開発
「カルロス様、お呼びですか?」
「よく来たな、アルス。単刀直入に言おう。聖騎士になった貴様に各方面から有象無象が近づいてくる可能性が高い。余計な問題に発展する前にしばらくフォンターナの街から離れておけ」
「すごいざっくりとした命令ですね、カルロス様。やっぱり、私が聖騎士に認定されたのってあまり良くなかったですか?」
「いや、それは構わん。というよりも、聖騎士への認定を断れば教会といらぬ対立を生むことになる。断ることなどできなかったのだろう?」
「そうですね。まあ、断る間もなく大司教様から認定されていたのでどうしようもなかったのは確かです。それで、私はバルカニアに帰っていればいいということですか?」
「そうだな。貴様は第二・第三の不死者が現れないかどうかを監視するためバルカニアに戻ることを許可する。領地に戻って森でも眺めておとなしくしていろ。いいな?」
「わかりました。北の森をしっかりと見張って聖騎士としての務めを果たそうと思います」
よかった。
カルロスに呼び出されて何事かと思ったが、自由にしていてもいいという許しを得られた。
それなら遠慮すること無く帰ることにしよう。
俺としてもいろいろと状況が変わったので整理する時間が欲しかったのだ。
こうして、俺はバルカ騎士領へと再び戻っていったのだった。
※ ※ ※
「斬鉄剣、あらため聖剣グランバルカ、か……。出世魚みたいに名前が変わっていくな、こいつ」
「なにを言っているのでござるか、アルス殿。教会による清めの儀式によって成長段階に影響が与えられる可能性があるということは非常に面白い情報でござる。これは今後の武器作りに大きく影響を与える可能性があるのでござるよ」
「……なんか、グランは斬鉄剣が聖剣に変わったことに対してそこまで驚いてない感じだよな? なんでだ?」
「ふむ、そうでござるな。あえていえば、斬鉄剣から聖剣に変わったことによる変化があまりなかったからではないかと思うのでござるよ。聖剣になる前でもこの剣は不死者に通用したのでござろう?」
「まあ、そうだな。聖剣っていうのは不死者の魔力で腐食しにくい剣ってことらしいから、攻撃力とかにはそこまで変化がないらしいしな」
「ある意味で斬鉄剣は完成した魔法剣でござったからな。極限なまでに折れにくく、そして切れやすい。聖剣に変わったと言ったところでグランバルカの価値はそこから大きく離れていないのでござるよ」
「で、そんなグランバルカを超える魔法剣を作りたい、ってことだよな。どうだ、グラン。不死者の竜の骨は使えそうか?」
「問題ないのでござる。拙者、まさかこのような素材を得て、自分で扱うことができるとは夢にも思っていなかったでござるよ。竜の骨というのは古来より非常に貴重な武器防具の素材として知られているのでござるよ、アルス殿。だが、それを扱える経験を持つ職人は歴史上にも限られているのでござる。これはまさに僥倖であると言えるのでござるよ」
「そうか。まあ、俺が命がけで手に入れてきた素材だからな。無駄にはしないでくれよ。できればタナトス用にも武器を作ってやってくれ。この竜の骨を手に入れたのはあいつの手助けもあったからな」
「わかっているでござる。拙者に任せているでござるよ、アルス殿」
フォンターナの街でカルロスから暇を出された俺はさっそくバルカニアに舞い戻ってきていた。
そして、そこでグランと一緒に不死骨竜の素材を使ってなにか作れないかと考えることにしたのだ。
だが、グランにはいくつか考えていることがあるという。
というのも、竜の骨というのは非常にレアな素材ではあるが、今までそれを用いて武器作りが行われたという記録そのものは残っているのだそうだ。
グランもいくつか実際に竜の骨が用いられて作られたという武器の製法を知っているらしい。
それらの情報を吟味しながら、今回の不死骨竜の素材がどう活かせるかを考えたいということだった。
そこで、俺はグランとは別のことに着手することにした。
骨や牙などはグランへとわたして、俺は残った不死骨竜の素材に手をかける。
それは、不死骨竜の頭蓋骨の中にあった魔石だった。
タナトスが切ったために真っ二つになってしまったが、まだその魔石には確かに魔力が残っていた。
それこそ、竜の骨を魔力だけで動かしていたほどの濃く、大量の魔力が残存しているのだ。
そんな魔力に満ちた黒く輝く魔石を手のひらに乗せる。
半分になったというのに結構大きい。
もとがバスケットボールほどの大きさだった半円球の魔力が詰まった石。
そこに俺は自分の魔力を流し込んだ。
魔力を魔石に注ぎ込む、のが目的ではない。
どちらかと言うと、俺の魔力を使って魔石というものを解析してみようと思ったのだ。
これは言ってみれば昔やった宿屋の構造を魔力を使って調べる方法と似ている。
あのときは、宿屋に使われているレンガを魔力を使って把握し、そして、魔法によって宿屋を再現してみせた。
それと同じことを俺は行ったのだ。
手に乗せた魔石に対して俺の魔力を薄く均等に染み渡らせて、それが行き渡ったところで【記憶保存】と呪文を唱えた。
すると、俺の魔力が魔石の構造を把握した。
そして、一度手に乗せていた魔石を机の上に置く。
今はなにも持っていない状態。
その状態で俺は再び手のひらを上にし、【記憶保存】で脳が記憶した魔石の構造を思い出しながら、魔法を発動させた。
イメージとしては、初めて硬化レンガを魔法で作ったときの感覚だ。
それまでは普通のレンガしか知らず、想像もできなかったが、大猪の牙などを使用し硬化レンガを作り出した。
そして、その実物のある硬化レンガを記憶して魔法で同じものを量産することに成功した。
それと同じことを、今まで知らなかった魔石という存在で試してみたのだ。
「……やればできるもんだな」
そして、その実験はあっけなく成功した。
手のひらに乗せた魔石と同じ、しかし、魔力が少なかったのか元の黒ではなく薄い青色の魔石が俺の手のひらに現れたのだった。
こうして、俺は魔力が籠もった石である魔石を量産する術を身につけたのだった。
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