取引
「坊主、じゃなかった。アルスだったか。使役獣が魔法を使えるかだって? 変なことを聞くやつだな」
俺は疑問に思っていたことを次に行商人がやってきたときに思い切って聞いてみた。
まだレンガの需要は落ちていないようで、作った分だけ売れている。
俺の質問を聞いた行商人は自分が連れてきた荷車を引く二足歩行のトカゲ型使役獣をなでながら答えてくれた。
「さあな、そんなこと俺は聞いたことないが……。多分いないんじゃねえかな」
この世界へと転生してきて感じるのが情報の貴重さだ。
田舎の村に生まれ住んでいる俺では知らないことが多い。
だが、俺よりもあちこちを歩き回って商売をしている行商人が聞いたことがないというのであれば、おそらくそれは正しいのだろう。
もしかすればどこかに魔法を使用可能な使役獣がいるのかもしれないが、少なくとも一般的ではないということだ。
「って、そんなことを聞くってことは使役獣の卵が無事に孵ったのか?」
「うん。俺のは馬型だから荷物運びできるよ」
「そりゃあいいな。アルス、ちょっと見させてくれよ」
行商人が食いついてくる。
これまで見たことがないような笑顔だ。
まあ、いいだろう。
ヴァルキリーにはとりあえず人前ではむやみに魔法を使用するところを見せないようにといい含めている。
さっそく俺はヴァルキリーを呼びに行ったのだった。
※ ※ ※
「コイツはいい。すごくいいぞ、アルス。荷運びができるってのもいいが、それ以上に見た目がいい。白色っていうのはお偉方が好きな色だからな」
「よかった。だけど、ヴァルキリーは売らないつもりだよ」
「ヴァルキリー? コイツはヴァルキリーっていうのか。でも、なんで売らないんだ? お前、もともと金がほしいって言って使役獣の卵を全財産で買ったはずだろ」
「そうなんだけどね。やっぱり愛着がわいちゃって。この子は手元に置いておきたいなって思ってるんだ」
ぶっちゃけ愛着よりも魔法が使えるという点が気になるというのが本音だ。
ただ、手元に残しておきたいというのも正直なところだ。
使役獣という特性からかヴァルキリーはこちらの言うことをすごくよく聞く。
更に、子供の俺よりも力がある。
労働力として考えてもいてくれたらすごく助かるのだ。
そんな俺の意見を聞いて行商人が考え込んでいる。
しばらく、うーんと顎に手を当てて思案していたが、よしと頷いてこちらを見据えてくる。
「わかった。それなら、俺と取引しないか?」
「取引? なんの?」
「使役獣のことだよ。実はな、俺は今手元に使役獣の卵を5個ほど持っているんだ。こいつをお前に譲ってやろう」
「そんなことしてもいいの? 安いものじゃないでしょ、使役獣の卵って」
「もちろんタダでとは言わない。俺は商人だからな。取引の内容っていうのはこうだ。俺がお前に使役獣の卵を提供する。そして、その卵をお前が孵化させて育てる。そうしたら、その使役獣は俺が買い取るっていう取り決めだ」
「えーっと、要するに卵をやるから使役獣の売り買いを独占させろっていうことかな?」
「理解が早くて助かるぜ。そういうことだ。お前の使役獣なら買い手に困ることもないだろう。なら最初に損をしても十分もとが取れるさ。知らない仲でもないしな」
そう言ってグッと親指を立てながらニカっと笑う行商人。
どうやら大した稼ぎにはならなかったサンダルづくりをしているときから付き合いがあるおかげでそれなりの信用も得ていたようだ。
確かに、持ち逃げされる心配もほとんどないし、行商人側から見ればあまりデメリットもないのか。
それに対して俺の方はどうだろうか。
こっちもさほどデメリットはないような気はする。
だが、最低限の条件は決めておこうか。
行商人側は俺に使役獣の卵を無償提供すること。
俺はそれを育てて行商人のみに販売すること。
使役獣の売買をする数やタイミングは俺が決められる。
金額についてはそのつど交渉する。
もし仮に俺に大幅な損がでた場合には、こちらから契約を切ることが可能とすること。
上記の条件は1年契約とし、契約更新の際には新たに条件の変更が可能などなど。
思ったよりも俺がいろいろと条件を言い出したときは行商人も渋い顔をしていたが、なんとかこのへんで契約をまとめることができた。
といってもお互いそこまで損をするような内容にはなっていないと思う。
もしかすると商人特有のあれこれで裏をかかれるかもしれないが、それはまあ仕方がないだろう。
とにかくこうして俺は使役獣の卵を安定的に手に入れることに成功したのだった。
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