予想外2
昔、いや、これは前世の記憶か。
前世で子どもだった頃、近所で捨て犬を拾ったことがあった。
本当に生まれて間もない子犬だったのだろう。
小さな体が薄汚れ、あばらが浮き出るほど痩せた状態でプルプルと体を震わせている犬に出会ったのだ。
俺はとにかくその子を助けたいという一心で家に子犬を連れ帰った。
家に着けばその子が助かるとなんの疑いも持っていなかったのだ。
だが、親は恐ろしく冷静だった。
「誰が面倒見るの? あんたできるの? 責任持って育てられないでしょ?」
この言葉を聞いたとき、俺は実の親が血も涙もない鬼かと思った。
絶対に自分がちゃんと面倒を見るから、とひたすらごねて、なんとか子犬を育てることを認めさせたものだ。
だが、今思い返すとあのときの親の言葉は正しかったのだろう。
生き物の面倒を見るということは大変なことだ。
あの頃は自分が餌やりなどをやっていたことで、俺は面倒を見ていた気分になっていた。
だが、今からすると餌の購入費用から、犬を飼うための備品、予防接種や病気の時の代金などすべて俺ではなく親が支払っていたのだ。
そのことを俺は今、身をもって知ることになっていた。
※ ※ ※
「さすがに数が増えると食べる量もすごいな……」
行商人から使役獣の卵を譲り受け、それを繁殖させる事業に取り掛かった俺。
まず、その第一段階は無事にクリアした。
5つあった卵はすべて孵化したのだ。
ちなみに俺とヴァルキリーが別々に魔力注入を行うことになったのだが、結局なんの問題もなかった。
というのも、ヴァルキリーが孵化させた卵からもヴァルキリーそっくりの子どもが生まれてきたからだ。
ただ、若干体の大きさが俺の育てた卵から生まれた個体よりも小さいかもしれない。
が、2本のトナカイのような角と筋肉質な肉体、そして美しい白毛という特徴は一緒だ。
別の人間が育てたら別種の生態になる、という使役獣の特性はどうなったんだろうか。
微妙に頭を悩ませる事態になったが、まあいいだろう。
それよりも問題が発生しているからだ。
問題点とはつまり使役獣の食料についてだった。
合計6頭が毎日ご飯を食べる、というのは並大抵のことではない。
いくら俺が育てるハツカがすぐに育つと言っても、数に限りがあるのだ。
一応備蓄していた分があるのでまだ大丈夫だが、この調子では確実に底を尽く。
「こうなったら森を開拓するしかねえか。畑を増やすしかない。いくぞ、お前ら」
「「「「「「キュー!」」」」」」
減り続けるハツカを見て、俺は決断した。
森のなかに作った隠れ家の周りに非常食感覚で食べられるようにと作った畑ではどう考えても足りない。
今後も使役獣ビジネスを続けていくのであれば、畑の拡張は必須事項だろう。
俺がガバっと立ち上がりながら、ヴァルキリーたちに檄を飛ばす。
そして、それに応えるようにみんなが声を合わせて鳴いたのだった。
※ ※ ※
「いやいやいや、ちょっとまって。おかしいだろ」
森のなかでの畑の拡張。
通常であればものすごく手間のかかることだが、俺には実績がある。
森に生えた木の根元の土を柔らかくして、根っこごと木を倒してしまう。
そうしてから、その倒木を移動させ、今度は【整地】と【土壌改良】を行えば見事畑の出来上がりだ。
もちろん、前回やったこの手法を今回も使う気でいた。
だが、その作業を始めてすぐに俺はありえないものを見てしまったのだ。
それは魔法だった。
なんと使役獣たちが魔法を使用したのだ。
「なんでお前ら魔法が使えるんだよ。名前もつけてないってのに」
そう、俺が驚いているのは魔法を使ったのがヴァルキリーではなかったということだ。
生まれてまだ数日しかたっていない成長途中のヴァルキリージュニアたちが普通に魔法を使っているのだ。
しかも、そのラインナップはヴァルキリーと同じく生活魔法プラス俺のオリジナル魔法だ。
これはいったいどういうことだろうか?
魔法とは名付けした瞬間に覚えるものではないのか?
もしかして、使役獣は人間とは別の法則があるのだろうか?
全くわけがわからない。
だが、観察してみたところ、どうやらすべての個体が同じように魔法を使えるようだった。
俺が魔力を与えて孵化させた卵から生まれたやつも、ヴァルキリーが育てたやつも、魔法に関しては違いがないようだ。
ということは、今後使役獣の卵から生まれてくるコイツらの種族はみんな同じように魔法を使えるということになるのだろうか?
これはいったいどうしたものだろうか。
とりあえずは、当面は行商人には売らずにもう少し数を増やして様子を見るしかないかもしれない。
もし、今後生まれてくる子達が全て魔法を使えるとわかったら、そのとき考えることにしよう。
俺は不測の事態に直面し、思考を放棄して畑の拡張に取り掛かったのだった。
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