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不死者

「カカカカカカカカン!」


 森の中を木々をなぎ倒しながらこちらへと接近するなにか。

 それが俺達の視界に入り込むほどに近づいてきた。

 そして、それを見て背中にゾクッとする寒気を感じ、冷や汗が流れる。

 なんだあれは。

 あんなものがこの世界にはいるのか。


 俺が目にしたのはこちらへと向かってくる骨だった。

 生き物ではありえない。

 なぜなら、そいつには皮膚も筋肉もない、骨だけの体をしていたからだ。

 だが、骨だけでありながらも動いている。

 複雑な構造をした関節を持ちながらも、なぜか筋肉などもないのにもかかわらずバラバラになることもなく、木に当たっても木をへし折りながら進んでくるのだ。


『あれは……不死者か。こんなところで出くわすとは……』


『不死者? タナトス、なにか知っているのか?』


『ああ、知っている。強力な魔力を持つものが死後なんらかの妄執に取り憑かれて現世をさまようことがあるらしい。俺も話には聞いたことがあるだけで、見たことは初めてだ』


『まんまアンデッドってことかよ。ていうか、あの骨はもしかして……、生前は竜だったりするのかな?』


『多分な』


 骨だけの怪物。

 その姿が生前どんなものだったのかははっきりとわからない。

 おそらく俺はそいつが生きていたころの姿を実際に見たことはないだろう。

 だが、それは竜だったのではないかと思ってしまう。


 骨の頭に当たるところは口が大きく前に突き出るようになっており、鋭い牙が健在だ。

 そして、その頭から背骨が伸びていて、最終的にはしっぽのようになっているように見える。

 頭の骨から尻尾の先までは見た感じ7~8m位あるのではないだろうか。

 さらに背骨からは肋骨があるが、今はその肋骨の内部には呼吸するための肺や内臓などは見当たらない。

 また、肋骨だけではなく手足の骨も背骨から出ているのだが、二足歩行ではなく前足、後ろ足を地面につく四足歩行のようだ。

 それだけを見るとトカゲのようなのだが、トカゲとは決定的に違っているものがあった。

 背中から翼の骨が伸びているのだ。


 生きていればその翼で空でも飛んでいたのだろうか。

 だが、皮膚もないということは翼膜もないということで、翼の骨が動いていても空を飛びそうな感じはなかった。

 総評として、翼の生えた大きな爬虫類型の骨の化物が俺達の目の前にいるということになる。

 そして、それはお伽噺に出てくる竜の存在であるようにしか思えなかった。


『タナトス、竜と戦った経験は?』


『ない』


『……強いのかな?』


『それはそうだろう。それよりも気をつけろ、アルス。不死者には近づくな』


『近づくな? なんでだ?』


『不死者の魔力は穢れている。それは生きているものに害を与える。見ろ、やつの足元を』


『げ……、なんだありゃ。木や草が腐っているのか?』


 竜の骨の化物、仮に名付ければ不死骨竜とでもしようか。

 その不死骨竜が俺とタナトスのもとに近づき、なぜか動きを止めた。

 もしかするとこちらのことを探っているのかもしれない。

 骨しかないのに俺達の場所を目指してきたり、観察したりしているようだが知能があるのだろうか。


 そんなふうに動きを止めた不死骨竜の足元には異変が起きていた。

 地面にあった草や木の根、あるいは不死骨竜の近くにある木が不自然に腐り始めていたのだ。

 やつの気持ちの悪い黒い魔力が影響しているのだろうか?

 魔力に長く触れたところから少しずつ腐っていっている。

 不死者というだけあって、生きとし生けるものに害を与える存在だとでも言うのだろうか。


 竜がいるというのは使役獣の中に騎竜がいると知った時に聞いていた。

 だが、こんなアンデッドモンスターがいるとは思わなかった。

 なんだかんだで、割と人間が生存圏を勝ち取っていて、人間同士で争っている世の中なのでゾンビや幽霊なんてものはいないだろうと思ってしまっていた。

 だが、いるのか。

 こんな摩訶不思議な化物がこの世界には。

 というより、こんなやつが森から出てバルカにやってきたら大変なことになるのではないだろうか。

 大丈夫なんだろうか。


『アルス、逃げるぞ』


『逃げる? 戦わないのか、タナトス』


『不死者と戦ってどうする。お前も死に魅入られるぞ』


『……まあ、確かにあえて戦う必要はないのか。よし、逃げよう』


 不死骨竜とにらみ合う格好になった俺達。

 その状況下で俺はてっきり不死骨竜と戦うものだと思っていた。

 だが、タナトスは逃げを選択した。

 どうやらまともに相手にすることはないと判断したのだろう。


 それは間違いないと思う。

 が、逆に言うと、俺達では不死骨竜には敵わないという意味でもあった。

 俺とタナトスは不死骨竜の動きを両の目でしっかりと観察しながら、少しずつ後退していったのだった。




 ※ ※ ※




 くそがっ!

 逃げるんじゃなかった。

 というか逃げられるかどうかわからなかったのだ。

 そして、案の定俺は逃げに失敗してしまった。


 不死骨竜が木々をへし折りながら俺を追撃してくる。

 メキメキと音をたてて木が折り倒される音を聞きながら、俺は森の中を全力疾走していた。

 顔や体に木の枝が当たるもの気にせずに走り続ける。

 どうやら移動速度そのものは俺のほうが速いらしい。

 骨だけではそこまでスピードがでないのか、あるいは生前から空を飛ぶのが主で走るのは苦手だったのかはわからない。

 が、なんとか逃げ続けることはできている。


 しかし、それも時間の問題かもしれない。

 どうやら、骨だけで構成されている不死骨竜は速度はないものの、体力の消耗というのもなかったようなのだ。

 いつまでも追いかけ続けてくる。

 このままではいずれは俺が走れなくなり、追いつかれるのではないだろうか。


 どうしてこうなった。

 ちょっと遊びたくなって気球を作っただけなのに。

 こんな森の中に来てしまい、カイルは見失い、逃げている間にタナトスともはぐれてしまって、何故か今俺だけが追いかけられている。

 というか、なんでこいつは俺を執拗に追いかけてくるんだ。

 途中で鬼や大猪の姿が見えたときもあったのに、俺だけを追いかけてくる。


 駄目だ。

 どうやっても逃げられない。

 こうなったら腹をくくるしかない。


「毒無効化」


 俺はひとつの呪文をつぶやく。

 自分で作ったオリジナル魔法の【毒無効化】だ。

 これが不死骨竜の腐食の魔力にどれだけ抵抗できるかは定かではない。

 が、ものが腐っていくなかでやつと戦うなら毒に対する抵抗くらい必要だろう。


 そう思って、俺は毒にだけは対処を行ってから体を方向転換した。

 今も後方から俺に向かって走ってくる不死骨竜。

 そいつに向かって右手に握る俺の最強武器の斬鉄剣グランバルカで切りつけたのだった。

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