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領地運営の方針

「なあ、アルス。本当にいいのか?」


「なんのことだよ、バイト兄。いいのかってどういうこと?」


「領地だよ、バルト騎士家の領地だ。いくらなんでも広すぎるんじゃねえのか? もともとあったバルカ騎士領よりもかなり広いだろ。こんなに広い土地を俺がもらってもいいのかって言ってんだよ」


「うーん、実を言うと俺も広すぎだとは思うんだよな。けど、まあ、最初に言ったとおりバイト兄が自分で土地をとったんだしまあいいだろ。遠慮なくもらっとけよ、バイト兄」


「そりゃもらえるもんはもらうけどな。でも、俺は領地の運営なんてしたことないからな。ちゃんとできるかな?」


「珍しく弱気だな、バイト兄。そうだな……、とりあえず最低限すべきことだけをやるっていうのを徹底してればいいよ。あんまり俺みたいにいろんなもんを作って金を稼ごうなんて考えないほうが無難に運営できると思う」


「最低限ってなにやりゃいいんだ?」


「よし、これを見てくれ、バイト兄。俺が騎士たちに送った手紙の内容だ。ここに降伏してバルカの下につくなら許すって書いているだろ。この中に条件もきちんと書いてあるんだよ」


 今まで軍を動かすことばかりの仕事をしていたバイト兄。

 だが、急に大きな領地を任される身になったことで、さすがに不安に思ったようだ。

 そりゃまあそうか、と思う。

 誰だってやったこともないことには不安がつきものだろう。


 だから俺はバイト兄へと説明をはじめた。

 領地を運営するうえで押さえておくべきポイントを手紙に書かれた内容をもとに話し始めたのだ。


 実はバイト兄にしてほしい仕事というのはそう複雑なものでもない。

 基本的には領民に畑を耕させて、その収穫を税として納めさせること。

 このことを守らせるために、様々なトラブルに対処するのが基本だ。

 だが、もともといた騎士がバルカに降伏した際にはその騎士の領地はそのまま引き継ぐ許可を与えてある。

 そういうところに対しては、騎士が自分の騎士領の住民に麦を税として納めさせ、その分からバイト兄のバルト家へと上納することになる。

 そうして、バイト兄が集めた税を更に俺がいるバルカ家へと再度上納する。

 これが領地の運営の流れだった。


 だが、降伏した騎士領に対してはそれだけではなくいくつかの条件をのむように言ってある。

 例えば、フォンターナ領の一部でも実施している通行税の撤廃などだ。

 普通は自分たちの領地に入る、あるいは出るものを関所で管理し、必要なものには通行税などを取り立てることになる。

 だが、それがあると少しの距離を進むだけでも税金がかかってしまい、結果商品の価格が高くなってしまうというデメリットもある。

 いずれはバルト騎士領も道路網を整備して人の流れを良くしようと考えているのに、そんな状態では困る。

 だからこそ、俺はそんな通行税を廃止するようにすでに言いつけてあったのだ。


 このように、もともといた在来の騎士に対していくつか出した条件があるが、それを守らせることも必要である。

 おそらくは、最初はしばらくの間、こちらの命令を無視して今までどおりのやり方を行おうとすることもあるかもしれない。

 だが、それらには厳しく指導していかなければならない。

 そして、そう従わせるためにはバルト騎士家に力が必要だった。

 だからこそ、俺は自分が参加せず、バイト兄にウルク領の切り取りを命じたのだった。


「でも、そんなんでいいのか? お前はいろいろと商品をつくって稼いでるんだろ? 俺もそうしたほうがいいんじゃないのか。できるかはわかんねえけど」


「やれるならやったほうがいいけど、できる範囲でいいと思うよ。とにかく最初は農地を広げて収穫量を上げることが大切だしね。ぶっちゃけて言えば、バルカの魔法を使って農地改良していればそれだけで領地運営はうまくいくはずだし」


「農地改良か。それなら任せろよ、アルス。今までフォンターナでも派遣されてやってきたからな。慣れた仕事だぜ」


「そうだね、バイト兄。あのときの派遣仕事で頭脳労働してくれていた人は大切にしろよ。頭のいいヤツってのは貴重だからな。領地運営には必須だぞ」


「そうだな。それならいっそカイルにこっちに来てもらうのもいいかもな」


「駄目だ。それだけは駄目だぞ、バイト兄。カイルは俺にも必要なんだからな。しょうがない。バルカニアでカイルに鍛えられたリード家のやつを後で送ることにするよ。うまく使ってくれ」


「ちっ、うまく流されてくれるかと思ったけど駄目だったか。カイルがいれば百人力だったんだけどな。まあ、文官がいるんならなんとかなるか。けどさ、アルス。いくらなんでも農地改良だけだと駄目だろ。やっぱなんか金になるものを作りたいんだけど」


「……ならバイト兄にはヤギの飼育を頑張ってほしいな。旧ウルク領の山にはヤギがたくさんいるんだ。騎竜の餌として食べさせるくらいにはな。ヤギを飼って糸を作ればいいと思うよ。この辺もだいぶ寒いし、生地はいくらあってもたりないくらいだろ」


「なるほど、そういえばヤギがいたんだっけか。でもいいのか、アルス。バルト家が生地をたくさん作ったら、お前のところで儲けがなくなるかもよ」


「まあ、そうなったら俺は数じゃなくて質で対抗するよ。リリーナの選別をくぐり抜けた最高級の生地を作って高級品として売り出すから問題ないかな」


「よっしゃ、とにかく農地改良とヤギから毛をとるのをやればいいんだな、アルス。それがうまくいって金を稼げたら他にもいろいろ試してみるぜ」


「おう、その意気だ、バイト兄。頑張ってくれ」


「……ん? ちょっと待て、アルス。これはなんだよ。お前こんな条件つけてたのか?」


「なんだよ、急に。話がまとまったと思ったところでさ。……えーと、これか。ああ、そうだよ。降伏した騎士にはこの条件を飲ませた。って言っても、降伏せずにバイト兄が攻め落として切り取った領地にも適用するけどな」


「お前、バルト騎士領全体にこれをやるのか? 本気かよ、アルス?」


「もちろんだよ、バイト兄。ああ、もちろん、バイト兄がこれに反対するのも許さないからな。これは領地を預けるための絶対条件だからよろしく」


 俺との話に一段落ついたと思ったあとにバイト兄が気がついた領地運営のための条件の一項目。

 その内容をみてさすがにバイト兄も驚いていたようだ。

 もっとも、これを見逃すようなら領地の運営なんて任せられないってくらいの内容だが。


 その内容とは、バルカ領に住む住民に対して課せられる義務の明記だった。

 特定の年齢の男児に対して数年間だけ義務付けられる内容。

 それはバルカ軍への強制参加だった。


 こうして、バルカは旧ウルク領の三分の一ほどの領地を切り取り、そこに住む若い男の子を軍属へと引きずり込むことになったのだ。

 これにより、バルカ軍は徴兵制を導入した領民軍として新たに歩み始めることになったのだった。

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