気球
グランと一緒に気球作りをはじめた。
まずは最初に簡単な気球の構造や仕組みをグランへと話す。
ものすごく簡単に言ってしまえば、袋状の布のなかの空気を高温で温めて浮力を発生させて浮かせるということになる。
そのためには高温を発生する装置が必要になるがそれに炎鉱石を用いる。
そして、布の部分だがなるべく熱に強く破れにくい丈夫なものを用意することにした。
そのために使用するのはヤギの毛ではなく、別の生き物の毛を使用することに決めた。
それはヴァルキリーの毛だ。
ヴァルキリーは高温のお湯に入ってもへっちゃらな不思議な動物なのだが、その毛もかなりの耐火性があるようなのだ。
実は以前試しにヴァルキリーの抜け毛で生地を作ってみたことがあったのだ。
真っ白なヴァルキリーの毛を用いた生地はそれはそれはキレイなものだった。
おそらくヤギの毛を選別して作った最上級品よりもさらに上質だったのだ。
だが、このヴァルキリーの毛を使った生地はお蔵入りにした。
というか、ヴァルキリーの毛を使って作ったことがあることを知る者はごくわずかしかない。
というのも、ヤギはすぐに毛が伸びたがヴァルキリーはそうはいかなかったからだ。
調子に乗ってヴァルキリーの毛を刈り取ればさすがにヴァルキリーといえども冬を越せないのではないかと心配になったのだ。
なので、最初に試して以降、ヴァルキリーの毛を使うことは禁止したのだ。
だが、その時作った生地は残っていた。
それを今回の気球作りに活用したのだ。
燃えにくく、軽い、しかも丈夫な生地。
それを気球の布として使い、その下に人が乗ることができるバスケット部分を取り付けた。
バスケット部分の真ん中にはグランが加工した炎鉱石が取り付けられている。
ここに魔力を注ぐと炎が出て、気球を空へと浮かべるはずだ。
「よし、完成だな。早速、試乗してみようか」
「……拙者は怖いでござる。アルス殿だけで乗ってほしいのでござる」
「なんでだよ。もしもの時の技術者が必要だろ。それに実際に使用してみての感触を確かめることも大切だろうが」
「そんなことを言ってアルス殿は乗らないつもりなのでござるな。拙者は嫌でござるよ。とてもこれで空を飛べるとは思えないのでござる。きっと飛んでもすぐに墜落するのでござるよ」
「大丈夫だって。俺を信じろよ、グラン」
「嫌でござる。拙者にはとてもできないでござるよ。アルス殿、空を飛びたいといったのはアルス殿ではござらんか。ならばアルス殿自身が試してみるのが一番でござる」
「いや、俺が乗ること自体は別にいいんだけど、ひとりは心細いっていうかな。誰か他に一緒に乗ってほしいっていうか……」
「わかったでござる。ならば拙者がアルス殿と一緒に空に飛び立つものを連れてくるでござるよ。待っているでござる」
グランと二人で完成させた気球。
だが、その気球にグランは乗りたくないとか言い出した。
なんて薄情なやつだと思わなくもない。
が、確かに何かあったらと思う気持ちもわからなくない。
本当にこれはちゃんと飛ぶのだろうか。
そうだ、忘れていた。
万が一のためにパラシュートなんかもつくっておかないといけないだろう。
グランがいなくなったあとになって俺がそんなことを考えているときだった。
どうやらグランが戻ってきたようだ。
そのグランが連れてきたのは二人。
それも俺がよく知る連中だった。
「どうしたの、アルス兄さん。グランさんが泣きついてきたんだけど……」
「カイルか。いや、グランと一緒に作ったこれで空を飛ぼうって言ってんのにビビりまくってるんだよ。どうだ、カイルは俺と一緒に気球に乗ってみないか?」
「うーん、確かに怖そうだよね。大丈夫なの?」
「多分な。それを証明するためにも試乗してみないといけないんだよ」
「そっか。わかった。アルス兄さんと一緒ならボクは乗ってもいいよ」
「お、さすがだな、カイル。よし、カイルは一緒に乗るとして……、お前は一緒に来るか、タナトス?」
「ああ、いいぞ、アルス」
「よし。そうこなくっちゃな。じゃあ、三人で乗るか。グラン、俺達が気球に乗って空を飛んでいるところをしっかりと見ておけよ。絶対あとからはじめての試乗に自分も乗っていればよかったって言わせてやるからな」
「わかったでござるよ、アルス殿。拙者、しっかりと地上から気球を観察しておくでござる。それも試運転の確認には必要なことでござるからな」
「ま、そういうことにしておいてやるか。よーし、じゃあ出発だ。ふたりともバスケットに乗り込め」
俺の言葉を合図にカイルとタナトスがバスケットに乗り、最後に俺が入り込む。
そして、俺がバスケットの中央部分へと手を付けて、「魔力注入」と唱えた。
それにより、魔力に反応した炎鉱石が上部へと炎を出現させる。
そして、その炎によって気球内部の空気が温められて膨張し、気球の布が風船のように膨らんでいった。
炎を出し続ける炎鉱石。
そして、ついにその時が来た。
一瞬フラッとしたかと思うと、その後徐々に気球が持ち上がったのだ。
ゆっくり、ゆっくりと俺達の乗るバスケットが浮き上がり、地表から離れていく。
やった。
成功だ。
「おい、見ろよ、カイル。浮いたぞ。ちゃんと飛んでるぞ」
「うん、本当だね、アルス兄さん。へー、本当にこんな仕組みで浮くんだね」
「まだまだ、これからだぞ、カイル。もっと高く上がるはずだ。バルカニアを真上から見ることができるんだからな」
どんどんと高度を上げていく気球。
なにげに俺にとっても初めての気球体験でもある。
かなり興奮してしまった。
そして、俺は調子に乗って高く高く気球を上昇させていったのだった。
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