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共闘

「精霊さんたち、お願い。あいつの動きを止めて!」


 地面から剣山のように突き出て不死骨竜の体を拘束していた氷の槍。

 それを不死骨竜は砕き、拘束から逃れて再び俺へと向かってきた。

 こうなったらイチかバチかで相手の動きを止めて斬鉄剣で攻撃しようか。

 あるいは、一撃に集中して氷槍で不死骨竜の頭蓋骨にある魔石を狙うか。

 迫りくる骨の化物に対して俺が思考を巡らせていたときだった。


 俺と不死骨竜以外のものの声が森のなかに響く。

 まだ幼い子どもの声だ。

 だが、その声は決して力のないものではなかった。

 しっかりと魔力を込めて魔法を発動した声だったのだから。


 俺の耳にその声が聞こえた次の瞬間、森に変化が現れる。

 俺が凍らせていた木々の枝や根が大きく動いたのだ。

 周囲にある無数の木が不死骨竜へと向かって伸びていく。

 しかも、不死骨竜の骨に絡みついたかと思うと、ぐるぐると枝や根を伸ばしていったのだ。

 一本一本ではおそらくたいした拘束力も持たなかっただろう。

 だが、幾重にも重なって絡みつく植物によって、俺に向かって走っていた不死骨竜の体が停止した。


 すごい。

 俺も氷精の力を借りて一時的にやつの体を拘束したが、すぐにそこから逃れられてしまった。

 だが、今度ばかりはそうもいかないようだった。

 何重にもなって絡みつき、ついにはまゆのように不死骨竜の体をぐるぐる巻きにしてしまったのだ。

 先程まで拘束を解こうともがいていた手足や尻尾の骨までもがだんだんと動きを止めていく。


「……駄目だ。腐っていってる……」


 だが、その拘束がずっと続くことはなかった。

 それは不死骨竜の特性によるもの。

 すなわち不死者として、その特異な魔力によってやつの体を拘束している植物が段々と腐っていくからだった。

 まゆのように丸くかたまった植物が内部から腐っていく。

 拘束している場所で地面に植物が腐って液状になり広がっていく。

 かなり臭い。


「お願い。頑張って、精霊さん」


 だが、植物の拘束が即座に解けることはなかった。

 どうやら腐って拘束が解かれる前に新たな植物が絡みついていくからだ。

 が、それもいつかは限界を迎えるだろう。

 そうなったら俺も終わりだ。

 ならば、やることはひとつだ。

 この植物を操っている者と協力し不死骨竜を倒す。

 それしかない。


「タナトス! こっちに来い!!」


 覚悟を決めた俺が叫ぶ。

 呼びつけるのは巨人化するという規格外の力を持つアトモスの戦士タナトス。

 俺と一緒に不死骨竜と逃げている最中にはぐれてしまった人物の名だった。


「おう!」


 そのタナトスが俺の声に反応して駆け寄ってくる。

 どうやらこいつは俺とはぐれたあと、そのまま逃げるという選択肢を取らなかったようだ。

 俺が不死骨竜に狙われ追いかけられているのを更に追いかけて追跡してきてくれた。

 だからこそ、ここに現れることができたのだ。


「斬鉄剣を使え、タナトス。これでやつの頭にある魔石を狙え」


 そのタナトスに俺が斬鉄剣グランバルカを手渡す。

 俺のもとに駆け寄ったタナトスは一瞬ぎょっとした表情をしていた。

 俺の体を見たからだろう。

 不死骨竜の魔力によって変色した体を見て驚く。

 だが、すぐに俺から斬鉄剣を受け取り、拘束された不死骨竜へと顔を向ける。


「カイル、そのまま拘束を続けろ」


 そして、俺はこの場にいるもうひとりに声を掛ける。

 俺のもとへと駆けつけてくれたのはタナトスだけではなかった。

 それはそうだ。

 タナトスには植物を操って不死骨竜を拘束する力などない。

 では、それは誰がしているのか。


 それは、俺の弟のカイルだった。

 姿が見えなくてもわかる。

 カイルの声がさっきから聞こえていたのだから。

 だが、いったいどうしてカイルが植物を操っているのかは皆目見当もつかなかった。


「うん、わかったよ、アルス兄さん」


 しかし、カイルが俺の声を聞いて返事をしてくれた。

 やはり間違いではなかった。

 この植物を操り、絶体絶命のところで俺を救ってくれたのはカイルだったのだ。

 もしかして、タナトスと森のなかで合流し、俺のもとへと来てくれたのだろうか。

 こんな森の中で助けてくれる人がいるというだけで心まで救われた気がした。


「氷精、なんとかしろ!」


 そして、俺はカイルの返事を聞いて新たな言葉を放った。

 カイルでもなく、タナトスでもない、この場にいる存在に対して。

 俺が召喚した氷の精霊たちに対してだった。

 氷精に対して無茶振りのような命令。

 しかし、それに氷精は応えてくれた。


 【氷精召喚】をしてから更に数が増え続けた氷精たち。

 その数が増えるほどに更に周囲は氷に包まれていた。

 そして、それは森の木々も同様だ。

 木が凍り、しかしそこに変化が現れた。

 木から氷のツルが生えてきて、そこから花を咲かせたのだ。

 それはまるでバラのようだった。

 凍りついた木々に氷でできたバラの花にも似た氷華が咲いたのだ。


「精霊さん、精霊さん。あの綺麗な氷の植物であいつの動きを止めて」


 そして、それをみたカイルが告げる。

 氷精が咲かせた氷のはなで不死骨竜を拘束せよと。

 どんどんと腐っていく植物の拘束が緩み、新たに氷華による拘束が不死骨竜に行われた。

 なんとも不思議な光景だった。

 キラキラと光る氷でできた植物によって骨だけの竜が巻き取られ動きを止める。

 そして、今度ばかりは不死骨竜も脱出する術がなかった。

 いくら魔力を注ごうとも氷の華は腐ることがなかったからだ。


 そんな動きを止め、身動きひとつできなくなった不死骨竜にタナトスが走り寄って斬鉄剣を振り下ろした。

 俺が叩き割った頭蓋骨から見えている黒く輝く魔石に向かって狙い違わず刃が吸い込まれる。


 ドゴン、という音がして拘束された不死骨竜の体から、骨の頭だけが地面へと叩きつけられた。

 そして、その頭蓋骨の中にはぱっくりと割られた黒の魔石が転がっている。

 その魔石がコトリと頭蓋骨から外へと転がり落ちた。

 次の瞬間、それまで骨だけで形作られていた不死骨竜の体が、操り糸が切れてしまったかのようにバラバラと地面へと崩れ落ちていった。

 こうして、周囲を腐らせながらこちらを襲ってきた不死骨竜は完全に沈黙したのだった。

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