遭遇
「くそっ。やられた。カイル、返事をしろ!」
『やめろ、アルス。無駄に大声を出すな』
『なんだと、タナトス。カイルがいなくなったんだぞ。探さなきゃなんねえだろうが』
『落ち着け。お前らしくないぞ。カイルはまだ小さいが男だ。自分の身は自分で守るさ』
『ふざけてんじゃねえぞ。カイルは戦った経験なんてないんだ。それにいつまた木が襲ってくるかわかんねえんだぞ。はやく探さないと』
『落ち着け、アルス。もしこの森が本当に俺達を殺そうとしてきているなら動きを止めたりしない。今、森が静かになったのは目的を叶えたからだ』
『……なんだそりゃ? 森の木が襲ってきたのはカイルをひとりにするためだった、とかいうのか、タナトス?』
『そうだ。そもそも、最初から相手はカイルだけに声をかけて呼び寄せていたんだろう? カイルだけに来てほしかったんじゃないか?』
『確かにそうだけど……、誰がそんなことするんだよ? この森のなかに誰がいるってんだよ』
『さあな。そんなことは俺にはわからない』
先程まで執拗に俺とタナトスを攻撃してきていた森の木々が動きを止めた。
そのときにはカイルの姿はなかった。
カイルは自分の意思でどこかを目指して走っていったようだが、それが正常な判断によるものなのかは疑わしい。
なにせ、俺達には聞こえもしない声に導かれての行動なのだから。
だからこそ、俺はすぐにカイルを探そうと大きな声を出して叫んでいた。
が、それを冷静にたしなめる存在が身近にいた。
タナトスだ。
タナトスは木が動きを止めたのをみると、すぐに巨人の姿から通常サイズへと戻って俺に声をかけてきたのだ。
頭に血が上ってしまっている俺にたいしてどこまでも冷静に落ち着けといってくれる。
それを聞いて少しむきになって怒鳴りつけてしまったが、それでも冷静に対応してくれたおかげで多少は落ち着きを取り戻すことができた。
そこで大きく深呼吸して、息を整えながら頭を整理する。
タナトスが指摘した言葉の意味について自分の頭で考えてみることにしたのだ。
この森にはなにか正体不明のものがいる。
そして、そいつはカイルへと声をかけ続けていた。
俺達には聞こえもしない声で、ずっと「こっちへ来い」といい続けていたのだ。
そうして、そこへと向かっている途中で俺とタナトスは足止めされ、カイルだけが声の主のもとへと向かうことになった。
なるほど。
言われてみれば、その正体不明の声が望んだ通り、カイルだけが森の奥へと進んだことになる。
だが、それがわかったところでどうだというのだろうか。
そいつがカイルに対してなにをしようというのかが全くわからない。
木の根の養分にされでもしたら、俺はこの森をすべて灰にしてやりたくなってしまうだろう。
「ん? なんだ?」
そんなことを考えているとき、ふいに何かの気配がした。
といっても、害意のあるものではない。
どこから見られているのかわからない視線などとは違い、今までにも何度も感じたことがある気配を感じたのだ。
「すごいな、お前。こんなところまで追いかけてきてくれたのか」
その気配の主が俺のもとへとやってきて、肩に止まる。
それは鳥だった。
だが、普通の鳥でもなければ、この森だけに住む化物のような鳥でもない。
それは俺がよく知るビリーによって配合されて生み出されたバルカ産の飛行型使役獣だった。
肩に止まった鳥型の使役獣の足元に植物紙が巻きつけられていた。
それを外して読む。
どうやら、遭難した俺達のもとへとグランが手紙を出してくれたようだ。
今どこにいるのか、と問いただす内容が紙に書かれている。
「よくやった、グラン。これでカイルが追跡できるな」
しかし、俺はその手紙を受け取っても返事を出す気にはならなかった。
というよりも、それよりも先にすべきことがあったからだ。
それはカイルの追跡である。
森の中を進んでいってしまったカイルを追いかけるのは、カイルを見失ってしまった現状では非常に難しい。
が、この使役獣がいればそれが可能となる。
この使役獣は匂いをもとに、その匂いの主を探して飛んでいくことができるのだ。
そして、カイルは俺が預けた九尾剣を手にしている。
カイルの匂いと俺の匂いがついた九尾剣をこの使役獣に追尾させればカイルのいる場所がわかるだろう。
そう考えた俺は使役獣にカイルのいる方向を教えるように命令した。
すると、俺の肩の上でバサバサと羽をはばたかせてから、ゆっくりと俺達の歩む速度にあわせてカイルが走っていった方向へと向かって飛んだのだった。
※ ※ ※
『アルス、なにか来るぞ』
『なに? 今度はなんだよ。例の視線の主か?』
『……違う。気配がある。もっと別のなにかだ。嫌な感じがする』
『本当だ……。向こうの方から音が聞こえる。おい、タナトス。どんどん近づいてくるぞ』
『まずい。こっちを狙ってるぞ、アルス』
使役獣に先導されてカイルがいるであろう方向へと向かっている途中。
急にタナトスが立ち止まって警告を発した。
なにかが来る。
そんな気配を察知したタナトスから俺も少し遅れてその気配を感じ取った。
遠方に何やら禍々しい感じのする気配を感じ取ったのだ。
それがこちらへ向かってきている。
しかも、ものすごく大きな音をたてながらだ。
次から次になんなんだよ、この森は。
そう思っている俺のもとへとそいつはやってきた。
体中から禍々しいほどの漆黒の魔力を纏った怪物。
それが俺達の前へと現れたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





