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九尾と金属

「そうですな。まずはどこからお話すればよいかの。狐谷のことをお話する前にアルス様に確認じゃ。狐谷に行きたいというのは九尾剣が関係しておるのですかな?」


「そうだ、ジタン。九尾剣の材料となった金属は九尾が住んでいたという狐谷にある、と俺はにらんでいる。だからこそ、こうしてこのアーム騎士家までやってきたんだ」


「ふむ、九尾剣の材料ですか。じゃが、アルス様のその考えは正しくもあり少し違います。九尾剣の材料となる鉱石は狐谷から採掘したものではありませんのじゃ。九尾の狐という、今は絶滅してしまった魔物を倒して手に入れたものなのです」


「え? だけど、こちらの調べでは九尾剣の素材には生物由来のものはないって結論だったんだけど。本当に九尾を倒して、その素材から九尾剣を作ったのか、ジタン?」


「そうです。と言ってもわしも九尾の狐という実物を見たわけではないのじゃが、アーム家に伝わる話ではまず間違いなく九尾剣は九尾を倒して作ったと伝わっておるのです、アルス様」


「……ちょっと待って。よくわからん。もしかして、九尾の狐っていうのは九尾剣の材料となる金属鉱石でも作り出せる魔法かなにかを持ってたとか、そういう話だったりするのか?」


「いえ、それも違うのですじゃ。九尾の狐はそのような魔法は持っていなかったようです。ですが、その体内から特殊な金属を得られたそうなのです」


「狐の体内から金属が?」


「そうです。順を追って話していきましょうかの。九尾剣と狐と狐谷の関係について」


 アーム家の当主である老騎士ジタンが語り始める。

 かつてこの地にいた九尾の狐と呼ばれる魔物。

 その魔物を倒して九尾剣という魔法剣が作り出され、そしてそれは今もウルク家に伝わり、俺も所有している剣についての秘密を。




 ※ ※ ※




 かつてこの地にいた九尾の狐。

 生息地の狐谷を始めとして、近くの山々で大昔はよく見かけたという。

 しかし、この狐はなかなかに曲者だった。

 普通の狐ではなく、魔法を使ったのだという。

 炎を吐くという魔法を持ち、別名炎狐などとも言われていたらしい。


 そんな危険な狐がうろつくということになれば人々の生活にも影響を与える。

 そのため、山に現れる九尾を退治することになった。

 だが、魔法を使う危険な相手である。

 当然、その狐退治には騎士が投入されたという。


 もしかしたらウルク家の魔法のルーツはこの九尾に関わっているのかもしれない。

 【狐化】や【朧火】などといった狐と炎に関する魔法を使うのは無関係であるとはとても言えないだろう。

 そうして、長い年月、騎士と狐の戦いがこの山々のなかで繰り広げられていた。


 だが、どの段階でかはわからないが、ある時騎士の一人が九尾の狐の体内から金属が取れるということを発見したそうだ。

 この金属が変わった性質を持っていた。

 なんと、魔力を注ぐと炎を生み出すという特性を持っていたのだ。

 狐の体内から取れるこの特殊な金属。

 しかし、一匹から取ることができるのはそこまで多くなく、少量だった。

 だが、なにせ駆除する必要があるくらい九尾の数が多かったこともある。

 いつしか、退治した九尾からその特殊な金属を取り出し、集めていくと一抱えもある量へとたまっていたという。


 そして、それこそが九尾剣の素材となった金属だった。

 魔力を注げば炎を現出する金属を魔法剣として作り上げたのだ。

 しかもかなり強い。

 人を消し炭にできるほどの出力の炎の剣は防御が非常に困難だったのだ。

 この事実をしってウルク中が沸いた。

 強力な魔法剣を作り出すことができる、と。


 だが、その後の研究でこの特殊な金属は九尾の体内から取れるものの、九尾自身が作り出しているものではないということが判明したのだ。

 おそらくは、なんらかの手段で九尾の狐を捕獲し、飼育でもしたのではないかと思う。

 だが、飼育した狐からは次々とその金属が取り出せる、などということはなかったのだ。


 なぜだろうか。

 当時からいろいろと調べた結果、わかったことがあった。

 それは狐谷から離れたところにいる、似たような狐は炎の魔法も使わず、特殊金属も取れなかった。

 狐谷を住処にしている九尾という生き物だけからしか、その金属が得られなかったのだ。

 そこから、金属の秘密は狐谷にあると考えられた。


 そこまでわかれば、次にどのような行動に移るかははっきりしている。

 さらに九尾剣を作り上げるために欲をかいた人間が次々と狐谷に押しかけたのだ。

 だが、そのものたちは帰ってくることがなかった。

 狐谷に向かった人はすべて生きて帰ってこなかったのだ。


 もともと、九尾という危険な魔物がいるであろう狐谷に向かう人というのは一般人ではなく、騎士ばかりだった。

 だが、その騎士が次々と狐谷に向かっては消息不明になる。

 しかし、狐谷に向かう人はあとを絶たなかった。

 なぜならば、だんだんと付近の山に現れる九尾の数が減っていったからだ。


 強力な魔法剣を作りたいが、その材料を得られる九尾が年々数を減らし続け、しかし、まだいるだろうと思われる狐谷に向かえば生きては帰れない。

 これにはさすがにウルク家側も騎士の自己責任とだけで終わらせるわけにもいかなかった。

 もしかすると、ボスとなる強力な九尾などがいるのかもしれない。

 何というけしからんことだ。

 貴重な鉱石を得るための邪魔をするようなものがウルク領にはいるのではないか。

 そんなことは許してはならない。

 ウルク領を治めるウルク家の人間が出陣してでも、狐谷にあると言われる不思議な鉱石を確保せねばならない。

 そう考えたウルク家はなんと当主級までもを投入して狐谷の探索へと向かったのだった。


 結論からいうと、狐谷に向かった騎士を帰らぬものにしていたのは九尾などではなかったらしい。

 なぜならば狐谷に入った面々はなにかに襲われることもなく、急に倒れてしまったのだから。

 だが、運良く倒れそうになっても帰還できたものがいた。

 それこそ、狐谷探索をウルク家から命じられて意気揚々とアーム騎士領にまでやってきた当主級そのひとだったという。

 当主級の騎士は他の騎士たちが次々と倒れていくところを見ながら、それでもなんとか地面をはって撤退してきた。

 だが、狐谷の外で待機して帰りを待っていた者たちのところまでなんとか戻ってきたもののそこで息を引き取ったという。

 最期の言葉として「毒だ……」という言葉を残して。


 つまり、狐谷に向かったものは何らかの毒によって命を絶たれていたのだ。

 その後、何度も探索を行ったウルク家によって出された調査結果によると、狐谷は生き物の接近を阻む毒に侵された土地だという。

 空気中に散布されている危険な毒。

 それこそが、狐谷が生きては帰ることのできない場所である原因だった。


 だが、どうやら九尾は違ったようだ。

 なぜかはわからないが九尾はこの狐谷に自由に入り、自由に出てくることができた。

 はっきりとした理由は不明だが、九尾はこの毒に侵されることなく動くことができたのだ。

 そして、問題となっていた九尾剣の素材となっていた特殊金属についてはほぼ間違いなく狐谷にあるものだと考えられた。

 これは確保し飼育していた九尾が金属を食べたという報告があったからだ。

 九尾は金属を食べる。

 そして、狐谷に生息する九尾だけが炎の魔法を使い、九尾の狐の体内から取れる金属には魔力を注ぐと炎を出す特性がある。


 長い年月の研究により、狐谷に生息する九尾は狐谷にある特殊な金属を食べて体内に取り込むことができると結論付けられた。

 すなわち、狐谷には九尾が食べることができるような地表部分にその金属があると考えられる。

 しかし、狐谷は九尾以外は入ることすらできない猛毒によって守られている。

 つまりは、九尾剣の材料を手に入れるためには九尾の体内から取り出すしかない、となったのだ。


 だが、残念なことにそれがわかったときにはすべてがおそすぎた。

 九尾を狩り尽くしてしまっていたのだ。

 それ以後、アーム騎士領で九尾の姿が確認されたことはないというくらい、徹底的に狩り尽くされてしまっており、以降九尾剣を新たに作ることはできなくなってしまったという。


 そして、時は現在に戻ってくる。

 今ではもうウルク領でもアーム騎士家でしか九尾のことは語られず、狐谷のことはウルク領内で殆ど知られなくなってしまっており、九尾剣の製法すら失われてしまったのだ。


 だからこそ、ジタンは言う。

 狐谷には行くな、と。




 ※ ※ ※




「なるほどな。特定の生き物を絶滅するまで狩り殺すってのはどこの世界でも人間っていうのは業が深いね」


「これでわかったはずです、アルス様。狐谷に行くのはやめるべきじゃ。いくらアルス様が連戦連勝の戦上手であると言えども人の手には余る。あそこは近づくものに死を与える土地なのじゃよ」


「そうか、よくわかったよ、ジタン。ま、そんだけ事情を知っているってことは当然狐谷の場所もわかってるんだろ? どこにあるんだ?」


「それはわかりますが……、もしかして今までの話を聞いておらなんだか、アルス様。わしは狐谷には行ってはならんと言っておるのだぞ」


「いや、ちゃんと聞いてたよ、ジタン。だからこそ行くんだよ。狐谷の場所もその特徴もよく理解した。だからこそ、行くって言ってるんだ」


「なんと愚かな。人はまた過ちを繰り返すのか……。止めても聞かんようじゃな、アルス様。もう一度聞くが本当に行きなさるのか?」


「そうだ、くどいぞ、ジタン」


「……わかりました。狐谷に案内させましょう。ですが、どうなっても知りませんぞ。わしは何度も忠告しましたからな」


「ああ、もちろんだ。もし俺達に何かあってもジタンに責任を問うようなことはない。さ、そうと決まれば案内してくれ。その幻の秘境にな」


 ジタンの長い話が終わった。

 なので俺は早速目的地に行くことにした。

 九尾剣が生物由来ではないが九尾から素材が取れたというのはこのことだったのかと、非常に興味深く話を聞くことができて楽しかった。

 だが、狐谷には行くなと言うジタンの忠告はきかなかった。

 こっちはむしろそれを目当てにやってきたんだ。

 行かないなんて選択肢は最初からない。


 こうして、無理やりアーム家から案内人を出してもらってバルカ軍はそのまま九尾の元生息地、狐谷へと向かっていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今235です、ネタバレです。 名前を消滅させたら魔法も無くなる訳で、黒焔を消させるのは勿体ない気がするのですが、そこら辺どうなのでしょうか? せめて、曾孫あたりを手元に置いといて忠誠誓わせ…
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