報告
「貴様は奴隷狩りかなにかか、アルス?」
「え? 何を言っているんですか、カルロス様。私は奴隷制度は嫌いですよ。奴隷狩りなんてするわけないではありませんか」
「ほう、では切り取った旧ウルク領から大量の人を連れ帰ってきたのは奴隷ではないということか。てっきり人をさらってきたのかと思ったぞ」
「そんなことするわけないじゃないですか、カルロス様。新しくバルカ軍に入隊した者たちを連れ帰って訓練させているだけですよ。数年ほど軍人として働いてもらうだけです」
「……よくそんな条件を騎士たちが受け入れたな。普通は自領の民を持っていかれることなど到底見過ごせないものだがな」
「いやー、さすがに反対意見もありましたよ。畑仕事をする若い男手を取られるのは困るって言うじゃないですか。最初からそういう条件で降伏を認めたっていうのにこっちが困るって話ですよ」
「……当然だろう。で、それについてはどう対処したのだ?」
「いや、最初なんで人数の帳尻さえ合えば年齢は厳しく問わないことにするってことで手を打ちました。まあ、けどなんとかなりましたよ。知ってましたか、カルロス様。意外とバルカ軍って人気あるみたいなんですよ。実際には自分から入隊したいって連中でほとんどの枠が埋まったんで、強制して連れてきたやつはいないんですよ」
「まあ、そうかもしれんな。貴様のバルカ軍は負け知らずではあるし、なにより兵の被害が少ないと評判のようだ。衣食住の手配もするとあれば、入りたがるものも多かろう。入ったあとどう思うかは知らんがな」
「一応これでバルカが動かせる軍の数は4000ほどになりました。と言っても、バルト家はまだ旧ウルク領の統治が盤石ではないので半数ほどは動かせませんが」
「バイトが抜けた穴はきちんと埋まるのか? なんだかんだで、貴様はあの兄に軍の指揮を任せていたようだが?」
「そうですね。バルガスあたりに頑張ってもらうことになると思います。あとはウルクで加入したペインってやつもそのうち使おうかと思います。老将ミリアムの孫とかっていうのは旧ウルク領の領民たちの士気を上げるのにも役立ちますしね」
「気をつけて使えよ。ハロルド・ウォン・キシリアのようにはなるなとしっかりと言い聞かせておけ」
「そういえば死んだんでしたっけ、ハロルド殿は。ウルク家も断絶したと聞いていますが、確かなのですか、カルロス様」
「ああ、ピーチャたちがそのへんはしっかりと確認している。ウルク家に生き残りはいない。キシリア家を含めて、ウルク領を攻めた4つの軍でウルク領は切り取られたことになるな。……先に言っておくが、むやみに領地争いなどを引き起こすなよ、アルス。ウルク領は安定させる必要がある」
「わかっていますよ、カルロス様。けど、カルロス様も気をつけてくださいよ。キシリア家をついだワグナーはフォンターナに名を授かったとはいえ恨む気持ちもあるでしょうし。ワグナー本人はもとより、周りの騎士たちには自分たちの負けは受け入れがたいものでしょうしね」
「もちろん、わかっているさ。ワグナーにはせいぜい働いてもらおう。ご苦労だった、下がっていいぞ」
ウルク領の攻略が終わってフォンターナの街に帰ってきた俺はカルロスと面会した。
今回の戦いでウルクは正式に滅亡したことになる。
ウルクの領都を攻略したアインラッド軍とビルマ軍が生き残っていたウルク家を根絶やしにしたというのだ。
なんとも恐ろしい話だがそうしないと必ず問題が起こることになる。
ウルクの継承権を引き継いだものがいればそいつを起点としてウルク家が再興することも十分考えられるからだ。
だが、書庫を漁ったあとにアーム騎士領へと直行した俺はそのことを知らなかった。
そんなことになる前に、ひとりぐらいは狐耳の美少女とかを見てみたかった気もする。
そんなひとがいるかどうかは知らないが。
そして、ウルク領の土地はキシリア家とバルカ家、そしてアインラッド家とビルマ家という4つの家が手に入れることになった。
ちなみにピーチャは新しくアインラッド家という家を立てる許可をえられたらしい。
もともとあったキシリア家が旧ウルク領の4割ほどで、山側のほうがバルカで3割ほどを切り取り、アインラッド家とビルマ家が残りを分け合ったことになるらしい。
一応旧ウルク領が安定するまではバルカもアインラッドもビルマもワグナー率いるキシリア家を見張ることにもなるだろう。
そうそう動くことはできないはずだ。
と、いうことで俺は早速カルロスへの報告を済ませてやりたいことをすることにした。
俺は自分の領地であるバルカ騎士領にあるバルカニアへ行き、グランと一緒に新たな研究を行うことにしたのだった。
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