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氷精召喚

 斬鉄剣を杖代わりにしながらなんとか立ち上がる。

 足にうまく力が入らないのかプルプルと震えている。

 まるで生まれたての子鹿のようだ。

 口からはゴボッと音をたてながら血が食道を通って溢れてきている。

 なんとか口にたまった血を地面へと吐き捨てて呼吸できるようにする。


 そんな満身創痍な状態の俺の視界に不死骨竜の姿があった。

 俺が相打ちという形で攻撃した不死骨竜。

 だが、見た感じは俺ほど大ダメージというわけではなかったようだ。

 頭の骨が真ん中で縦にスパッと切れて割れている。

 そして、その奥には黒く輝く不思議な物質が見えていた。


 やはり、あれが不死骨竜の体を動かしている原動力なのだろうか。

 頭の骨が割れているというのに動きそのものには全く影響がなさそうだった。

 だが、頭を切られたこと自体は気にしているようだった。

 なんというか、骨だけなのに目が血走っているような印象を受ける。

 頭をたたっ斬られたことで怒り狂い、さっきまでも十分高かった殺意をより高めて俺を見ているような感じなのだ。

 鋭い牙が幾本もある口をガチガチと音をたてながら鳴らし、体の後ろにある尻尾の骨でバンバンと地面を叩いている。


「氷精召喚」


 そんな不死骨竜の姿を見ながら俺は呪文を唱えた。

 もはや腕も満足に動かせない状況でやつに対抗するためには魔法の力が必要だからだ。

 だが、俺の持つ今までの魔法ではやつの体に傷一つつけられないだろう。

 だから俺は新たに習得した魔法を使用した。


 【氷精召喚】。

 ウルク領を攻め落とし、バイト兄にその地を治める騎士たちに忠誠を誓わせて従えさせた。

 そして、その騎士たちの魔力がバイト兄を通して俺に流れ込み、俺の魔力量は上昇した。

 その結果、俺は位階が上昇したのだった。


 位階の上昇。

 それはつまり、新たな魔法を手に入れたということを意味する。

 フォンターナ家が持つ【氷槍】という攻撃魔法の更に上位に位置する魔法。

 それがこの【氷精召喚】だった。


 呪文を唱えた瞬間、俺の体から大量の魔力が消費され魔法が発動した。

 そして、目の前に現れた氷精と呼ばれる存在。

 その名の通り、氷の精霊だ。

 どうもよくわからないが、この世界には精霊と呼ばれる存在がいるようで、フォンターナ家はこの精霊を呼び出すことができる魔法を生み出していたのだ。

 他の貴族と同じように通常の騎士では敵わない当主級の魔法。

 だが、このフォンターナの上位魔法は他の貴族の上位魔法とは少し違っていた。


 ウルク家の上位魔法【黒焔】やアーバレスト家の上位魔法【遠雷】。

 そのどちらもが驚異的な強さを発揮する恐るべき魔法だった。

 そんな魔法があれば他のやつはむやみに貴族に逆らわずに従うだろうと思う強さを秘めていた。

 だが、フォンターナ家の上位魔法【氷精召喚】はそうではなかった。

 強さの判断が難しい魔法だったのだ。


 俺が使う【氷精召喚】とフォンターナ家当主のカルロスが使う【氷精召喚】は同じ魔法ではあるものの別物だったのだ。

 簡単に言ってしまうとカルロスが使うと【氷精召喚】は無類の強さを発揮するが、俺が使うと弱い。

 それはなぜか。

 どうやら召喚する氷精というのは呼び出す人によって千差万別で異なるからだ。

 カルロスが呼び出す氷精は強い精霊だが、俺は一番弱い氷精しか呼び出せなかったのだ。


 だが、この不死骨竜に対抗するために俺は氷精を呼び出した。

 俺が呪文を唱えた瞬間、宙にピョコンと青白い光の玉が出現する。

 最も原始的な意思を持たない氷の精霊。

 カルロスの召喚する氷精と比べるとあまりにも貧弱な精霊が現れた。

 しかし、そんな最弱の氷精が次から次へと増えていく。


 俺が呼び出すことのできる精霊は弱い。

 が、数だけは多かった。

 青白い光を放つこぶし大の大きさの氷精が次々に現れて俺の周りで漂っている。


「凍れ」


 その氷精の数が二十を超えたのを見て、俺が一声発する。

 すると、俺が立っている地点を中心に周囲が凍り始めた。

 地面も、草も、木も凍っていき、その範囲を広げていく。

 そして、その氷の世界は範囲を広げ続けて不死骨竜のいる場所も凍らせていく。


「カカカカカカカカン」


 周囲が凍る様子を見て驚いたのか、あるいは全く気にしていないのか。

 不死骨竜が何度も歯を打ち鳴らしてから、こちらへ向かって移動を開始した。

 頭を割られたことなど気にしていないのか、再び口を大きく開けながらこちらへと突っ込んでくる。

 その攻撃はシンプルながらも防ぐことは難しい。

 なにせ俺は今、斬鉄剣を使って迎撃するどころか体を動かして回避することもままならないのだから。


「氷槍」


 だが、体を動かせないことなど百も承知だ。

 だからこそ、魔法で迎撃する。

 が、俺が今使った【氷槍】はそれまでの【氷槍】とは違った。

 普通ならば右手を伸ばし、その手のひらから腕の長さと太さほどの氷柱を飛ばすのが【氷槍】という魔法だ。

 しかし、今の俺は両手で斬鉄剣を握りしめて杖のようにしながら立ったままだった。

 右手は動かしてはいない。


 だというのに、氷の攻撃は不死骨竜に命中した。

 それも相手の不意をつくという形でだ。


 俺が放った【氷槍】は地面から出現していた。

 俺に向かって走ってきている最中の不死骨竜の動きを読み切り、ちょうど真下の位置から上に伸びるように氷の槍が伸びていた。

 しかも、それは一本だけではない。

 複数の氷の槍が剣山のように上に伸び上がり、不死骨竜の体を串刺しにしている。

 猛スピードで走ってきていたにもかかわらず、不死骨竜はその動きを止められていたのだ。


 これこそが俺の召喚した氷精たちの力だ。

 一体ずつはさほど力もなく攻撃能力もない最下級の氷の精霊。

 だが、俺はこの氷精を複数召喚することができた。

 そして、その氷精によって周囲を凍らせることで、その範囲内であれば手元以外からでも氷の魔法を発動させることができるのだ。

 魔力を大量に使うというデメリットや、【遠雷】などのように超遠距離に対しての攻撃もできず、【黒焔】のように一度攻撃に成功すれば確殺できるというほどの凶悪性はないかもしれない。

 が、使い方によっては応用が利き、汎用性がある【氷精召喚】。

 それこそが俺の新しい魔法だった。


「くそ、駄目か」


 だが、その上位魔法を以ってしても不死骨竜の動きを止めただけに過ぎなかった。

 あれが骨だけの不死者でなければ間違いなく死んでいただろう。

 しかし、氷の槍が串刺しに刺しているように見えて実際は骨と骨の間を通って不死骨竜の動きを止めただけだったのだ。

 致命傷どころか、満足にダメージを与えられていない。


 なんとか、頭蓋骨の隙間を狙って骨に守られた魔石を狙おうと何度も【氷槍】を発動して攻撃を繰り返す。

 が、それを簡単に許すほど不死骨竜は甘くはなかった。

 骨の体を器用に動かして氷の攻撃が魔石に届かないようにガードしているのだ。

 さらに、尻尾を勢いよく振り回すことで拘束のための地面から生えた氷の槍すら砕いてしまう。


 身動きを封じていた氷の槍が砕け散り、再び自由を取り戻した不死骨竜。

 カカカッと不死骨竜が笑ったような気がした。

 その直後、また不死骨竜が俺を噛み殺そうと動き始める。


 駄目だ。

 いくら上位魔法といえども【氷精召喚】だけではやつには勝てない。

 こうなったらダメ元で動きを止めた瞬間に斬鉄剣で斬りかかってみるしかないか。

 まともに体が動くかはわからないが、現状で唯一相手に傷を与えられているのは斬鉄剣のみだ。


 グッと歯を噛み締めて覚悟を決める。

 その時だった。

 俺と不死骨竜の戦いに割って入るものがこの場に現れたのだ。

 そして、そのものもまた精霊を使役する力を持っていたのだった。

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