかったんだけど、旧ウルク領でも鉄が取れる山があるんだよな?」
「はい。今回バルカ領として切り取った領地内に鉱山があります。鉄が必要なのですか?」
「そうだな。バルカは今まで鉄を安定して入手する手段がなかったからな。手に入るならほしいと思っている」
「ですが、バルカは硬化レンガがあるのでは? あれはそこらの金属に負けない硬さがあるでしょう?」
「たしかにそうなんだけど、硬化レンガは加工しにくいからな。鉄だともっといろんなことに使えるだろう?」
「確かにそうですね。バルカの魔法で硬化レンガを出すことができても、それを加工するなら鉄のほうが優秀であると言えます」
「そういうことだ。で、問題はここからなんだよ。お前は製鉄について詳しいか? この鉄の剣を見てどう思う?」
「この剣ですか? 少し拝見させていただきます。……これは、少し変わった模様がついた鉄なのですね。見たことがありません。しかし、これは……、もしかしてかなりの業物なのでは?」
「そうだろ? 実はこの鉄の剣は特殊な方法で製鉄してできた剣なんだけど、普通の剣なら相手が鉄でも刃こぼれせずに打ち勝つことができるんだよ」
「それはすごいですね。なるほど。製鉄方法が特殊だということは、鉄自体は特殊ではないということ。つまり、これは鉄鉱石さえあれば量産できるということですか」
「さすがに察しがいいな。そういうことだ。バルカは新しい産業として製鉄をやろうかと思う。そのために旧ウルク領の鉱山での鉄の採掘量をきっちりと把握したい。調べてくれるか、ペイン」
「わかりました。お任せください、アルス様」
ウルク攻略戦でバルカに加入したペイン。
そのペインにはバルカでいろいろな仕事をしてもらっていた。
どうやら、かなり優秀でなんでもできるタイプの人間だったようで、内政面などでも仕事を割り振っていた。
そのペインに俺は鉄の剣を見せながら話をしていた。
ペインに見せたのはごく一般的ななんの代わり映えもしない鉄から作った剣だった。
だが、それを見てペインはひと目で業物であると見抜いた。
そして、それは間違いない。
魔法剣のような特殊な能力こそないが、既存の金属剣を遥かに超える切れ味を持っているのだから。
実はこれもグランが作った武器の一つだ。
グランが新たに作り上げた炎高炉という超高温を出すことができる炉で鉄を鍛えたのだ。
今までの通常炉では出せなかった温度を出すことができるという利点はなにも炎鉱石を鍛えるときだけのメリットではなかった。
それは製鉄するときも同様だったのだ。
つまり、この業物の剣は炎高炉という今までになかった炉を使うことによって作り出すことに成功した剣だった。
その剣の表面はツルッと鏡のように光りつつ、なんとなくまだらな模様が入っている。
あまり知らないが、ダマスカス鋼みたいな感じなのだ。
ようするに今までの剣を「鉄の剣」としたら、今回グランが作ったのは「鋼の剣」とでも言えるのではないだろうか。
今まで気にしてはいたができていなかったことがある。
それはバルカ軍の装備の充実だった。
普通の軍は必要時に貴族や騎士が領地に住む領民に対して声をかけて動員し軍を構成する。
そのため、騎士などはいい装備を持っているが、動員された農民などは自前の武器を持参していたのだ。
武器を持っている者であればいいが、満足な得物がないものであれば農具などを武器として持っていくこともある。
そのため、軍といってもみんな持っている武器がバラバラだったのだ。
その点についてバルカ軍は少し違っていた。
必要時に人を集めるのではなく、常備軍としており常に一定数の兵を確保していた。
そして、その兵に対して一応武器も用意していたのだ。
だが、その武器も決していいものばかりではなかった。
できればもっといい武器がほしい。
そう思っていたのだ。
今までにない鋼の剣が作れるようになったというのはちょうどいい機会なのかもしれない。
幻の鉱石と呼ばれた炎鉱石を惜しげもなく大量に使って作り上げた炎高炉をさらに活用することもできる。
こうして、バルカは新たに鋼を作り出す製鉄事業を開始することにしたのだった。
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